6.飲み会やるけど、くる?
「やったー!おいなりさんおいなりさん!」
「俺からもひとつお願いがあるんやけどええか?」
「え~なになに~」
水無月守は狐の尖った耳に顔を近づけ、口元を手で隠す。
狐っ子はもう片方の耳を畳んでフムフムと水無月守のお願いを聞き届けた。
「いいよ!よくわかんないけど、そんなのかんたん!」
(天才タイプかっ!!理屈がわからずとも感覚で全てを解決できるってのかっ!)
「そのかわり、おさいせんちょーだい!」
「せやったな、ほれ」
五千円。その手から狐っ子に手渡される。
(お賽銭というより取引の金額だよねそれ?)
「まいどあり!あんちゃんつぎもたのむよ!」
(筋金入りの商人の台詞なんだよなぁ)
「それじゃ、やるよぉー?」
狐っ子はおはじきを袖から取りだし、そのまま両手で握ってうなり始めた。
「うむむ…」
固く握った手を睨み付ける狐っ子。
その小さな手のひらの中に親の仇でもいるかのような眼光の鋭さである。
そして掛け声とともに手を開く。
「ホイーーーー!」
(えぇ……なにその掛け声)
そこには相も変わらずなんの変哲もないおはじきがあるだけだった。
しかし水無月守は以外にも満足そうにおはじきを受けとり、狐っ子にお礼を言う。
「ありがとさん」
「どういたしまして~」
狐っ子は楽しくなったのか水無月守の周りをくるくると旋回する。
その途中でなにやらいつもと違う匂いがあることに気づいてやめた。
「クンクン、まもるきょーはおともだちつれてきたの?」
「え?今日は一人やで?」
「だってほら、あそこにいるよ?」
(くそ、バレたか!?)
狐っ子がそう言って鳥居を指差す。
その寸前で顔を引っ込めたのでギリギリ姿は見られていない。
金城時也は鳥居の裏に隠れていたのだ。
「そこにだれかおるんか?」
水無月守は鳥居に近づく。
(あーこれはバレてるやつだ…どうする。大人しく出るべきか、猫の泣きマネをすべきか…二つに一つだ!!ええいどうにでもなれ!!)
「ナァーオ」
金城時也、渾身の猫マネである。
しかしすでに水無月守は真隣に立っていた。
「金城くんやないか!どないしたん?」
(うわーやったよ。めっちゃ恥ずかしい思いしただけだよ)
「いやー、そのー」
「猫の鳴き声ウマイやんけ!本物か思ったわ!」
ケラケラ笑う寝癖頭。
(思いの外ウケてるぞ?ありがたいけど調子狂うなーこいつ)
狐っ子もその様子をみて恐る恐る近づいてきた。
「だあれ?」
「金城くんや、クラスメイトの。せや、金城くん、こいつはフォックス。まーなんや。この神社に住み着いとる狐の守り神らしいで」
(守り神の名付け親どういう神経だよ)
「よろろ!」
狐っ子は元気良く手を上げて金城時也に挨拶する。
「よよろしく」
「ちがうちがう!よろろ!」
「よ、よろろ…」
(あーやっぱ、すごい緊張する。なんでだろうなー頭の中では普通なのに)
「おっけー!かねしろもおいなりさんつくろ~?」
「こらこらフォックス、いきなり馴れ馴れしくしたらアカンで。もう大人のお姉さんなんやろ?」
「そーだった!かねしろどの!おそれながらもうしあげます!おいなりさんはおいしーので……おいしーのであります!」
(おいこの子に敬語教えたやつ今すぐ出てこい)
滅茶苦茶な敬語の上においなりさんが美味しいことを報告しただけであるにも関わらず、誉めて誉めてと言わんばかりの狐っ子であった。
そこで水無月守は金城時也に耳打ちする。
「金城くん、こいつ褒めて伸びるタイプなんや。ひとつ頼むわ」
(いや褒めろって言われてもどこ褒めれば良いのかわからねぇよ!くっそー和風な褒め方が良いのか?やってやんよ)
「け、結構なお手前で」
「これでフォックスもおねいさん?」
(そんなに目をキラキラさせるんじゃないよ!)
「も、勿論!立派なレディさ!」
「かねしろウソつき」
狐っ子は頬を膨らませ、そっぽを向く。
(一瞬で嫌われただとぉ!?)
主人公とはいつの時代もカリスマ性や寛容さ、人から好かれやすいなどの特徴を兼ね備えているものだ。
しかし、金城時也にはそれがない。
前途多難な道のりは一見、辛く苦しいようにも見えるがコアなゲーマーである彼はむしろ滾っていた。
ベリーハードをクリアしたときの達成感を知っているからこそ、理不尽なくらいがちょうど良いと考えるタチだったのだ。
〉to be Continued〉
……お疲れさまです
え?飲み会?
いかない…猫にご飯あげないといけないし
……
……もう、全然わかってないんだから……