4.語り部ちゃん、どうした?
「なかなか変わってるよね、あんたも」
「そーか?」
水無月守はすっとんきょうに疑問で返すと、 嵐野蓮夏はククッっと笑う。
「だって、メンコ大会って。他にもっとあるでしょ」
「いや、ない」
(もう一生メンコやってろよ…)
流石にここまでくると、金城時也の脳内ツッコミには、呆れの感情が混じりつつあった。
「えー、カラオケとか、ボウリングだって楽しいよ?」
「カラオケとかも楽しいんやけどな。…なんて言うかな…遊びにしろ何にしろ、何をやるかじゃなくて、誰とやるかなんやと思うねん。信頼できるやつとなら、下らないことでも面白くなるし、辛いことも乗り越えられる気がするんや…」
(なんかいいこといってる風だけど、それメンコ自体は面白くないってことなんじゃ…)
「だからメンコを通して、そういうやつと巡り会えたことは本当に感謝してるねん」
(結局メンコが全部持っていくんだよなぁー!
メンコってすげぇなー!)
「ふーん。なんか良いね、憧れるよ。そういうの」
「嵐野にだって、きっとおるはずやで」
すぐに返事は来なかった。
春の涼やかな風がその間を埋める。
「ちょっと違うのさ。あたしの場合は…」
控えめな笑顔をたたえながら、嵐野蓮夏は遠くを見つめる。
「?」
水無月守は言葉の意味が良くわからなかった。
金城時也は言葉尻の響きに違和感を感じた。
「そーか」
わからずとも水無月守は取り敢えずの返事をした。
「あ、懐かしい」
「ん? ああ、せやな」
先ほど道で合流した小学生が、水無月守たちの斜め前の道端で白線を踏み外したら死亡ゲームをやっていた。
水無月たちはそのゲームがどうなるのか見届けることにした。
(お、あれは昔良くやってたな)
三人でやっているようだが、一人が白線じゃないところを踏んだらしく、白線の横に倒れ込んだ。
「て…てっちゃああん!!」
そこへ残りの二人が駆け寄る。もう白線とか関係ないのか、普通に黒い所も踏んでいる。
もしかしたら一人死ぬと解除される仕組みなのかもしれない。
駆け寄った内の一人がてっちゃんと呼ばれた少年を抱き起こす。
彼は天寿を全うしたかのように安らかな表情だった。
(てっちゃん死に顔の演技上手いなおい)
残された二人の少年は顔をしわくちゃにして叫んだ。
「てっちゃぁあん!!一緒にカブトムシ取ろうって言ったじゃんよ!!なんでこんなとこで逝っちまうんだよぉお!!」
「てっちゃんしか虫かご持ってないじゃんよぉお!!」
てっちゃんを抱えてプルプル震える二人。
そんな様子を見て懐かしむ高校生三人。
彼らはそんな小学生たちに、まだ春だからカブトムシはいないなんて、残酷なことは言えなかった。
彼らにできるのは、この状況で死んだふりを続けられるてっちゃん迫真の演技を心のなかで称賛して通りすぎることだけである。
「てっちゃん、言ってたよな? でっかいカブトムシを捕まえて一緒にお風呂はいるのが夢だって!!」
(一緒に入ったらカブトムシ死んじゃうんだよなぁー!子供らしくて可愛い夢だけどさ!)
「言ってたよな!タピオカの正体を暴くまでは死ねないって!!本当はカエルの卵なんだって!!」
(残念ながら…あれはただのデンプンだよ、少年)
「てっちゃああん!!」
「戻ってきておくれよぉ~!!」
二人はてっちゃんのTシャツに顔を埋めて、ずっとプルプルしている。
(…長いな演技!)
そうこうしている内に、水無月守と嵐野蓮夏は小学生たちの横を通りすぎた。
「嵐野もやってたんかあれ」
「うん、近所の男の子とね。落ちそうになるの、いつも助けられてばかりだった」
「その男の子とはまだ仲いいんか?」
「いいや。その子が遠くに引っ越してからは連絡とってない。小学3年生のときだったかな。お父さんがパイナップル農家になるからって」
「そーか。パイナップル、旨いもんな」
(コメントするのそこなの?!)
「守は神無月さんとやってたの?」
「せやね。家の近い愛子と遊ぶことが多かったからな。あいつとやってたけど、もう一人いたんよ」
「へー、そうなんだ」
「そいつと愛子と三人で遊ぶことが多かったんやが、引っ越すことになってしもたらしくてな。小学何年だったかは覚えてないが、父ちゃんがドラゴンフルーツ農家になるからゆうてたことは覚えとる」
(よし。家に帰ったら『脱サラ 南国フルーツ農家』で検索しよう)
「ドラゴンフルーツは食べたことないなー」
「旨いで。まだ付き合いあって、うちに年1で送られてくるねん。こんどやるわ」
「楽しみにしとく」
「旨すぎて鼻落ちるで」
(そんな間違え方する人初めて見たわ!せめてアゴだろ!アゴ!鼻関係ないだろやめてやれよ!)
「それを言うなら眉毛でしょ」
(嵐野さん?!あなた頭よかったよね?なんでウソ教えるん?!)
「せやったか?」
「次から間違えないよーに」
「あいよ」
(すんなり受け入れちゃったよ!考えれば気づくでしょ!あいつは眉毛で飯を食うのか?!)
「じゃ、バイト先こっちだから!」
嵐野蓮夏はY字路の左側を指差して、水無月守から離れていく。
「おう、またな。あ、そうだ。言うの忘れとったけど、世界史教師の浜田浦がエナジードリンクの飲み過ぎで入院したらしいで。ほんじゃな」
(別れ際にくそどうでもいい情報をぶっこむ意味を教えてくれ!!)
「ぷっ…そのネタ今度詳しく教えて!またね!」
(食いつくんだそこ!)
〉to be Continued〉
お疲れ様でーす。
はぁ、ようやく慣れてきた
これなら頑張っていけるかも
スタッフの方も良い人ばっかりだし
………
関係ない話だけど…
きょ、きょーはその…
お弁当を…
………
なんでもない!!
さっさと帰んなさいよ!!