13歳の師匠が出来ました
「失礼しま~す。パンチさんはいらっしゃいますでしょうか?」
僕が目を覚ましたあの夏から続いている、病院での身体検査が終わった夕暮れ時。昨日言われた通り、パンチさんが紹介してくれるという先生へ会いに来たところである。
正直、パンチさんに断られたら、大人しく酒場とかで一年ほど学費を稼ぎ、騎士学校で再び二年生をやり直そうかとも考えていたので、このチャンスが最後と言っても過言ではないだろう。もし断られたら……、いや、考えるのはやめておこう。
止まらない手汗をシャツで拭い、昨日とは打って変わり、人気のない応接室の扉を開けた。
普段ならばここは、青龍騎士団への来賓を通す部屋らしい。ふかふかの絨毯、飾られた数々の勲章。青龍騎士団が残してきた歴戦の記録を目の当たりにしているせいか、どうも落ち着かない。
「パンチさんはまだ職務中なのかな?」
ふらふらと部屋の中を彷徨い歩き、いよいよ二周目を始めようかと考えていた時だった。静かだった扉の向こうが少し騒がしくなった。今までの静寂も相まって尚更際立つ。
「いいからこっち来いって!!」
「わかったから離しなさいよハナクソ頭!!」
そして僕は、近付いてくるこの声の主に察しがついてしまった。
きゃんきゃんと捲し立てるまだ幼い声。先輩にも容赦ない言葉遣い。そして、昨日パンチさんが言っていた『プライドをへし折れるか?』の意味。
「そういうことかぁ……」
間も無く扉が開くと、パンチさんと一緒に、噂の先生が入ってきた。
「……ったく! あら? なんだ、あんただったの?」
「えっと、ご無沙汰しています」
人形のようにちんまりとした身体。やや丈余りの騎士服。任務帰りからそのまま来てくれのか、額や首筋には汗が浮かび、亜麻色の柔らかそうな髪を後ろで小さく結わえている。
「ジン。改めて紹介しよう! コイツがお前に紹介したい先生だ」
そう言って、パンチさんが連れて来たのは、泣く子も黙る天才天竜殺し、ティナ・ルミエール。
確かに彼女は、騎士学校を飛び級で卒業し、青龍騎士団に配属された前代未聞の神童とも名高い。文武共に優秀な騎士でありながら、まだ若干13歳。そう、つまり……。年下の女の子が、僕の先生になるかもしれないという事。
「……ちょっとだけ待って下さい。予想もしていなかったプライドのへし折り方になりそうなので」
「あんたも面倒くさいわね。いいからさっさと捨てなさいよそんなプライド」
「えっ? もしかしてティナさんはもう受付待機状態なんですか?」
「当たり前でしょ!? あんたは特別!!」
ふいとそっぽを向いてしまったが、帰るような様子も無い。
「ティナさんッ……!!」
「あんたが腑抜けてると、かぐやに何かあった時な心配なのよ。あの子にふさわしい騎士になるまで、バキバキに鍛え上げてやるわ」
なるほど、そういうこと事でしたか。僕じゃなくてかぐやの為ですか……。
どういう繋がりなのか教えてはくれないが、僕が目を覚ます以前から、ティナさんとかぐやはとても仲良しになっていたようだ。一人ぼっちにしたくないという思いが実って、かぐやに仲のいい友達が出来たことはとても嬉しいのだが……。
かぐやを守れるだけの騎士になりたい。という目標に、ティナさん本人が引き合いに出てくると返す言葉がない。僕の中にはまだ、あの日の戦場で見た、ティナさんの勇ましい背中が鮮烈に焼き付いている。
「よしっ、年齢なんて関係ないですよね。僕は純粋に、ティナさんたちみたいな強い騎士になりたい」
腕を組んでそっと微笑み、横目で僕の言葉を待つ少女に真っ直ぐに向き合う。ゆっくりと膝を折り、頭を下げる。
「ティナさん、いえ、ティナ先生。僕を先生の弟子にしてくださいっ!!」
「……ふふ、いい眺めね。今どんな気分なの?」
「……」
「ジン、コイツはこういう奴だぞ」
僕はこうして、何度目かの屈辱と共に、僕には勿体ないほど優秀な先生に巡り合えた。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




