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5.不機嫌?


嵐野蓮夏と別れた後、水無月守の歩く速度が上がった。彼女に歩幅を合わせていたからなのか、トイレに行きたくなったからなのかはわからない。


坂を登り、パチンコ屋を通過し、路地を曲がり、豪邸の前を横切り、踏み切りを渡り、ドブ川を1分くらい見つめ、公園を突っ切る。


しばらく通り沿いを歩いた後、コンビニに入ってあずき棒アイスを購入。

店の前で雑に袋を破き、旨そうに舐め始めた。


車の影からそれを見て金城時也は思った。


(舌運びが……エロい!)


アイスを舐める様と言うのは、普段から意識して見るものではない。

ましてや男が舐めているアイスなど、興味なんて微塵もない。


しかし、エロかったのだ。


男の舐めるアイスが、実にエロかったのだ。


この事実が、金城時也をどうしようもなくその場に縛り付けた。


そして、水無月守がアイスを食べ終わるまで、まじまじと見続けてしまったのである。


彼はそうなってしまう理由が自分でも理解できなかった。


水無月守はキャラ設定がイカれてるから、目を放すとなにかしでかすかもしれない。


目を放した隙に新しいヒロイン的な女の子と出くわすかもしれない。


表面上の理由はいくらでも出てくる。


でも本当は違う。


金城時也は水無月守が舐める棒アイスに深淵のような底知れない何かを感じたのだ。


何故そう感じるのか。

何故エロいと思ったのか。


実は自分は男が好きだった?


ホモとしての素質があった?


いや違う。

そんな感情ではない。


では、なんだ…?


さらにその奥にある、自分の行動原理を解き明かそうとすればするほど、理由の所在は混濁していく。


意識の沼に溺れていく。


答えは、近くにあるはずなのに掴もうとすると

指の間をすり抜ける。


そして、原因不明のまま、なんか恥ずかしいという感情だけが残った。


棒アイスの食べ方がエロかったために起こってしまったこの悲劇は、棒アイスに対する羞恥心を増大させ、結果として一種のトラウマを金城時也の脳裏に刻み込んだ。


この事件は、後に彼の脳内で『棒アイスショック』と呼ばれることとなる。


このような一見不可解な現象はなんら珍しい話ではない。

良くある話だ。

誰しもがこういった些細なことで、トラウマを植え付けられる可能性がある。


例えば、キャベツにたまだ青虫が付いていて、それに気付かず一緒に口にいれて噛んでしまった。


例えば、採血するときに看護婦が5回くらい針を指す場所を間違えた。


例えば、お婆ちゃんからもらったヨーグルトの賞味期限が半年過ぎていた。


きっと、二度と野菜は食べないだろう。

青虫がついている気がするから。


きっと、先端恐怖症か注射が嫌いになるだろう。とてつもなく痛い気がするから。


きっと、お婆ちゃんの家では何も口にしないだろう。賞味期限が半年過ぎている気がするから。


それと同じことだ。


金城時也は今後棒アイスを食べないし、

周りにも食べさせない。



エロい気がするから。



気が付くと、水無月守は棒アイスを食べ終えており、かなり距離が開いていた。


(はっ!!俺は一体何を…でも今は水無月を追うのが最優先だ!)


この時はまだ棒アイスショックを自覚できているわけではなかった。


頬を伝う冷や汗を拭い、気持ちを落ち着かせて尾行を再開する。


この短期間で、金城時也は気持ちを落ち着かせるという行為に随分慣れた。

しかし一向に動揺しないというスキルが身に付く気配はないのだった。


景色の緑が徐々に増えてきた。少し街から離れて田んぼや小さな山がある地域に突入したらしい。


水無月守はとある山の入り口にある鳥居を潜り、階段を登り始めた。


鳥居に括られた板には、幼萌稲荷神社-ようほういなりじんじゃ-と書かれている。


(…ロリ萌えな狐でもいるのか??)


なんとも罰当たりな妄想である。


幼萌稲荷神社は建立より400年の歴史を持つ由緒正しき神社なのだ。

飢饉の際、人々が小さい子供や出産を控えた妊婦の身案じて、せめて幼い命の分だけでも米が収穫できるようにという願いを込めて建てられたという伝承がある。

毎年ここで夏祭りが行われる際には、小さな子供に米を渡すという慣わしもあるそうだ。


そんな場所にロリ萌えな狐っ子などいうベタなものが…


「まもるだー! まもるー! あそびにきてくれたの~?」


いるはずが…


「ねーねーまえやったやつ!おいなりさん!カンヌシにおねがいして、いっしょにおいなりさんつくろー?」


あるのである。


(人外ポジションだとぉぉおおおお!?!?)


白の長髪に狐耳、白ベースに先が灰色のしっぽが3本。巫女服をアレンジしたような独特の衣装が元々備わっている可愛らしさを爆発的に向上させている。

周りには狐火と呼べば良いのか人魂と呼べば良いのかわからない球体が3つ、ふよふよと浮いている。ちなみに当人もふよふよ浮いている。


狐っ子は無邪気な笑顔で水無月守にすりすりしている。


「わかった!わかったから一旦離れろ」


(こいつは一本取られたぜ…次に登場するヒロインが、まさかロリっ子狐ちゃんとはな)


金城時也はもう、いろんな意味で吹っ切れていた。



            〉to be Continued〉



なに?

今話しかけないでくれる?


……


別にどうもしないわよ


……


だからいいって、ほっといてよ



…………




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