僕を弟子にしてください
「ぶふぁッ!? お前を弟子にしろだ!?」
「はいッ!!」
眉をゆがめ、口元からお茶が滴っているパンチさん。その正面に正座し、困惑した瞳を見つめる僕。これが、青龍騎士団の本部の一室で落ち合って約5秒後の状況である。
以前の僕ならば、恐れ多く、微塵も考えられないことではあるが、あの天界革命で戦場を共にしたことや、事後聴取で何度も会っていた事もあり、憧れだった青龍騎士団の白兵部隊隊長、パンチさんとだいぶ親しくなることが出来た。
パンチさんは子供の時に僕を助けた事も憶えていてくれて、見掛ける度に気にかけてくれていたらしい。今まで親交が薄かった原因は、僕が勝手に距離を取っていた事だろう。
「いきなり弟子になりたいって言われても……。俺も腕っぷしを前の副団長に認められて入った推薦組だからなぁ。武術は問題ないんだが、学がなぁ」
「構いません!!」
「バカ言え。てか、青龍の白兵隊希望だろ? 入団試験なんて神王騎士団に漏れた実力者ばっかなんだぞ? 武術だけじゃ間違いなく落ちる」
「そうですよねぇ」
パンチさんの言う通り、今となっては青龍騎士団も憧れの仕事の一つ。その倍率は恐ろしいほど高くて有名だ。そして最も人気が高い神王騎士団に漏れた実力者が流れ込んでくることも知っている。
「……俺が言うのもなんだが、もっとこう、食い下がるもんなんじゃねぇの?」
「でもお断りなんですよね?」
「まぁな。弟子を取るなら責任もって育てなきゃねぇだろ? 悪いが俺じゃ役不足だ。それに、かぐやちゃんは風花さんに頼んだんだろ? 俺如きが尚更弟子なんて受けられねぇよ」
パンチさんの言う事もわかる。もしパンチさんと同じ立場だったとして、知り合いが風花さんに弟子入りしたから私はこっちに! と言われてもいい気はしない。
「あぁ~どうしよう。やっぱり働きながらもっかい騎士学校行った方がいいですかね」
「まだ騎士学校に返事はしてねぇんだろ? 俺は大人しく……」
そう言って動きが止まってしまった。
「あれ? パンチさん?」
「お前、騎士になる為ならプライドへし折れるか?」
「えっと、それはどういう……」
手にしていたグラスを静かに置いて立ち上がると、日差しの差し込む窓辺に向かって行った。束の間の静寂。妙に溜め始めたものだから、こちらも下手に動けない。やがて一つ溜め息をつき、ようやく口を開いた。
「実は、お前の師匠にピッタリな奴を知っている」
「えぇっ!? 本当ですか!?」
「あぁ、悔しいがアイツなら学もあるし実力も申し分ない」
「プライドでもなんでもへし折りますから教えてください!! 騎士になれるならなんでもします!!」
「そうか、なんでもするか。じゃあ俺はもう止めねぇ。確か、その大先生は今日団長と一緒に花見に行くって言ってたな」
「団長とお花見!? もしかしてイヴメルティ団長補佐官!?」
あの人も素晴らしく優秀な騎士の一人。他でもない絶対英雄ゴイル団長の補佐官に就いているのだから、今更多くを語るまでもない。当時の青龍騎士団入団試験でも、群を抜いた成績で有名だったと聞いたことがある。天竜の捕食者ではないものの、戦闘技術もかなりのはずだ。
問題は、イヴメルティ補佐官がかなりの美人で、とても温厚でふわふわと優しい人だという事……。そんなに柔らかそうで完璧な方が先生になるという事は。
「ごめんかぐや……、僕は、色香に誘われて勉学に励むクズ野郎になってしまうかもしれない」
「何を考えているのか知らねぇが、杞憂だぞ?」
という事は違うのか。残念……、いやいや。
「とにかく明日また来いよ。夕方に騎士団の応接室で待ち合わせしようぜ」
そう言って不敵に微笑むと、パンチさんは飲みかけだったグラスを手にして中身を一気に煽った。
「わかりました。また明日伺います」
とにかく、また明日来てみればわかることだ。誰であろうと、僕を鍛えてくれる人ならば喜んで師事しよう。
ただでさえ僕は、騎士として長らく時間が止まったままだ。一刻も早く遅れを取り戻して、頼もしい騎士になりたいんだ。もう、決して大切なモノを失わないように。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




