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第十四話 魔法変身ヒーロー少女

 こんにちは! ワセリン太郎です!

 ごろんごろん……


 青緑色の血しぶきと共に、路上へ転がる巨大な目ん玉(・・・)。それを見たアルがポケットの中でボソリと呟いた。


「これはまた随分とスプラッタな光景だねぇ。何というか、昔やったスイカ割りの光景ってやつを思い出したよ」


「うっ……」


 えっと。自分でやっといて何だけど、確かにこれはちょっと返答に困るなぁ。


 それよりこの散らかり方は、スイカ割りというより……あの乱痴気騒ぎで有名なトマト祭りに例えた方が近いんじゃないだろうか?


 仮にこの現場をカーニバルの会場だとした場合、みんなで楽しく投げ合ったのはきっと……熟した赤いトマトなどではなく、青い血を撒き散らす謎の怪しい深海魚か何か、という事になるんだろうケド。


 いやいや、絶対嫌じゃわ、そんなグロいお祭り。


 そう思いながら眉をひそめ、足元へと視線を落とす。うぇ、あんま見たくないなぁ。


 私の踵落としで“全身”を粉砕された怪物は……どうやら今度こそ完全に沈黙した模様。確かさっきアル君が『アタマが弱点』とか何とか言ってたもんね。いやまあ正直、この飛び散ったパーツのどの辺りが“頭部だったもの”かを問われると、それはそれで回答に困るんだけど。


 とにかく。あまり詳しく見ずとも『生き物が破裂する様に爆散した』とわかる程度には……ぐっちゃぐちゃのバラバラだ。これならもう復活してはこないだろう。


「あと二体。これなら……戦える」


 そう呟きながらグズリ、アスファルトに深々と刺さった足を引き抜いた。


 うげ、これは思ったよりかなり深々と入ったな。(かかと)から振り下ろしたのに、(すね)付近まで地面に埋まってる! しかしマコトの身体も随分と……いや、もはや有り得ないレベルで頑丈になったものだ。


 着地時にすんごい音と地鳴りがしたと思うし、きっとご近所は地震か何かと思っただろう。付近住民が出て来なけりゃいいけど。そもそもあの高さから隕石みたいに地面へ落下したのだ。本当なら私自身も潰れたトマトの仲間入りを果たして……今頃は怪物と仲良く、ミックスジャムになっていたはず。


 だけど正直なところ、脚に感じた衝撃といえば、試し割り用の瓦を十枚ぐらい……かな? とにかくそのぐらいの量を踏み割った程度のもの。ありえない。ホント一体何なんだろう? この鋼の様に強靭な肉体は。マンガじゃないんやぞ。


 でも、これは全く……いや、消しゴムのカス程にも奴等に負ける気がしない。


「キ、キシャァァァァァ……」


 思わぬ反撃で仲間を失った怪物達は、驚いた様にこちらを凝視し、固まったまま一向に襲ってくる様子はない。私は力強く踏み込んで重心を落とすと、軽く肘を下げて拳を平に構える。


 丹田からフッと息を吐き、──グッ──と握りに力を加えると、それに呼応する様に拳へ雷撃が纏わり付く。


 うっひゃあ何じゃこれ、いや、これはちょっとカッコイイかも!! それにこの握力、もはや私のものではない。いや、私がどうこうと言うより、ハッキリ言うと人間のものじゃあない。正直、目の前の怪物程度の手足なら、力任せに掴んでそのまま毟り取れそうな気すらした。


 ふと思う。


 多分、今の私は……いや、多分とかじゃなくて間違いなく、“人ではなくなっている”のだろう。そこは見なくてもわかる。感じるのだ。


 先程からチラチラと視界に入る、白髪を超えて純白に染まった髪の毛。己の額に突き出し、頭蓋の一部と化した二本の角。その先端にユラリと灯る薄紫の炎。そして何より、この身体の奥底から無尽蔵に湧いてくる“凶暴な力”。まるで自分が暴力の化身か何かにでもなったみたいだ。


 そうだ、こんなものが“人”であるはずがない。


 もし、このまま人間に戻れなかったらどうしよう? さすがにこんな状態じゃあ学校にも行けないや。私は目の前の敵を見据えながら、何故だかそういう場違いな事を考えた。


 てかマコトが角生やしたまま家に帰ったら、お父さんとお母さんは間違いなく卒倒するはず。でもじいちゃんとばあちゃんは多分……『あらぁーマコト、それどしたの?』で済みそうだけど。


 色々と思うところはあるけれど、正直、不思議と悪い気はしない。そう、今はマコトを追い詰めた目の前の怪物達へと一矢報いた……と言うより一気に形勢が逆転してしまった事へ、ある種の強い快感すら覚えているのも事実だ。


 本来の私はどちらかというと、争いを好まぬ平和主義の事なかれ主義。そもそもが基本、陰キャやし。だけどこの戦いが始まってから、何かその辺りがどうにもおかしく(・・・・)なって来ている様な気がしてならない。


 大体何だ? この身体を駆け巡る、“制御の効かない破壊衝動”は。きっと陽キャと呼ばれる連中は……日夜この様な衝動に突き動かされ、バーベキューやパーリィに勤しんでいるに違いない。そうでもないと、事あるごとに『ウエ〜イ!!』などと奇声を上げ続けるものか。


 ぎろり、目の前の怪物達を睨む。そう、ここから先は再び生命の遣り取りだ。


「ぶっ潰してやる……」


 急に好戦的となった私は地を蹴り、目の前の敵へ突進して攻撃を開始する──!!


