悪魔の産声
ビンと張りつめた空気が閉じ込められた部屋。目の前を横切るのは口元に咥えた葉巻の煙。飾り気のないその部屋には、耳障りな遠吠えが絶え間なく響いていた。
「ぃぎゃあぁぁぁーーッ!!」
頭を左右に振りながら泣きわめくその男の前へ、大袈裟な音を立てながら足を運ぶ。呆れ半分に見下ろした視線の先には、薄汚れたボロ布に目を覆われ、様々な感情に溺れているであろう縮こまった男が、質素な椅子に縛り付けられている。
「どうです? この拷問って痛いですか?」
味わったこともないであろう痛みに我すら忘れ、年甲斐もなく大泣きしている老父に静かに尋ねる。この布切れで隠されているが、ぐちゃぐちゃに潤む瞳を想像するだけで、思わず顔が緩んでしまいそうだった。
「もうやめてくれ!! お前の目的は前議長、ゴドナーの地位なのだろう!? それなら明け渡すと伝えたはずだ!」
いつまでたっても変わらぬ状況にいい加減嫌気がさした。咥えていた葉巻の先端、赤々と燃えたその火種を、椅子に縛られた男の右手人差し指と中指の間に押し付ける。
「ぐあぁぁぁ!!!」
肉の焼ける実に気味の悪い香りが、煙と共に舞い上がる。
「そんな事は聞いてないよトニー首相。私が欲しいのは、兄が最後まで隠していた計画の真相です。最後に兄とあの計画について話していたという話は知っているんですよ。兄はなにを企んでいたんですか?」
「知らん、ゴドナーからなにも聞かされていない!!」
震える声が掠れ始めていた。しかし答えは一向に変わらない。
「ならなぜ兄はあの革命の時、あえて雑魚軍隊ばかりをかき集めたのでしょう? あの兄上が策も無くあんな馬鹿な事をしたとはどうも思えないんですよ。ちょっとしたことでもいいんです。何か思い出しませんか?」
「……っく、天竜、天竜を使うと言っていた!! きっと軍人たちを天竜化させるつもりだったのだ!!」
「……妙ですねぇ。そんな事は不可能なんですよ。兄が持っていた、竜化に必要な≪竜の鮮血≫は精々数百人分。それに、あの軍隊を集めるように命じたのは、トニー首相、あなたらしいじゃないですか」
「ゴドナーに言われた通り集めただけだ。それ以外の事は本当に何も知らない」
「そうですかぁ。では……。政府の禁忌書庫から数冊の魔本が、処分という名目で貸し出されていたのはどういう事なのでしょう。しかも借りたのは、あなたの関係者みたいですよぉ?」
「……っく、知らん」
「やれやれ、めんどくせぇ。気が済むまで続けて。殺しちゃってもいいから」
「はっ。しかし、まだ何か隠しているのでは?」
「もう十分だよ。――トニー首相。私が欲しいのは兄が持っていた力じゃない。私は、兄をも踏み越えてみせる……。竜の時代は終わったんです。あはは、あははは!」
「待て!! 待ってくれ!! ――うがぁぁぁぁ!!!」
なーんて、本当は知っている。兄上が何をしようとしていたのか。私が知りたかったのは兄上が本気だったのかどうか。きっと兄上は寸前で躊躇したのだ。だから死んだ。
壁を越えて悲鳴がこだまする、小さな部屋のテーブルに置かれた血の滲んだ紙切れ。そこに掛かれた"悪魔神の扉"の文字。
「兄上の計画は私が受け継ぎます。古の戦火を復活させる、か。面白い、面白いですよ兄上!! ……見ていろ地上に這いずる虫共。我々天界に住まう神の使者を愚弄した罪を思い知らせてやる。もうすぐみぃんな焼き殺してあげます。天族という名の、“悪魔の業火”でね……」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




