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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
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地獄の茜空

『急いで宿主さん。かぐやの生命力が急に弱まってる。神殺し化はなんとか抑えてるけど、急いで手を打たないと』

「わかってる。はぁ……、そう簡単にハッピーエンドにはしてくれないよね」

『そりゃそうさ、君は実質的に“世界の終末”に反抗したんだ。宿主さんがやるべきことは、まだまだたくさんあるよ~』

 せめて、かぐやの安全が確保できるまでは立ち止まれない。再び神殺しにされるようなことがあれば、もう手の打ちようがない事は理解している。

 かぐや救出から数分後。地上への階段を登り始めた時、かぐやは既に意識を失っていた。オリジンが言うには、本来発揮出来ないはずの人間の身体能力を、精霊が宿ることによって底上げしているらしい。つまり、精霊が神殺しになりかけている今のかぐやは、生命力が著しく低下した状態で、さらにあの実験の疲労が一気に押し寄せている状態らしい。

「……ゴドナー。絶対に許さない」

 あの人だけは、何があっても許すことができない。こんなになるまで一人の少女を追い詰めて造ったのが、無慈悲外道な殺戮兵器。鮮血で書き綴る平和という文字に、どれだけの犠牲者を必要とするつもりだったのか。

「っく。まだ頭がクラクラする」

 精霊術を初めて使った反動もあるのだろうか。動く度、こめかみの辺りに鈍い痛みが走る。

『まだ力の制御ができてないんだから当然だよ。今の宿主さんの霊力じゃ絶対に力尽きてたはずだよ。主様には感謝しなよ?』

「そうだね。その為にも、早く地上に出ないと。……頑張って。もう少しだから」

 背負っているとは思えないほど軽い身体は、気が付いたら消えてしまいそうで。返事が返ってこないとわかっているけど、ずっと声をかけ続けていた。

「見えた、やっと出口だ!」

 でも、そこで待っていたのは、真っ赤に染まった空と、いくつもの銃声と爆発音だった。

 周囲を囲むように立っていたそれぞれの研究棟は、一部が瓦礫と化し、元の姿を想像できないくらい、荒廃した戦場に変わり果てていた。

「なんだよ、これ。せっかく助け出せたのに、これじゃ……」

『呆れた。ひどい惨状だね。とにかくここは危険だよ。安全な場所を探さないと』

「……うん」

 ごめんね、オリジン。こんな醜い景色になっちゃったけど、絶対にあの綺麗な眺めを取り戻してみせるから。みんなが諦めずに立ち向かって、オリジンに繋いでもらった大切な未来だ。何があっても、最後まで守り通す。

「ジンか!? 良かった、無事だったのか!」

 爆音に紛れて聞こえてきたのは、パンチ部隊長の声だった。壁面があちこち崩れた研究棟の上から躊躇なく飛び降り、僕たちの方へと駆け寄ってきてくれた。

「パンチ部隊長、お陰様で神殺しはひとまず止める事ができました」

「そうか、よくやったなジン。一人で残ったって聞いたから心配してたんだ。ったく、ガキの頃から無茶する奴だな」

「あはは、すみません。あのそれで、今のこの状況は?」

「あぁ、作戦開始の直後、天界軍が攻め込んできたんだ。今は俺たち天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)が前線を居住地区外まで押し返してる。地界神様も革命軍も全員無事だ」

「よかった……。そうですか。非常時に参戦することになっていた地界からの増援は?」

「その事なんだが、なんかメガネの人曰く、地界に転移装置が干渉できなくなっちまったらしい。ゴドナー、だっけ? あの野郎が転移装置をめちゃめちゃに書き換えた、とか言ってたな。今突貫で革命軍のヤツが代品を作ってるとこだ」

 ーーまさか、ゴドナーはこれが狙いなのか!? 少数精鋭な天竜の捕食者だけを天界に閉じ込めて、圧倒的な数で制圧するつもりで、あえて革命を始めさせたのか?

 天竜の捕食者の戦力を信用していないわけじゃないけど、圧倒的な人数差がある今の戦況だ。そんな中、増援もないなんて……。

 途端、背中に背負った重みに、押し潰されそうになった。

 どうしよう。このままじゃ……。

「なに不安がってんだ? 俺たちは地界の最強部隊だぞ。売られた喧嘩にケチはつけねぇよ。天竜だろうが、軍隊だろうが関係ねぇ。どこの誰が何人相手だろうと、絶対に生きて還る。それが俺たち、天竜の捕食者の鉄の掟だ」

 素直に胸へと突き刺さるその言葉を、身体中に染み込ませてから顔を上げる。

「……そうですね。僕も絶対に大丈夫だって信じます!」

 パンチ部隊長は本当に格好良い。初めて会ったときからそうだ。どんなに無茶とも思える戦場に飛び込んでも、絶対に弱音を吐かない。僕がこの人に憧れたのは、その勇敢な姿に、かつて憧れたヤマトにいちゃんを重ねたからかもしれないとすら思う。

「さって、こうしちゃいらんねぇ。動けるか? 地界神様のとこまで連れてってやる」

「大丈夫、動けます。急ぎましょう」

「おう、俺が担いでってやる。離れるなよ?」

 パンチ部隊長の肩に腕をまわすと、体があっという間に空中へと飛び上がった。

「背中の子、落とすんじゃねぇぞ? さすがに拾えねぇからな。しっかり捕まえとけ」

「はいっ!」

 眼下に広がるのは、朽ち果てた坑道にも見える地上。その真上に広がる空は、正直、とても心地いい景色ではなかった。一面が焼け野原で、人の気配なんてどこにもない。散りばめられた瓦礫の山と、眩しくそびえ立つ炎の柱。風をきる轟音にも負けない、腹に響く爆風。あんなに感動したはずの美しい天界の景色は、束の間のうちに、幻になった。

 オリジンに見せたかったはずの綺麗な空はどこにもなく、僕は無意識に、そっと目を伏せていた。

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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