第十七話 緒方さん
こんにちは! ワセリン太郎です!
明くる日の放課後。
「そしたらね、今からやるから見といて?」
楽しそうに頷くミクと、ストローをくわえて呆れた様にこちらを眺めるクソ森。
「うんうん」
「マコトお前……正気か? アタマ大丈夫か? もはや痛々しいとか、そういう状況を遥かに飛び越えてるんだが。言うまでもないけどな、五秒でバレるぞ? そんなウソ」
「ミクちゃん、ちゃんと見といてね! うっせ、黙って見とれ、野糞モリモリ」
「……」
「うんうん、見てる見てる! あとマコトちゃん、何かすっごくお父さんの頭みたいな臭いがするね!」
ふふふ、見ておれアホのウンコ森。マコトの事を馬鹿にしていられるのも今のうちだ!
そう思って己の腰を見下ろすと、もちろんそこには快調に回転し続ける換気扇。
「てかマジで、おっさんのポマードみたいな臭いを吐き出すんだな……そのベルト。一体、どんな構造してるんだ? 俺、“変身”なんて与太話より、そっちの方が余程気になるわ」
無視!! 喋る野球ボールは断固無視!!
よし。身体も熱くなってきたし、ちゃんと丹田の付近に“熱源”も感じる。この様子なら、例の緑の霧を吸い込む量も充分だろう。いける。
そうして私は……ゆっくりと左拳を腰溜めに引き、交差するように右手を斜めいっぱい突き上げた。
「いくよっ! せーのっ、変……身っ!!」
──バチバチッ──!!
「おおー!」
「う、うわぁぁあっ!?」
閃光が収まり、真っ白に弾け飛んだ視界がゆっくりと戻ってくる。
先程まで私を馬鹿にしていた森は、口に放り込もうとしていたフライドポテトを空中で停止させたまま……唖然とした表情で動かなくなっていた。
奴は心底驚いたのか、座席に座ったまま、まばたきすら忘れ……まるでお地蔵様か何かの様に固まっている。ふふふ、ざまあみろ! そのまま石像と化して、一生街の交通安全でも祈っているが良い! 苔のむすまで!!
──ぱちぱちぱち!!
「おぉー! マコトちゃんすっごー! 何これ、どーなってんの? ねえこれ何のアプリ? いくらだった?」
目を丸くし、拍手をしながら訳の分からない事を口走るミク。
アプリ??
どうやらこの女、スマホのアプリで課金しさえすれば“世の中何でもできる”と考えているらしい。でも多分それ、ちょっといろいろ難しいと思う! マコトはアプリとかあんま詳しくないし、スゲー高い機種とか買えば、もしかしたら変身とかも出来るのかも知れんけど。
それから彼女はスクッと立ち上がり、変身し終えた私の角を珍しそうに触ったり、変色した髪の毛をワシャワシャとし始めた。ちょっ!? あんまアタマ触んな!
「ねぇ何これすごい、火が出てる! おばあちゃん家にある、古いガスコンロみたい! でも熱くないんだねぇ」
おばあちゃん家?? ミクの家はIHヒーターだとでもいうのか? ウチのお父さんが『あんなのはお金持ちの家にしか置いてない』とか言ってたし! クソ、金持ちめ! 我が家は築二十五年で未だにガスコンロのままだけど、別に全然悔しくないもんね!!
森は私を見たまま呆然としていたが……急に思い出した様に口を開いた。
「……は? マコト、おま……これ一体どゆこと? ってかマジで何なんだよ……」
へいへいピッチャービビってる! あっ、これは失礼。こやつはピッチャーじゃなくて万年補欠部員でした!
しかしまあ二人が心底驚いたのを見て、正直そう悪い気持ちはしない。
「だからさぁウンコ森、学校で昼休みに教えたじゃん? あれあれ、もう忘れたん?」
「いやいや! そんなん普通、小学生低学年の妄想ネタとしか思わないだろ……」
「ふふふ、だがマコトはこうして“華麗に変身”できる様になったのだよ、君。この姿こそが真の魔法少女……とでも言えば、君の様なパチンコ頭にも理解できるだろうか? あとミクちゃん、これスマホの課金アプリと違うからね」
「えー、アプリストア売ってないの? 何で??」
今日の昼休み、教室でこの二人には“昨日撮影した写真”を見せたんだけど、その時は何故だか全く信用されなかった。
その際、森は『おまえさ、アタマ大丈夫?』等と宣い、ミクに限っては『えー、何これカワイイ! 何のアプリ? 教えて!』などと言い出す始末。
だがどうだ? そうやって私を馬鹿にしていた目の前の“ハゲ”は、完全にぶったまげ、まるで口から魂が抜けた様になっている。ざまみろ!!
