やり残したこと
瓦礫の海をしばらく進むと、パンチ部隊長は、まだ火の気がない街の外れに着地した。目の前には大きな建物があり、その入り口には、見覚えのある二人の姿が見え、無意識のうちに二人を呼んでいた。
「博士!! 地界神様!!」
少し疲れたような面持ちの、地界神と博士が待っていてくれた。
「ジン……。よくやった」
「ほんまや! ようやったで少年。お陰でなんぼか動けるようになったわ。っと、それよりその子や」
地界神にカグヤを見せると、治癒術をかけながら精霊の状態を見ているようだ。しかし、状態は予想以上だったようで、あからさまにその表情が歪んだ。
「……あかん。この子には申し訳ないけど、精霊は助からん」
「また、精霊を宿してもらうことは出来ないんですか?」
地界神様は、僕の質問に何も答えず、静かに首だけを振った。滲み漂う不安を受け入れられず藁にもすがる思いで博士を見る。
「精霊暴走を起こした体内には、精霊にとって毒となる穢れが溜まる。ましてこの小娘は、あわや神殺しに到達するほどだ。そんな身体の中に精霊を入れようものなら、たちまち穢れに侵されて精霊暴走を起こす。この小娘に宿すのであれば、穢れに耐えうる余程強力な精霊でなければ……。無論、異常値な穢れの中に自ら飛び込んでくれる精霊がいればの話だがな」
「そんな……。何か、何か手は無いんですかッ?」
「……時間はかかるが、精霊王ならばどうにかできるかもしれん。だが、こいつがこの小娘の中に入れば、今までやってきたことが、台無しになる」
「正直、この子に溜まった穢れに最後まで耐えれる自信は無い」
「とりあえず今は救護の連中に任せよう。幸い息はある。まだこの状態なら……」
「せやな、白坊主の力で神殺し化は止まっとるみたいやし、あとはうちが抑えながら助かる方法を考える」
「はい、お願いします」
「まかしとき。なんとかしたる」
先の見えない不安に、軽くなったはずの体が押し潰され、その場で足が崩れてしまった。運ばれていく少女を呆然と見送っていると、雑に頭を撫でまわされた。
「よくやったな、ジン。お前が助けたんだぞ。自信持て」
「パンチ部隊長……。ありがとう、ございます」
「さて、俺は前線に戻るぜ。団長たちに任せっぱなしにしてらんねぇしな。そうだ、眼鏡の方。地界に繋がったら、真っ先に医療部隊を集めてださい。戦闘員は後回しでいいっす。俺たちで押し返すんで」
「あぁ、苦労をかけてすまない。もうすぐ繋がるだろう。我々の知恵を集めて、早急に援軍を集める。それまで耐えて貰いたい」
「了解っす」
パンチ部隊長は真っ赤に染まった空を睨みつけた。その瞳は、確かな可能性を見ているようだった。
僕はどうする。このままここにいていいのか? もう役目は終わったのか?
いいはずがない。何より、僕には一つやり残したことがある。
「……パンチ部隊長、僕も、連れてってください」
ゴドナー・ハンバッグ。あの人だけは、絶対に許せない。例えこの手を血に染める結果になっても……。
「何言っているのだ貴様!? そんな状態では足手纏いになるだけだ。紛れもない戦場なのだぞ」
「すみません博士。でもお願いします! あの人は、僕が裁かなきゃいけない気がするんです」
空を睨んでいたパンチ部隊長の顔が、少し緩んだ。
「泣くんじゃねぇぞ? 自分の敵討ちに行って泣かされたなんて聞いたら、あの子恥ずかしくてどうしようもねぇからな。……あの子に、恥かかすなよ?」
「はいっ!!」
紅の空に高々と声をあげ、僕は本当の戦場へと、この足で駆け出した。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




