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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
55/83

英雄の背中

「おのれ……。こればかりは使いたくはなかったが。後悔するなよクソガキがぁ!!」

 そう叫ぶと、服の裏ポケットから細身の瓶を取り出した。中身は銀色の液体。また何かする気か!?

「させるかぁ!!」

 渾身の力で地面を蹴り、その瓶を持つ右腕に刀身を叩きつける。剣と共にゴドナーの体を離れた右腕は、勢いよく地面に打ち付けられ、鮮血の華が咲く。握っていた小瓶も砕け散り、生々しく転がった腕に降り注いだ。

「ぐあぁぁぁ!?」

「これで、最後だ……」

 振り上げた血染め剣。見開かれたゴドナーの眼孔。その切っ先を首に振り下ろす。刹那、転がった右腕が爆風を巻き起こした。

「っ!? くそっ!」

 しまった……っ!! 体が!?

 予期せぬ爆発に体は堪えきれない。吹き飛びながら睨みつけたゴドナーは、不気味に口角を吊り上げた。

 どうにか態勢を立て直すと、白煙を上げる奴の右腕が目に入った。

「ふふ……、あははは!! 俺の右腕を供物にするとは、考えたなクソガキ」

「なっ、そんな!?」

 その光景は、僕の身体を地に縛り付けた。次第に膨らんでいく白煙の隙間。さっきまで影もなかったその場から、天竜が顔を出した。

「なんで、天竜が……!?」

「驚いたようだな、小僧。言ったであろう? 天竜は天界が生み出した生物兵器。その正体はな、人体を触媒にした召喚獣だ!! 片腕のみで少々小ぶりだが、時間稼ぎには充分だ」

『宿主さん、あいつが逃げるよ!』

「で、でも、天竜が……」

『出来る限り僕が守るから!! 走って!!』

「っく、逃がすかぁ! ――ッ!?」

 駆け出した瞬間、天竜が僕目掛けて飛び込んできた。その大きな口を開けて、生まれたままの白煙を引っ張りながら。さらに、追い打ちのように、足から鈍い痛みが全身を駆け巡った。

 さっきの爆風でッ!? ……だめだ。足が……、止まる。


「止まるんじゃねぇ!! そのまま走れ!」


 ……えっ!?

 距離を詰める天竜の頭が地面に叩きつけられた。その衝撃で体はよろめいたが、なんとか次の一歩が前に出た。

 理解が追いつかない瞳に映ったのは、騎士の大きな背中。

 身の丈ほどの大きな長剣。風に揺れている、長のみが背負うことを許された、群青色の龍の咆哮。晴れた土煙に混じる煙草の匂い。

「コイツは俺が喰い殺す。お前は真っ直ぐ走れッ!!」

 その背中は、本当に大きかった。地界で騎士を志す者が皆追いかける、真の絶対英雄。

 男の名は、青龍騎士団 団長≪ゴイル・ハーマン≫。地界アストピアス、いや、全世界最強の騎士。

「ゴイル団長……ッ!!」

「さっさと行けぇ!!」

 まだ未熟な僕でもわかる圧倒的な存在感。団長の覇気に鼓舞され、僕は再び走り始める。

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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