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第1話 目覚め

――あれ?ここ、どこだ?


裕斗は何も見えない、何も感じない暗闇の中にいた。

何かないかと手を伸ばすが何もつかめない。いや、そもそも手すらない。


――(ひと)って、死ぬとこうなってしまうのか?


漠然とそう思いながら一人闇の中をただよう。

どのくらいそうしていただろう。少なくとも1日や2日じゃなかったはずだ。


そんな時、突然暗闇の中に光が差した。


光がこちらに近づいていき…いや、こちらが光に吸い込まれていき、視界全てが光に包まれていった。


「う…う―ん…」


パチリ、と裕斗は目を開け、ゆっくりと体を起こした。


「どこだ?ここ…」


きょろきょろと周りを見渡す。今裕斗がいるのは森の中のようで、周りには誰もいなかった。


――どうして僕…こんなところに…


そう疑問に思いながら裕斗は立ち上がり、ぴょんぴょんとその場でジャンプした。

体には全く痛みはなかった。傷も見た限りない。


ありえないことだ。あんな想像を絶する痛みが夢なわけがない。


それに、裕斗には確かに自分が死ぬ感覚があった。

それなのに、目が覚めたら体や傷も消え、こんなどこだか分からない場所にいる。


となると、だ。


「まさかとは思うけど…異世界転生ってやつ?」


裕斗はその考えに行き着いて、すぐに頭を抱えた。


だって、本当に異世界転生なら自分は右も左も分からないこの世界に放り込まれたことになる。そしてここは森の中、魔物(この世界にいるかどうかは分からないが)なんかと出くわしたら即ゲームオーバーだ。


「と、とりあえず歩いてみよう。探せば誰かいるはずだ」


裕斗は歩こうとした。


その時、ズシン、ズシン、とまるで地震のような音が鳴った。

バキバキバキ、と木を押し倒しながら進む音も後ろから鳴り響く。


「な、なに!?」


裕斗は後ろを振り返る。同時に、音の正体も姿を現した。


それは、巨大な騎士だった。


身長は10m程。全身に西洋騎士を思わせるモスグリーン色の鎧、頭には同色の(かぶと)を装着し、右手には巨大な剣を持っていた。

そしてバイザーから一つの不気味に光る真紅の瞳が覗き、胸には赤黒い宝石のようなものが埋め込まれている。


人間には見えない。まるで機械…ロボットのようだった。


ギロリ、と紅い瞳が裕斗を睨んだ。


「ひ…!」


裕斗は恐怖のあまり腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

ロボ騎士はズシン、ズシン、と音を立て、裕斗に近づいてきた。


――に、逃げないと…


裕斗は逃げようとしたが、腰が抜けて動けなかった。

そうしている内にもロボ騎士はみるみるうちに裕斗の前まで近づいていき、そして、右手に持っていた剣を天高く上げ…裕斗に向けて勢いよく振り下ろした。


――殺られる!


裕斗は思わず目を閉じ、体を硬直させた。


その時、後ろかビュン!と風を切るような音が聞こえ、何者かに体を腕に回される感触を覚えると同時に、体に急速なGがかかった。


ドゴォォォン!!!とすぐ後ろから地面が爆ぜるような音が聞こえる。


「…え?」


一体何が起こったのか分からなかった裕斗は恐る恐る目を開けた。


そして、目を開く。


裕斗は今、宙を浮いていたのだ。


「え!?ちょっ、ま、は!?」


「静かにしろ」


困惑する裕斗に、すぐ近くから声がかかった。遅れて、裕斗は自分が抱えられていることに気付く。


裕斗を抱える謎の人物は、彼を抱える左腕ではなく右腕に持っていた小さな球体をモスグリーン色のロボ騎士に投げつけた。


パン!とその球体は弾け、周囲を濃い霧が覆い始める。


「こ、これって…」

「口を閉じてろ」


謎の人物はそう言った。


「え?どういうい…」


その瞬間、裕斗の体を強烈なGが襲った。

謎の人物と裕斗は上昇し、天を覆う木々を超える。

その後、どこかへ向けて急発進した。


「~~~~~~~~~~!」


声にならない悲鳴を上げる裕斗だったが、木々に覆われる大地に、城壁で囲まれた街があるのを見つけた。


謎の人物はその街へと向かうように速度を上げ、城壁を超えると急降下した。

地面へ衝突する直前、謎の人物は地面に足裏を向けるように体制を変えた。

ゴウ!と靴の裏から風が噴出し、とん、と謎の人物は華麗に着地した。


「ここ、は?」


キョロキョロと周りを見渡す。上空から見た通り、ここはどこかの街…もしくは国のようで、街並は異世界定番の中世風だ。だが、人気はまったくと言っていいほどなかった。


と、その時、


「離すぞ」


「え?うわ!」


パッと腕の拘束が外れ、裕斗は落下する。


裕斗はとっさに手の平を地面につけ、なんとか頭が激突するのを防いだ。

ホッと息をつく。


「怪我はないか?」


と、謎の人物は聞いてきた。


「ええ。はい……」


先程ケガをしそうになったんですがね、と言いそうになるのをグッとこらえ、謎の人物を見た。


そして、裕斗は息を飲んだ。


その人物の見た目の年齢は14…15歳くらいの小柄な体型。髪は金髪で鎖骨に届くくらいの長さのそれを一つにまとめ、ポニーテールにしている。左眼は青色をした綺麗な瞳で右眼は怪我をしたのか眼帯で覆われている。


そして顔は、整ったやや中性的な顔をしているが……少女のもので間違いなかった。


そう、裕斗は先程まで女の子と密着していたのだ!


「?どうしたのだ?」


ずいっと少女の端正な顔がこちらに近づく。

これまでの人生、女性との付き合いがない裕斗にとっては心臓に悪かった。


「あ!いや、その……」


しどろもどろになりながらも、裕斗はなんとか何かを言おうとした。


しかし、


「ルイーゼ!これはどういうことだ!」


声とともに1人の女性が少女の元へ近づいてきた。


年齢は20歳後半くらい。長い黒髪にキリッとした鋭い瞳を持つ美しい女性で、先程の少女と同じ黒い制服を着用し、腰に剣をさしていた。


「今はこの国が滅びるか否かの一大事なのだぞ!?それなのになぜ敵に近づいてまでそんな小僧1人を助ける危険を冒した!」


黒髪の女性が怒鳴る。


―いや小僧って……僕はもう17なんだけど……


裕斗は心の中で呟いた。

その時、裕斗を助けた少女……ルイーゼが進み出た。


「申し訳ありません隊長。……しかし、私がこの少年を助けたのには理由があります」


「何?」


ルイ―ゼの言葉に隊長と呼ばれたその黒髪の怪訝(けげん)な顔になった。


ルイ―ゼは告げる。


「彼には適性(・・)があります」


「何だと!?」


隊長は驚きの声を上げた。だがそれは一瞬のことですぐに表情を引き締め、少し考えるような顔をした。


「分かった。ルイ―ゼ、彼を格納庫へ案内しろ」


「了解しました」


ルイ―ゼは(うなず)くと、指で輪っかの形を作り、口にくわえてピュー、と口笛を吹いた。

すると、どこからともなく馬が近づいてきた。


ルイ―ゼは馬に乗り込み、裕斗に向かって手を伸ばし、「ついてこい」と言った。


―ーえ?これついていかなきゃいけないの?


裕斗はどうすればいいのか分からなかった。しかし、置いていかれて一人ぼっちになったらアレなのでとりあえず彼女の手を握った。

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