武道場の思い出
「私は今、とても残念な気持ちでいっぱいです……」
事の経緯を洗いざらい全て話し終えると、かぐやはふくれっ面でそう言った。
「面目次第もございません」
硬い板床の上で正座したまま、深々と頭を下げる僕たち二人。
「……ねぇちょっと、なんであたしまで頭下げてんのよ」
「いいからちょっと黙っててください」
「聞いてるのかな? お二人さん」
「「あっ、はい」」
僕たちの正面に向かい合うように正座しながらも、顔はどこか不満げにそっぽ向いていた。
「……あのね、みんなにも迷惑かけちゃったし、心配させちゃってるっていうのもわかる。でも、だからって、こそこそ後を着けて探るっていうのは違うんじゃないかなぁ」
「違いますかぐやちゃん。ジンくんたちの心配を煽ってしまったのは私です。ごめんなさい」
違う。きっかけになったのは、風花さんからの相談じゃない。かぐやを信用出来なかった僕たちの問題だ。
「ごめん。別にかぐやの言葉を信用してないとか、そういう事じゃなくて。ただ、昨日は、かぐやらしくないっていうか、なんか気になっちゃって」
「……そんなこと、ないよ」
正座した膝の上で、その真っ白な手が固く握られた。
それから、暫しの沈黙が稽古場に訪れた。聞こえるのは、各々の微かな呼吸と、床板に擦れる衣服の音。
沈黙を破ったのは、かぐやの少し後ろに正座していた風花さんだった。
「かぐやちゃん、ひとまず稽古に戻りませんか? ジンくんもティナちゃんも、元々はかぐやちゃんの稽古を見学に来たのですから。せっかくなので、見ていってもらいましょう」
その言葉に、かぐやは固くしていた身体を跳ね上げ、身体ごと後ろへ振り返った。
どんな表情をしていたのだろう。風花さんがうなづいたのを確認し、不安気な面持ちで視線を戻し、小さく返事をした。
「……はい、わかりました」
◇◆◆◇◇◆◆◇
少し身震いしてしまいそうな床板の冷たさ。対照的に、湿度を余分に含んだ生温い空気が、鼻から肺へと流れ落ちる。
稽古場の端に正座した僕と、痺れが切れたらしい脚を伸ばして座るティナ先生。
かぐやの稽古風景を覗きに行こうという、あまりにも大雑把な密偵ごっこの結果、即刻バレて今に至る。
数々の騎士たちの成長を見守ってきたであろうささくれた壁に、滲む汗を飛ばしながら打ち合う、二人の木刀が音を響かせている。
「……」
本来ならば、バレてお説教までされた原因について、ティナ先生をチクリチクリと糾弾したいところなのだが、目の当たりにしている光景が、僕からその余裕を奪い去っていった。
「ねぇ、さっきも言ってたけど、かぐやって随分変わった立ち回りなのね。あんたの知ってる時からなの?」
「知ってるもなにも、あの型は……」
見覚えがあった。かぐやと出会う前であれば、即座に知らないと答えていたんだろう。
剣の柄ではなく、刃の根元の辺りを握りしめ、逆手に持って風花さんの打ち込みを弾くその姿。僕の脳裏では、まったく同じ型で戦って見せた、あの少年の無邪気な姿が蘇っていた。
「……ヤマトにいちゃんと、同じだ」
かぐやの実家は剣術道場で、ヤマトにいちゃんも門下生だと言っていた。あの戦い方は、道場でお父さんから教わっているって話も聞いたことがあった。
でも、かぐやは門下生じゃなかったはずだ。そしてそのまま、あの事件があったんだ……。
――待って。ということは、かぐやは誰にあの剣を教わったんだろう。
黒い髪を背後に束ね、必死に汗を流している少女。少しずつではあるけれど、かぐやの不調に繋がる原因に指先が触れたような気がした。




