表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

07

 さて、あれから5年ほど年数が経ち、ついに魔術大会の行われる年になった。参加表明は、1年前に行った。

 ここでおさらいをすると、魔術大会とは20年に1度国が開催する、魔法を用いた勝ち抜きバトルを行うイベント。勝利の判定は、3人の審判の判断。試合を行うリングから出てもアウトで、負けになる。相手を行動不能にするか、リングから出せば勝ちとなる。大会への参加権は、1人1回のみ。生まれてから1回でも予選・本選に参加した事のある人は参加不可能。更に事前検査の結果、魔力量が一定以下だと参戦不可能。つまり魔力量が一定以下の人は魔術大会への参加は一生出来ない、シビアな大会。

 何故こんなに厳しいのかと言うと、優勝者に与えられる物が王の所有する「願いが叶う神具」を1回使える権利だから。

 私が狙っているのは、「願いが叶う神具」。この神具で元の世界に帰ることができる可能性が高い。神具は亡くなった人を蘇らせたり誰かの命を奪ったり、「禁忌」に触れる願いは叶えられないが、元々違う世界に生きていた私を元居た世界に戻すことができるかもしれない。


 そして今日は魔術大会の運営が魔力の測定を行う、私の番の日だ。この時にどのような魔法を使うかも申請する。物理的に相手をリングからはじき出すなど、魔法を使わない勝利は不正と見なされ失格となる。私も、今日巨大化魔法とブースト魔法が使えることをきちんと説明しなければ、メイスで殴った時に力技で勝ったことにされてしまう。魔術大会の運営は国の機関らしいが詳細は不明。なにそれ怖い。機密機関だからなのか、個人の魔法情報が外の漏れることは一切ないらしい。


 魔術大会運営本部に到着した。

 出入口には普通の騎士が立っていたが、室内に入ると仰天。受付と思わしき長テーブルの向こう側に、真っ黒のローブと真っ赤なマスクを付けた人が佇んでいる。ローブにはフードがついており、その人はフードもかぶっている。足は一切出ておらず、つま先まで長いローブの裾で覆われている。顔には目と口の箇所だけが空いた真っ赤な仮面。中世の貴族の女性が日焼け防止のために付けていた仮面に似ている気がする。色は赤くなったと思うけど。とにかく不気味である。


 恐る恐るその人に名乗り、魔力の測定に来たと伝えたら、男か女か分からない声で左の廊下のつきあたりにある扉に入るよう返事が来た。見た目はともかく、声まで性別不明ってどういうことだってばよ。

 指示に従って廊下の先の扉を開けると、大きな部屋の中に受付の人と全く同じ風貌の人が6人ほどいた。しかも一斉にこちらを見てくる。ひえぇ……めっちゃ怖い。2人は扉のすぐ近く――要するに目の前に、4人は部屋の角にそれぞれ立っている。

 目の前の1人が、魔力の測定を行うと言ってローブの中から、四角い石を取り出した。掌に収まるサイズのそれは、形以外の特徴を除けば本当にただの石と同じである。


「まず、この石を手に取り魔力を込める。私がとめるまで、魔力を込めるのを辞めないように」


 この人の声も性別の判断ができない声だ。不思議。


 石を受け取り、魔力を込める。以前母から言われて行った「魔力を流す」と同じ意味だ。魔力を込める感覚は元の世界にはなかった感覚なので、説明が難しい。魔法を使う時も同様。

 掌に乗せていた石の色が変化した。最初は灰色だったのに、黒、紫、赤、青、紫、黄の順番で変化。運営の人にやめるよう言われてやめたら、最初の灰色に戻った。これがどういう仕組みなのか分からないので、今の私は「訳が分からないよ」という表情をしているかもしれない。


「イリス・ラビガータ様。あなたは合格だ」


 今ので?!