「こ、高校生にもなって、そんな与太話を誰が信じるかよ……」
「ふん、往生際の悪いハゲめ。その“与太話”が実際に目の前に現れたのはどんな気分じゃ?」
「い、いや。そ、そんな事言ったって……ミ、ミク、お前もちょっとは驚けよ、“変身アプリ・機種”とか検索してる場合じゃねーよ」
ふふふ、声が震えておりまするぞ? いくらクソ森の奴が否定しようが、この神々しく変身したマコトを見た以上、何をどうこうと言えるものか。ホレ見ろ、やはり黙り込んでしまいおった!
「ふふん、ウンコフォレスト。やはり君はその程度のつまらない男だと思っていたよ。だがしかし! この神聖なる魔法少女と化したマコトさんの……」
突如、思い出した様にツッコミを入れてくる万年補欠男。
「いやいや! お前これ、“魔法少女”っていうよりさ……」
「うんうん、マコトちゃん“鬼っ娘”かわいい!」
身長の高いミクに背後から抱きかかえられ、頭をワシャワシャと撫でられながら、ふと思う。
(あれ? もしかして、じゃなくて……やっぱりこれ、魔法少女じゃなくて“鬼”にしか見えないのでは??)
その時だった。
「あっ……」
私達の陣取る席から少し離れた位置に、見知った……というより、昨夜見た顔を発見したのだ。
彼女はこちらを呆然とした表情で見つめて硬直し、それから暫く経つと、手に持ったトレーをカタカタと大袈裟に振るわせながら、血の気の引いた唇で『アワアワ』と何か喋りたそうにしている。
何だ? 何してんだ? とりあえず声を掛けてみよう。
「えるるん。君、何しよん?」
突然、大股で歩み寄ってくる彼女。その表情は何故だか真っ青だ。あっ、トレーに期間限定のシャカシャカポテトが乗っとる……
「な、な、な、何をしているんですか、貴女は──!?」
蒼い顔をしてどしたんだろ?
「なにが?」
「何が? じゃありませんよ!? 呼び出されて来てみれば、何故にこんな所で“そのような姿”に変身しているのですか──!?」
公共の場所で騒がしい奴っちゃ。
実は昨日アル君のすすめで、彼女と別れる前に電話番号とか諸々を交換しておいたのだ。で、今日の放課後に落ち合って話そうと約束してたんだけど。
てか、何いきなりキレてるんだろ? えるるんホント怖いわ。カルシウムが足りてないんじゃないだろうか? もしかして“ヤベー奴”なのかも。
「あんね、えるるん。君、“にぼし”食べた方がいいと思う。あと牛乳も!」
「マコトさん、ひとつ確認しておきますけどね! 一体ここを何処だと思ってるんですか──!?」
ん? 何処ってそりゃあ、ここは……
「うん、マ〇クやけど?」
「そうですっ! マ〇ク! マ〇クなんですよ! わかってます? それを貴女は!! 何故に真っ昼間のマ〇クという、世界レベルで有名な食品チェーンのイートインスペースで、さも当たり前の様に“変身”して遊んでいるのですか──!?」
えらい剣幕。
「……うん?」
「……うん? じゃないですよ!?」
まあ、そう言われたらそうかも知れんけど。
「でもさ、他のお客さんいないし。別に良くない??」
「良くありません! そもそも普通、“変身して戦う人”というのは“そういう力”をひた隠すものなんです! それにほら、今だって店内にはあの御老人がいらっしゃるじゃないですか!!」
そう言った彼女が指し示す先には……こちらを向き、テーブルに座る人影がひとつ。
「ああ、あれは緒方さんのおじいちゃんだからダイジョーブ」
「お、緒方さん……?」
そう、あの人は緒方さん。
マコトん家の近所のおじいちゃんで、御歳は九十四歳にもなる。ちなみにマッ〇のチーズバーガーが好物らしく、この時間にお店を覗くと、しょっちゅうあのテーブルに座っていたり。あとドリンクは、いつも水筒に入れたほうじ茶を持参。その件については、お店側も見て見ぬふりだ。
いいなぁ、緒方さんのおじいちゃん。明日からマコトも年金貰えないかなぁ。食っちゃ寝して暮らしたいなぁ……でも年金ってどうやったら貰えるんだろう? あれって税金払わないと貰えないんだっけ? 何か払わないで貰える方法とかないのかなぁ? ああ、一生働かずに年金生活したいなぁ。
と、それは置いといて。
緒方さんには小さい頃から可愛がって貰っているし、今更マコトが少し変身したぐらいで……別にどうって事はないと思う。だっておじいちゃん、さっき変身した時も、『クワーッ』とか言いながら上の総入歯をボッコリ出し入れしてて特に反応なかったし。
