交差点にいる悪魔
人里離れた場所にあるその交差点は、地位や名声など己が望んだものを与えてくれる悪魔が現れる。欲しいものや成し遂げたい事があり、己の力だけでは実現できないならば、そこに行くとよい。悪魔がそれを与えてくれるだろう。ただし、命と引き換えに。
私は、その悪魔と人間との契約を管理する者。罪深き人間が悪魔にどの様な欲望を突き付けたのかを記録する者。私が管理するエリアの悪魔たちから回収したこの黒い結晶体には、人間と会話した「悪魔の声」が記録されている。それを後世の悪魔たちに伝えるために文字として書き残すのだ。
それでは今宵も作業を始めよう。
<<トラック1>>
『何が望みだ人間よ。お前の命と引き換えに望みを1つ叶えてやろう。大金持ちになりたいのか。よろしい、このカードを使うとよい。好きなだけ金が引き出せる。ただしお前の余命は半日だ。残り人生を謳歌せよ。』
うむ、なるほど。交差点からの移動時間を考慮しての余命の設定か。権利を与えても使わせないという事だな。有無を言わせず契約締結して即行使するとは、実に悪魔的で容赦ない。では次。
<<トラック2>>
『何が望みだ人間よ。お前の命と引き換えに望みを1つ叶えてやろう。ちっ、世界を征服したいのか。よろしい、今からお前は世界の人々を自由に操れる。ただしお前の余命は1時間だ。大きな野望はその対価も大きい事に留意せよ。』
うむ、なるほど。権限を与えた上で、自由に操る方法を教えることなく、さらに1時間しか余命を与えていないとか、パニックにさせたのか。欲望が叶ったかどうか判断ギリだろこれ。余程気に食わない奴だったのだろうな。舌打ち入ってたし。悪魔と対峙するためにはコミュ力も必要だからな。しかし容赦なさすぎだな。では次。
<<トラック3>>
『何が望みだ人間よ。お前の命と引き換えに望みを1つ叶えてやろう。おぉ、ギターが上手くなりたいか。過去にも居たなそんな奴。よろしい。確か余命は2年になるが・・・。もう今日から上手くなってると思うので、ぜひ有名になってくれたまえ。いや短い言うなや、決まり事や。だから精一杯頑張れや。じゃあな。』
うむ、なるほど。過去の人間の記憶があるから応援したくなった感じか。余命設定は事例通りなので問題ないな。容赦ないばっかりでもないんだ。安心した。では次。
<<トラック4>>
『何が望みだ人間よ。お前の命と引き換えに望みを1つ叶えてやろう。あ、3つに増やしてとかの増やす系は受け付けてません。繰り返しになるようなやつとかもダメです。じゃあ望み無いって?冷やかしかよ。帰れっ』
うむ、なるほど。たまに来るな、この手の事言うやつ。昔それに引っかかって人間の言いなりにされた奴いたなあ。あの時は「次に言う望みを叶えて欲しい」ってのを延々繰り返されてて、最後人間に許してって懇願してたもんな。聴いてる方も辛かったし。あいつ「もう辞めたい」って実家帰ったっけ。あの時は管理不行き届きだとか言われてめっちゃ役員に叱られたなぁ。しかしこの悪魔はちゃんと対人マニュアル読んでたんだな。二度と叱られないようにマニュアル作った甲斐があったな。では次。
あらっ、終わりか。まだまだ時間はいっぱいあるので、もう1個回収しに行くか。さっと取りに行けるところは・・・っと。お、あいつのところへ行ってみるか。
・・・※ 誰もいない暗い交差点 ※・・・
「おーい、エリアマネージャー様が結晶体を取りに来たぞー。どこだー?」
あいつ居ないなあ。真面目な奴だからサボりとかでは無いとは思うが・・・。
あ、あいつの結晶体が落ちてた。何があったか知らんが、持ち帰って解析しよう。
・・・
さて、何が記録されているのか。
<<トラック1>>
『何が望みだ人間よ。いやえーと、何が望みなのかなボクは。』
子どもが来たのか。珍しいな。
『お友達になってほしいって? いやあの、ここはね、命を差し出して叶えて欲しい望みを伝えるところなんだよ。望みとかないの?
やっぱお友達になってって?私と?他の人じゃダメなの?困ったなあ。じゃあさ、なんで私にお友達になって欲しいか、訳を教えて貰えるかな?』
悪魔とお友達になりたいとか、悪魔に叶えて貰うものなのか判断に迷うな。
『うんうん、狼に育てられて、天涯孤独になって、初めて人間に会ったからなの?いや私人間じゃ無いんだけど。でもさ、よく狼に育てられてて人の言葉喋れるよね。狼が普通に喋ってたって?それ狼じゃなくて人狼じゃないのかな。違うって? 狼なのね。』
狼は人間の言葉は喋らないからな。人狼だろうな。
『で、狼さんとは はぐれちゃったの? 殺された!? 人間に? 青白くって八重歯が牙のように鋭くて血を吸ってる人に銀の矢で刺されたの?それ相手は吸血鬼だね。吸血鬼と人狼の抗争に巻き込まれた系だね。ほら、育ててくれたのはやっぱり人狼じゃないかな。違うって言っても銀の矢だしさ・・・ごめんごめん、わかったって。狼さん、狼さんね。』
どう考えても人狼やん。吸血鬼とは天敵だし。なんでこだわるのかな。
『ごめんって。機嫌直して、ね? 気になる点いっぱいあったからさ、つい深掘りしちゃった。お友達の件ね、うーんと、痛い痛い!わかった、わかった、わかりました。泣きながら叩かないで!お友達になりますっ』
完全に人間の子どもに懐柔されてるやん。
『あーでも、お友達からは命取れないからなー、上手いところ盲点突かれた感じだなー。エリマネに怒られちゃうなー』
うわ、これ対人マニュアルに追記しておかないとまずいわ。鋭いなこの子。
『怒られるくらいなら・・・辞めるか。ここでずっと立ちっ放しも結構辛かったし、考えてたところでもあったんだよね。君と友達になったから、一緒に自分探ししよっか。』
辞めたんかーい。結晶体捨ててあったんはそれでなんかーい。また役員に叱られるやんかー。
・・・※ ちょうどその頃、人狼の村では ※・・・
「ただいまー。クロスロードの悪魔を勧誘してきたー。チョロかったー。」
「ねえキミ、どうゆうこと?」
「吸血鬼との争いが中々決着付かなくてさー、新たな戦力として使えそうな悪魔を入れたかったんだよ。因みに俺も人狼ね。あっさり騙されたね」