「あ、ありがとうございます」

「続いて、予選の登録・申請に移る――」


 判断基準が分からないまま、個人情報漏洩が確実にないことが説明される。もし情報を盗まれた場合は情報を売買した者を探し、処罰を与えることや、それが大会参加者本人または家族などの関係者だった場合は更に重い処罰が下される、という内容だった。

 それに納得したら、次は私が自分が使う魔法について説明した。その後部屋の中央に導かれ、実際に巨大化魔法とブースト魔法を見せてみる。部屋の中にいた6人全員がそれを視ていたらしく、6人が少しの間顔を付き合わせた。怖い。

 色んな意味でドキドキしながら待っていると、1人が「合格だ。それでは予選の説明を……」と説明を始めた。みんな同じに見えるため、この人が初めて話す人なのか情報漏洩について説明した人なのか分からないが、これで今日の私のやるべきことは終わったらしい。残念ながら合否の判断が私には分からなかったので達成感はない。でも、これで「願いが叶う神具」に1歩近づいたわけだ。




 魔力の測定から約1ヶ月後、魔術大会の運営から予選と本選のお知らせが届いた。今回の大会は、予選を早く勝利ポイントを100貯めた人から本選進出決定。本選の出場者は32人で、5回勝つと優勝。ちなみにどちらも不戦勝・不戦敗は有効。「今回の大会は」と言うのは、大会ごとに参加希望人数が異なるから。魔力の測定で振るいにかけられた人はもちろん落ちたわけだが、この時点で発覚した不正はすでに処分は行われているので、人数は可能な限り絞られているそう。

 あと、実は自分の魔法を運営に説明・披露した際に魔法の技術も見られていたらしい。これは母の情報だ。いくら魔力があっても、使いこなせないなら負ける。攻撃魔法が使えても、魔力量がなければ勝つのは難しい。そういうバランスで選ばれるそうだ。私はちゃんとバランスとれてたってことか、良かった。


 私の予選は3日後から始まる。この数年間磨いてきた能力を見せる時。




 *****




 動きやすい服を着て、相手を見据えた。手には何も持っていない。

 予選は全て魔術大会運営本部で行われる。いくつかある「予選ルーム」を指示に従って移動。同じ部屋になった相手と対戦し、勝っても負けてもまた指示に従って別の「予選ルーム」に移動。また同じ部屋に来た相手と対戦を繰り返し、勝つことでもらえる勝利ポイントを貯める。ポイントをつけるのは各部屋にいる例の格好の運営の人。多分、勝ち方によってポイントが多くもらえるんだと思う。例えば短時間で終わらせたら高くて、試合が長引くと低いみたいな。

 この方法だと、予選で戦った人と本選で戦うことも出てくる。あまり手の内を見せると本選で戦いにくくなるため、私はメイスの使用を避けた。


「用意、始め!」


 始めの「め」の声と共にブースト魔法をかけ、強く地面を蹴った。相手との間合いを一気に詰める。そこで大抵相手に隙ができるので、両手で相手の両肩を押し、対して広くもないリングから押し出す。これが私の試合のパターン。

 私が魔法を使ったか分からない人が何人かおり運営の人に抗議する人もいたが、そっちは私の使う魔法を把握しているため私の価値は変わらない。

 ごめーんね。でも勝つためなのよ~。武器を使わず魔法で戦う人って、ほとんど筋肉ないんだもーん。……折角の魔法バトルなのに物理的に勝つ方法をとっていて、いささか卑怯のように思うけど魔術大会の運営も認めてるから私は悪くない。むしろルールに則れば武器使っていいのに使わない方が悪い。

 予選で1人だけ、武器を使った女性と戦った。長い棒を魔法で作り出し、こちらへと走ってきた。同じようなタイプだけど、この武器は魔法でできているので少し違うかな。私のブースト魔法は、魔法防御力も上がっている。女性の振り回す棒を避けて握ってみたところ、棒は握ったところで折れてしまった。


「えっそんな!!」


 女性は泣きそうな顔になり、私から距離をとった。これは1本しか出せないのか、はたまた何か作戦があるのか、女性は折れた棒を消した。魔法を解いた、ということだろう。この後彼女はどういう手を使ってくるのか――身構えようとした瞬間大きな声が響いた。


「私の負けですっ!」


 運営の人が試合終了の合図を出した。結局何だったの?

◆イリスの魔法

◆能力上昇魔法……通称:ブースト魔法。「物理攻撃力」「物理防御力」「魔法攻撃力」「魔法防御力」「俊敏性」「動体視力」の身体能力を上昇させる。重ねがけ可能。

◆無機物巨大化魔法……その名の通り、無機物を巨大化させる。イリスはヘアピンのような物に魔法をかけ、メイス(鈍器)として使用する。

◆反射魔法……魔法を反射する。物理攻撃は反射できないが、魔法は全て反射。イリスのメイスのように物理攻撃で攻撃されると意味がない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