 あまりに大きな力の差を感じたのか、闇雲に両鎌を振り回す怪物の一体。私はそれを滑り込みながら両掌で挟み込み、白刃取りしたまま、力いっぱい関節を逆さに捻り伏せた。


「ギイシャァァァァッ──!?」


──ボギッ。


 何かが砕ける音と共に、急に鎌から力が抜け落ちる。同時に、白刃を素手で取り上げたという冷たい感触が、得体の知れぬ快感となって背筋を駆け上った。


 掴んでいた腕を力任せに無理矢理引き千切り、軽く拳で突き飛ばしてから膝裏を踏み崩す。流れで蹴り抜いた脚へと体重を預けて軸足にし、そのまま間髪入れずに身体を捻ると……力を込めた回転後ろ回し蹴りを、奴の脊椎目掛けて思い切り叩き込んだ。


 ボスッ──!!


 何か、蹴り抜いた足先から抵抗が失われた気がしたが……気にせず脚を引き、次の相手へ注意を向ける。


 確認するまでもなく、今のは致命の一撃だ。


 間も無く、先程蹴ったヤツの頭部が私の足元へと転がり戻って来た。多分、民家の壁にでも当たって跳ね返ってきたのだろう。二度と蘇らない様、踵でそれをガツンと踏み潰す。


 ポケットから這い出して私の肩によじ登り、大騒ぎし始めるアル。


「ちょっ、マコトちゃん!? 今、蹴りで怪物の上半身に大穴が開いたんだけど──!?」


 血緑色(ちみどりいろ)のクレーターから足を引き抜きつつ、応えた。


「えっ、そうなん……? 急所に当たってなかったんだ」


「だね。まずその原因としては、君の脚が“かなり短い”という事が挙げられるんじゃないかな? しかし上体が爆散するとは相当な威力だよ!」


 うーん、マコトは“首”を狙って蹴ったつもりなんだけど……力加減を誤って、狙いがちょっとズレたのかも? 待って、今このネズミ、何かさらっとマコトの悪口言わんかった!?


 しかし大穴か。でもそれが特に不思議な事だとは思わない。今ならきっと、足刀蹴りで大型トラックでも蹴り転がせそうな気がするし。いや、多分やれる。


 最早、“戦いにならない”と悟ったのかも知れない。残された一体の怪物が、突然(きびす)を返して逃走を開始したのだ。


「あっ!」


 逃がしてたまるか! さっきはニタニタしながら私達の事を追い詰めてきたのだ。今度はこちらが反撃する番。


「ま()コラぁぁぁ!!」


 重心を下げて脚に力を込めた事によってアスファルトが歪み、それが柔らかく盛り上がるのを土踏まずに感じながら……全力で弾丸の様に飛び出す──!!


 逃げる怪物は……迫る気配に気付いたのか、慌てて上半身を捻り、追いすがる私へと向けて両手の鎌を無茶苦茶に振り回した。


 集中し、攻撃の軌道を見極める。うん、興奮して無駄に(りき)み、単調な動きだ。


 そして奴の鎌が開ききった瞬間。タイミングを合わせ、力一杯に内肘を右拳で打ち抜いた──


 奴の肘関節は、まるで砲弾の直撃でも受けたかの様に、まあるく(・・・・)弾けて四方へ飛び散る。


 それから着地と同時に震脚で深く踏み込み、再び背を見せて逃げようとした相手の引き足を、(はた)く様に外から左掌でなぎ払った。


 肘から先を失った上に揚げ足を取られ、バランスを崩して地面に転がる怪物。奴はその顔を恐怖に引き攣らせ、どうにかしてこの場から逃げようと必死に足掻いて見せた。


 凶暴な熱を帯びる身体とは裏腹に、私の心は急速に冷めて温度を失い、慈悲とは無縁のものとなってゆく。そうして奴の残った方の腕も、鉈を叩きつける様な下段蹴りで外側から力任せに粉砕する。


「そうやって今まで……泣きながら逃げる人達を切り刻んできたんでしょ?」


 多分、この怪物にはマコトの言ってる事が理解出来ないと思う。でもその表情を見る限り、言葉に出来ないこの感情だけはしっかりと伝わっている様な気がしてならなかった。


 両手を失い、ふらつきながら立ち上がった怪物。私はその左膝を内側から蹴り砕き、膝立ちに崩れ落ちた“奴”へ、全体重を乗せた重い袈裟蹴りを浴びせる。



 そうして、それから先は……あまり良く覚えていない。

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