てか緒方さん、たまに間違えて、入れ歯を包み紙の回収ボックスの中に“返却”してたりするんだよなー。なので帰った後に店員さんが気付き、慌ててボックスをひっくり返してる事が度々ある。店員のおばちゃん曰く、すれ違って挨拶する際に、おじいちゃんのお口が妙に窪んでいるからわかるとの事。
そういや探すのを何度か手伝って、お店の人に貰ったハンバーガーの容器で“入れ歯”を包み、お家に届けた事が何度もあったなー。あれ何回見ても面白いんだよね、ハンバーガーが入ってる筈の紙容器の蓋を開けたら……中からボッコリ入れ歯が出てくるやつ。毎回、緒方さん家の玄関でおじいちゃんと二人で蓋を開けて大笑いするの。ポテト容器も収まりが良くていい感じだけど!
そうして『うんうん』と入れ歯に思いを馳せるマコトを無視し、執拗に騒ぎ立てるえるるん。
「いやいやいや! そういう問題じゃないんですよ!? とにかく一旦場所を変えましょう!」
「えるるん。君、公共の場で騒ぎすぎやと思う。もちっと“常識”というやつをだね……」
「お店の中で“変身”する様な、無茶苦茶な人にだけは言われたくありません! それより、もうすぐ主任……じゃなかった、アルさんも合流する事になってますから」
「は? ネズミの入店はんたい!」
「とにかく、どこか人目の無い場所へ……」
「だってさ。どこにする?」
そう言ってクソ森とミクを振り向いた。私の問いかけに、『別にどこでも?』といった様子の二人。
ようやく彼等の存在に気付いたのか、えるるんは再び頭を抱え始めた。今度は一体何だというのだろう?
「ああ……何故、一般の方々がここに……」
どうも今更、クソ森とミクの存在に気が付いたらしい。
「そりゃあここはマ〇クやし、別に“一般の方々”がいても不思議じゃないでしょ。あっ! あんね、二人とも紹介するね? この子、歩くゴミ箱のえるるん! ほんとバキュームカーみたいで凄っごいの!」
「ちーす、あたしミク。えるるんちゃん、金髪ちょーかわいい! 何で? ゴミ箱なの? ゴミ箱好きなの??」
「どうも……俺、森っていいます。てかマコト、なんつー紹介だ」
そう挨拶した二人へ、泣きそうになりながら応える彼女。
「ど、どうも初めまして……」
「でね、えるるん、こっちが同じクラスのミクちゃんで、コレが喋る野球ボールのクソ森……」
「もう今ご本人達からお聞きしましたよ。ちゃんと人の話を聞いてて下さいよ。だいたい何ですか、喋るボールって失礼な……」
こうしてとりあえず、皆で近くのカラオケボックスへ移動する事となったのだった。
店を出る際、私は緒方さんが座る席に近付き……おじいちゃんの耳元に顔を近づけて大きな声で挨拶する。
「おじーちゃん! マコト! もう帰るね!」
振り向き、大きく頷く緒方さん。
「あーらー! マーコートーちゃん! かーえーるーのー?」
「かーえーるー!」
「はーい! 気を付けてね-!」
「はーい! おじーちゃんもねー!」
「はいはーい!」
「ばいばーい!」
大声で話す私達を見て、再びえるるんが頭を抱えた。
「マコトさん、角! 角! ご挨拶はせめて、変身が解けてからにしてくださいよ──!?」
騒がしい奴っちゃ。
こちらに手を振る緒方さんを見るが……ホラ、別に気にした様子はない。単に頭から二本角が生え、ちびっとだけ紫色の炎が揺らめいているだけだ。流石に昨日はビックリしたけど、マコト自身は何度も変身して見慣れたし、慣れるとそう大した事には思えなくなってきた。
「えるるんさぁ、いろいろ細かすぎ。あんま神経質になると……ハゲるよ?」
「マコトさんのお陰で、既に十円禿げが出来そうですよ……」
それから変身も解け、マ〇クを出た私達は……
少し離れた場所の横断歩道で国道を跨ぎ、道を挟んで反対側に位置するカラオケボックスへと辿り着いたのだった。
えるるんはトートバッグから何かを取り出しつつ建物の影へと隠れ、それを耳元に当ててブツブツと何か喋っている。
気になって覗き込んでみるが……あれは何だろう? 何やら“スーパー銭湯の下駄箱の鍵”みたいな形だな。
うん、あれは木札の様だ。てかあの女、木で作った札をスマホみたいに耳に当てて喋り掛けてる……
昨日は“魔法”を使ったのを見たし、今日は今日で、ああやって木札に話し掛けている。やはり彼女は“かなりヤベー奴”なのではないだろうか??
