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悪と正義の同居の始まり

作者: 則巻苦喜

「追い詰めたぞ、お前の悪事はそこまでだ」

「なんの話かしら」


勇者は掴んだ証拠を誇らしげに掲げる

「お前の悪事はここに全て記されてる。」

勇者の手にした紙には悪役令嬢が今までしてきた悪事が記されてる。政略結婚が嫌で暗殺者を仕向けた隣国の王子の名や、学生時代にイジメを苦に自殺した同級生の名まで、様々な悪事が記されている。


「そんなもの誰が信じるのかしら」

令嬢は顔色一つ変えずに答える。積み上げてきた悪の年季が違うのだ。すべての罪は他人になすりつけ、もみ消し、あらゆる手を使い自分に罰がくだらないようにしてきた。


そんなことを知ってか勇者は

「貴女の権力はあなたのものでなくて、あなたの父上、王のものだ。王の使いとして世界を救い、戻ってきたらこの有様、私はすごく不幸に思うぞ」

諭すように優しい口調で、しかし確かな意思を持って告げる。


世界を救った勇者の最後の戦いであった。

邪知暴虐を繰り返す悪役令嬢を倒すことこそがこの国の命運を託された自分の使命だと悟っていた。

「それで?その程度の説得で私を改心させられると思って?私が生まれ持ったこの美貌も、権力も、あなたのその力強さだって配られたカードを使っているだけでしょう?自由に使って何が悪いのかしら」


たしかに悪役令嬢は美人であった。どんな男であろうと一言発すれば操れるほどに。色仕掛けなど必要ない。それだけの美貌があった。つられてやってきた男たちは全て消した。毒殺で、撲殺で、抗争を勃発させ、権力を使い、ありとあらゆる手で潰す。鼻の下を伸ばしただらしのない男の顔が何よりも嫌いだった。


「それでも、余罪含まず三桁に上る暗殺はやりすぎだ。人の命をなんだと思っている。」

勇者も一歩も引かず追求をする


「そこまで調べたのね、すごく苦労したでしょう。それで?あなたは私をここで殺すのかしら」

全く焦った様子はない。ルールをかざす相手には慣れている。


「あなたを断頭台に送る。他の者たちでは無理だろうが、私は一度だけ、すべての権限を無視する権利を与えられている。この国の膿の根源である貴女を絶つ。」


勇者の迷いのない言葉に悪役令嬢も少し考える。

「そうねえ、嘘はないようだし、それは嫌だわ。」

それでも焦らないのは、安全な世界から支配してきた危機感のなさからか。


「話はこれだけだ。あなたの命もあと一週間、断頭台までどう過ごすかゆっくりと考えることだ。」

勇者は踵を返すと、部屋の出口に向かう。二人きりの部屋に足音がコツコツと冷たく響く。


「待って頂戴。」勇者がドアに手をかけたその時、バイオリンのように美しい令嬢の声が響く

「まだ何か?」勇者は問う


「あなたは私が羨ましいのね。」令嬢は言う

「やっとわかったわ」


そう言う令嬢に勇者は訝しげな顔で向き直る

「なんの話だ」

有者は本当にわからないという顔をした

「どうしてわざわざ、私の罪を私に問いに来たのか。その証拠があれば例え9割間違えでも私は断頭台、それだけのものを、わざわざ私に見せに来て、なんの意味があるのかやっとわかったのよ。あなたは私が羨ましくて、少しでも嫌な顔をさせたかったのだわ。」

勇者は反論する

「そんなことはありえない。 私は貴女のように性格が歪んでいないからだ」


「嘘おっしゃい。部屋から出ようとするときの苦虫をかんだような顔、私は鏡で観たわ。あなた、心の奥底では悔しがっているのよ、私が羨ましくて」


そんなことを思いもしなかった勇者は、少し困惑する。

「そして私はそんなに悪意だけを私に向ける男性を初めて見たわ、あなた凛々しいいい顔をしているわね」想外の一言に勇者は狼狽する。それを感じ取って、令嬢の本領が発揮される

「そういえば旅から帰ったばっかりであなた嫁もとってないそうじゃない。旅路をともにした女子たちは皆他のパーティの者に取られてしまったそうね」勇者は勇ましい顔立ちであったが、女性にウケた試しはなく、ずっと孤独を貫いていた。

甘言が勇者の堅い意志の隙間に割って入る。

「私もまだ夫がいないのだけど、どうかしら、私を見逃し、妻に取るつもりはないかしら」何ということだろう。令嬢はこともあろうか勇者に求婚を申し出たのだ。勇者は戸惑う。眼の前には絶世の美女、自分は孤独、誘惑、脳の中でぐるぐると思考が空回る。

「そんな甘言には騙されまい」勇者はやっとの思いで突っぱねるようなことを言ってみる。しかし人心掌握に長ける令嬢は勇者の本心を見抜いている。

「私のような美女を、あなたは好きにできるのよ。何なら今味見をしてもいいわ。まだ汚れを知らないこの体をあなたに捧げると言っているのよ。」何と言う赤裸々なものいいだろう。女を知らぬ勇者には十分な言葉であった。

「、、、改心してくれるならば、考えなくはない」落ちた。勇者の言葉に令嬢は確信する。顔は好みだし、権力も十分。最高の旦那を見つけ出した。彼を籠絡すれば、自分の栄華は生涯続くことを革新する。ここに、悪逆の権化と正義の代名詞、相反するもの同士の婚約が成立したのだ。

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