ただいま
だいぶ日が暮れてきた。夕闇は若干赤みが薄く、だいぶ違和感のない夜になった。
未だに叫び続ける巨大天竜の咆哮を背に歩き続けると、ようやく入り口が見えてきた。
「帰って、来られたぁ……」
よろよろとその入り口に手を伸ばすも、ついに膝から力が抜けてしまった。
痛めてしまった足を庇って歩き続けた結果、逆足にも痛みが広がって小刻みに震えている。
倒れこんだ際に、鍋を叩くような派手な音が響いてしまい、医療兵が何事かと飛び出してきた。その人は僕の姿をパチクリとした目でしばらく眺め……。
「あ、あはは……。ただい」
「ーー皆さん!! 帰ってきました! 帰ってきましたよ!!」
そう言ってバタバタと建物に飛び込んでいった。
あれ? 僕は放置ですか?
なけなしの力を腕に込めて、仰向けに体を返すと、大勢の人が入り口から溢れ出てきた。
その先頭にあったのは、この夏見飽きるほど見てきた、博士の安堵した顔だった。
「よくやってくれた。無事で何よりだ。……てっきり刺し違える気だと思っていたので、棺桶を準備しようかと話していたところだ」
期待に応えられずすみませんね。
まったく、この人は不器用なことこの上ないな。
「少年……。よう頑張ったな。待っとったで」
「地界神様。敵将、討ち果たしました」
その言葉を伝えると、周りにいた革命軍や避難していた天界の人たちが一斉に歓声を上げて駆け寄って来た。
「ちょ、怪我してますから! いったぁっ!? 誰ですか今蹴ったの!?」
その場には確かに、天界も地界も関係ない特別な世界が垣間見えた。
「少年、もう一人、報告に行かなあかん人がおるやろ?」
「そうだ! かぐやは大丈夫ですか!?」
「付きっきりの治療のお陰であの子はもう大丈夫や。二階におるから会いに行ったり」
「っ! 良かった……。すぐ行ってきます!!」
さっきまで痛かったのが嘘のように体が軽い。膝はまだガクガクだったけど。
駆け上がる階段が、鬱陶しい程長く感じる。
転がり込むように廊下へ駆け込むと、光の漏れた病室から医療兵が出てきたところだったので、しがみつくように駆け寄る。
「あぁ、君ね。まずはお疲れ様。君が頑張ってくれたから、かぐやちゃんの命に別条はないよ。……でも、精霊の方がよっぽどひどい状態でね。その影響なのかまだ眠っているわ」
「そ、そうなんですか……」
「ほら、男の子がそんな情けない顔しないの! この部屋にいるから声かけてあげて」
「ありがとうございます!」
医療兵に深々と頭を下げ、扉の閉まった部屋の方へ体を向ける。
無事であるのはわかったが、まだどこか信じられず、静かに声をかけた。
「かぐや……。入るよ」
部屋の中には簡素な医療ベットが二つあって、その奥に彼女はいた。
全身に包帯が巻かれ、無数の機器に見守られながら眠っている。
近付いて顔を覗き込むと、泣いてしまいそうなくらい穏やかな寝顔で。
「……っ、ただいま」
小さく上下する彼女の胸をみて、僕はようやく力を抜くことが出来た。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