ふとお店の入口を覗くと、ミクが随分と慣れた様子で受付の店員さんと談笑している姿が目に留まった。
まったく高校一年生の分際で遊び慣れしおって……あのアバズレめ! しかし今日のところは“任せて”おいてやろう! ふん、別にマコトは、子供だけでカラオケボックスに入るのが初めてで怖いとか思ってねーし! もう高校生やし!!
そう考えながら、シュッシュと“正拳突き”で空を切る私を……かなり“引いた”様子で眺めるクソ森。何見てんだよ! こっち見んな!
「マコトお前、何やってんの? あっ、もしかして……カラオケ入るの初めてか??」
ち、ちがうもん!!
「は、初めてじゃねーし! おとうさんとおじいちゃんと来た事あるし!!」
「そ、そうか。それはかなり上級者……だな」
「あたり前田のクラッカ-!!」
「……」
よし、完璧! 同級生に舐められない様に、上手く切り抜けてやったった。
そうこうしていると、建物の影でゴソゴソしていたえるるんが、『すみません皆さん、お待たせしました』と言いつつ戻って来た。先程の木札を使った“電話ごっこ”は一体何だったのだろうか?
そう考えていると、入口の奥からミクが手招きする。
「みんな、いーよー。もう部屋借りたし」
不思議そうなクソ森。
「あれ、お金は? 割り勘にしないと。後払いなの? 俺、あんまこういうとこ来ないから、よく知らなくてさ」
ああそうだ、お金を払わないと。
だが、ニッコリ笑ったミクはこう言ったのだった。
「あっ、今日は大丈夫! 店長さんとも仲いいし、ドリンクもサービスしてくれるって!」
「えっ、でも。さすがにお金払わないっていうのは……ねぇ」
私の言葉に、森とえるるんも頷いた。
だがミクは私の耳元に顔を近づけ、こう呟いたのだ。
「あんねマコトちゃん。店長さん、“杉っち”とも仲いいんだ。それに行方不明になってからもメッチャ心配してくれててさ、こないだの休みの日もずっと杉っちの事を探してくれてたの」
「そうなんだ……」
「うん。それでマ〇クからここに来る前に、杉っちを探すための話し合いがしたいって電話したんだ。そしたら場所、好きに使っていいよって。だから……ね?」
そこまで聞いた森がカウンターへ近付き、『ありがとうございます』と深く頭を下げた。
笑顔で『いいよ、いいよ』と笑う店長さん。人の良さそうなお兄さんだ。
「杉本ちゃん……絶対みんなで見つけないとね。俺も出来ることは手伝うから」
「「ありがとうございます」」
皆で口々にお礼を言い、案内された部屋に向かってぞろぞろと歩く。
それから暫くして……
自己紹介を終えた私達は、互いが知っている事についての情報交換を開始した。
「それでエルルさん達は、最初から“あの怪物”を追っていた……と?」
森の言葉に頷くえるるん。
「はい、実はそうなんです。あの怪物達については色々と守秘義務がありまして、すべてをお伝えする事が出来なくて申し訳ないのですが……あっ、でも基本的にそれが捜索の支障になる様な事はないと思います」
少し考えていた様子のクソ森が顔を上げた。
「いや。何か事情がありそうだし、利害も一致してるので、お互いに協力さえできれば……俺は別に構いませんよ」
「そうですか、助かります」
「エルルもマコトちゃんみたいにちっこくて可愛いねぇ」
そう頭を撫でられる彼女は、脇からちょっかいを出すミクの手を鬱陶しそうに追い払いつつ、持ってきたトートバッグの中から何か取り出した。
「それは……新聞?」
よく見ると記事部分の上に新聞名が印字してあり、地元のローカル新聞の切り抜きだとすぐにわかった。この新聞、当然、我が家も取ってるし。
「はい」
頷く彼女。だが次の瞬間、ここ数日で妙に“聞き慣れてしまった声”が室内に響いたのだ。
「そう! それはここ神丘市のローカル新聞だよ」
「──!?」
こ、この声は──!?
