1話
ふと、全てを思い出した。
私が前世でプレイした乙女ゲームの悪役令嬢だと。
「え、ちょ。待って。どゆこと?」
慌ててドレッサーの鏡で自分の姿を確認する。
技術の高い美容師によって艶やかに巻かれた長いサラサラの銀色の髪に緋色の大きな猫目。
顔立ちは整っているけれど、釣り上がった瞳は勝ち気な印象を与える。
一言で言うと悪役顔。
……まあ、悪役なんだけどね!
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は、この先の展開だ。
もしも本当にここが乙女ゲームの世界なら、私は明日断罪される。
セリーナ・クレシェット公爵令嬢。
乙女ゲーム『恋色学園』の悪役令嬢だ。
恋色学園とは、庶民の主人公が貴族だらけの学校に編入し、そこでイケメン男子と恋に落ちるという王道乙女ゲームだ。
そこでヒロインの邪魔をするのが私である。
美人で聡明だがプライドが高く、我が儘な典型的悪役令嬢。
庶民のヒロインを虐め抜き、卒業パーティーで断罪され、学校を追い出された挙げ句、遠い別荘に幽閉される。
ちなみに断罪イベントは明日。婚約破棄から逃れる術は無い。
うぅ、せめてヒロインを虐めなきゃ良かった……。
前世の記憶が戻るまでの私はゲーム通りの悪役令嬢で、あの手この手でヒロインを虐めていた。
まあ自業自得っちゃあ自業自得か。
「はぁ…、最悪」