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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
53/83

開戦の光弾

 新人騎士を示す真っ白な騎士服を、威圧するように向かい風が押し返す。

 無残に破壊された街並み。不発だったと思われる砲弾に寄り添ったボロボロのぬいぐるみ。人気はなく、声もない。鼓膜を揺らすのは絶え間ない爆発音と、銃声、撃ち上がる大砲の風切り音。こんなに寂しい景色の先に、ゴドナーはどんな理想を描いているというのか。

 皮肉にも透き通るように晴れた空へ、一筋の光が駆け上った。

「作戦開始の合図だっ!! いくよオリジン!」

『いつでもどうぞ~!』

 僕の役目は、とにかく無傷で本陣に突入すること。数キロ先では光炎が立ち昇り、腹まで響く咆哮と共に白銀の巨体が宙に舞い上がる。僅かに光る赤と蒼白の光が、天竜の注意を引きながら、天界軍の前線や敵本陣の反対側まで引っ張って行く。

 遠目でもハッキリと見える、大きな氷塊や火柱。パンチ部隊長とティナさんが誘導してくれたお陰で、このまま市街地を突っ切れる!

「待ってろゴドナー。今から行くぞ」

 踏み出した右足に、あらん限りに力を込めると、体は風を切りながら順調に速度を上げる。

 崩れかけた氷の砦が見えてきた辺りだろうか、雲の切れ間に、再び赤い光弾が尾を引いた。

「風花さん見付けてくれたんだ!! ゴドナーがあの下にいる」

「ジンさん。風花様が敵将を見付けたようです。私が道を繋ぎます」

「アダムス副団長! ありがとうございます!」

 並走していた副団長は一歩のアクセルで一気に追い抜き、着地と同時に地面に剣を突き立てた。走る足に力を込めると、地響きが体に轟く。次第に地面がせり上がり、赤い光へ伸びる一本道に変わった。

「ご武運を」

「ありがとうございます!!」

 その道に飛び乗ると、今まさに郊外へ引っ張られている巨体が再び見えた。

 改めて思うけど、やっぱりあの天竜は巨大すぎる。僕が地上で見た幼体の天竜の倍、いや、さらにその数倍はあるだろうか。砂塵をまといながら戦場を闊歩し、眩しく陽の光を弾き返す白い翼。走る横目に天竜討伐戦の様子を見ていると、急にこちらへとその顔が向いた。

「えっ!? こっち見てるよね、あれ……」

 大きな翼を広げ、咆哮と同時に扇ぐと、少し遅れて突風がぶつかった。距離がある分風が散って多少は堪えられるはず。

「くっ……。止まって、たまるかっ!」

 その風は戦場に散らばった瓦礫を巻き込み、強烈な風塵と化す。

「ッ痛!? くっそ! 体が、重――ッ!」

 崩れる姿勢に足がもつれた。不味い……。飛ばされる……。

 なんとか落ちまいと、手を伸ばした時。本陣への一本道に沿うように、氷の壁が立ち上がった。

「間一髪ね。まったく、楽勝とは言ったけど、あんたのお守できるほど暇とは言ってないわよ」

 青く透き通った壁の向こう側では真っ赤な火柱が立ち昇り、一際大きな咆哮が地面に轟く。

 若干十二歳とは思えない風格の背中は、小さな白い霧と共に消えて行った。

「ティナさん。パンチ部隊長。……ありがとうございます!!」

 伸ばした左手で足元を叩きつけ、英雄たちが築いた道を強く踏みしめ、走り続ける。

 ようやく市街地を抜け、せり上がった地面が緩やかに下っていく。

「ジン君、あそこに敵将がいます。護衛の天界軍は私が始末しました、先へ進んでください」

「風花さん!! わかりま――」

 天竜の叫びと同時、赤い火の玉が三つ空を駆けた。

「っ!? 緊急……、ブレス!? ジン君伏せて!!」

「ぅえっ!?」

 風花さんは、全力で走る僕を地面に押し伏せ、まとった黒い羽織の中に抱き込んだ。一瞬の静寂の後、景色が揺らぐほどの轟音と爆風に呑み込まる。激しく揺れる羽織の隙間から見えたのは、街が宙を舞うという奇怪な光景だった。

 枯れ葉のように家が丸ごと押し流され、崩れる間もなく消えていく。ザラザラとした衝撃は、その通り道を別世界に塗り替えた。

「っく……。なんて威力。あれほど距離があるのにっ!」

「こんなのが直撃していたら……」

 想像に容易い。僕よりも遥かに丈夫そうな建物が、いくつも塵になっているんだから。

 ようやく過ぎ去った天竜のブレス。僕と風花さんのいた場所を残して更地へと化してしまった。

「討伐組の皆さんが心配ですね。すみませんが、私は至急そちらに向かいます」

「わかりました」

 冗談じゃない。あの天竜からここまでどれだけ距離があると思ってるんだ!? その射程にあった物が全て、あの一撃で姿を消した。

「あのブレスの中で生き延びるとは、少々見くびっていたか」

「っ!!」

「あまりにも遅いので迎えに来たぞ? クソガキ」

 ついに、悠然と待ち構える男の姿を捉えた。

「ずいぶんやるじゃないか。地界の害虫共は。大誤算だ、必ず地界を手に入れねばならん」

「ゴドナー。……約束通り、因果の取り立てにきました」

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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