「やれ畦道にホタルが出ただの、田んぼに水が引かれただの、あまりに地元欄の記事の内容が薄く、購読する価値が“謹告欄”にしか無い為……『夕刊謹告』などと社名を揶揄されているローカル新聞……」
皆の視線がテーブルの上に集中するのを感じた。
ちょっ!? このネズミ、一体どこから沸いて出やがった──!?
「アル君──!?」
前脚を上げ、皆に挨拶して見せるクソネズミ。
「やあ、マコトちゃんご機嫌よう。それと……森君とミクちゃんは、直接お会いするのは初めてだね」
ご機嫌よろしくないです!!
「「──!?」」
驚く二人。そりゃそうだろう。突然テーブルの上にネズミが現れ、それがベラベラと日本語を話し始めるのだから。当然、理解が追い付かなくても仕方が無い。
てかありえない。ネズミがテーブルに登るとか絶対にありえない。衛生的にマジありえない。ここって殺虫剤置いてないんか――!?
皆に会釈をして片手……いや再び前脚をあげ、勝手に自己紹介をし始めるドブネズミ。
「私はハツカネズミのアルという。よろしくお二人さん。実は少し前からマコトちゃんやエルルと協力して“例の怪物”を追っているんだよ。勿論、怪物というのは、昨日マコトちゃんが倒した“一つ目”ではなく……君達二人が探している“ボロ布オバケ”の方を、と理解して貰って構わない」
えっ、知らんかった。アル君はそっちを追いかけてたのか。聞いてない……ま、いいや。
「マジかよ……」
「すっご! マコトちゃん言ってた“喋るネズミ”ってホントにいたんだ! 最初に話聞いた時、マコトちゃんって実は“頭ヤベー奴”なのかと思ったけど、ホントだったんだねー」
ミクにだけは“頭ヤベー奴”とか言われたくない。彼女の成績は学年最下位、そして私は順位でいうとその一つ上。つまり、マコトはそれだけ彼女より優秀であると言えるのだ。
しかし、普段はあまり隙を見せないクソ森が、こうも呆気にとられたマヌケな表情を何度も見せるのは、それはそれで悪くない。まあ驚く気持ちはわからんでもないけど。
そんなことより。
「ちょっとアル君、汚ちゃないからテーブルの上に乗らんでくれる?」
「そんな事言ってもねマコトちゃん、私が座って話を出来る場所はここしかないじゃないか」
彼女はそう言うと後ろ脚で立ち上がり、テーブルの上に置いてあった……“私のジュース”をチューッと一口啜りやがったあぁぁぁぁぁぁあ!?
「うわぁぁぁぁぁ!? マコトのジュースがぁぁぁぁぁ!!」
ストローから手を……いや前脚を放し、開き直るクソネズミ。
「別にいいじゃないか、女の子同士なんだし。男の子と間接キスでチューチューするワケじゃない。あっ、ホラあれだ、女子会だよ女子会! 女子会のノリというやつさ」
「何が女子会じゃ死ぬわ! ドブネズミと間接キスとか確実に死ねるわ!!」
「あはは、マコトちゃんクッソうける」
ミクのあほ、何笑ってやがる!?
えるるんが、騒ぐ私達を眺めながら……ゴホンと咳払いをした。
「えっとですね、みなさん。そろそろよろしいですか?」
「だめです」
「……」
私達がジュースについて騒ぎ出した辺りから、新聞の切り抜きをジッと見つめていたクソ森。すると彼は何かに気が付いたらしく……ボソリと一言呟いた。
「おいおい、この記事ってもしかして……」
「森君、気付いたみたいだね」
アルの言葉に、無言で大きく頷く森。
「クソ森、どしたん?」
「いいから。お前らもこれ読んでみろよ」
そう言うと彼は、こちらへ新聞の切り抜きを手渡して来たのだった。