無能の白銀纏雷騎士
『聞こえてるってば。早く手を伸ばして!』
咄嗟に手を挙げると、両手が白く輝き始め、やがて白銀の雷へと姿を変えた。
それは温かくて、淡く、綺麗な光だった。
いつか見たおぼろげな花火のようなそれに、僕は心底見惚れてしまった。
「これが、オリジンの……、僕とオリジンの精霊術」
『ボケっとしてたら間に合わないよ! 精霊術はボクが調整するから、とにかく集中!! 油断してると飲み込んじゃうよ!』
「ごめん。いくよオリジン!!」
僕をずっと拒み続けたガラス壁に手を添える。すると、痛みでずっと麻痺していた指先に、薄い感覚が戻ってくるのがわかった。次第に両手が真っ白な光に包まれ、纏った白い稲妻が大きく暴れ始める。
『ちゃんと集中しておいてよ。……さぁ消すよ』
腕を伝って全身から湧き上がる光に、自分自身でさえ驚きを隠せない。
「白い光が、壁を喰らってる……!?」
光と稲妻が激しさを増すと、ガラスに両手が沈み込む未知の感覚がやってきた。
『何ぼさっとしてるの! 力入れて、もう立てるでしょ!?」
グッと足に力を入れると、先ほどまでフラフラだった足が、地面から体を持ち上げた。
『ほらほら、もう指は向こう側だよ! このまま両手で押し広げて』
「ッぐぅ!!」
まるで、重い扉でも開いているような不思議な感覚。両手を押し広げるごとに、真っ白な光がガラス全体へと這い回り、稲妻がバチバチと白銀の火花を上げた。
「はあぁぁぁーーっ!!」
渾身の力を込めて両手を開くと、今までびくともせずに拒み続けていた分厚いガラスの壁が、跡形もなく消え去った。
「やった!!」
『まだ終わってないよ宿主さん! 次はかぐやだ。神殺しを引き起こしてる物が何かあるはず!!』
どこだ!? 部屋の中には天井からぶら下がった鎖ぐらいしか見当たらない。くっそ、どれだ!? もしかして、さっきの首輪が!?
「オリジン、この首輪かもしれない」
何が起こっているのか、まだ薄れゆく意識の中で、理解が追いつかない様子の少女。虚ろな眼差しのかぐやの首にぴったりと張り付いた首輪を掴む。
『集中して首輪だけを意識。気を抜いてると、かぐやの首ごと消しちゃうからね』
意識して再び力を込めると。再び稲妻が両手を包んだ。引きちぎるように首輪を引き伸ばすと、跡形も無く消えていく。瞬く間の出来事に自分でも驚きを隠せず、消した反動でその場に尻もちをついてしまった。
倒れていたかぐやは、震える手をゆっくりと伸ばし、僕の手をそっと掴んだ。手繰り寄せるように、か弱い力で引っ張り、少しづつ身体を起こすと、力尽きるように僕の胸へと飛び込んで来てくれた。。
『宿主さんは呼びかけ続けて、ボクは精霊の間に入り込んでみる』
「わかった。かぐや! かぐや!!」
(……ジン、くんだ。……あ、あったかい…ジンくんが、いる)
『よし、繋がった! ……あとは任せて』
「っ!! かぐや、助かったんだよ! もう…大丈夫だからっ……」
(私の、精霊が……ずっと、諦めないでって、頑張って…くれていたから)
「そっか、もうっ…大丈夫。助けに来たよ。遅くなって、ごめん、……ごめんね、かぐや。僕、やっと、思い出したんだ。ずっと、辛い思いさせて……本当にっ、ごめんね」
かぐやは何も言わず、フルフルと首を横に振っていた。
これが、本当のかぐやの姿だ。今ならわかる。
ずっと名前を隠していたのも、無理に“ぼく”なんて言っていたのも、自分の事を話したがらなかったのも、辛い日々の中でずっと笑っていてくれたのも、最後まで助けてって言ってくれなかったのも。全部、全部……。
(ジンくん、辛かった…よね。本当は、もう…思い出さないように、忘れてほしいと、思って…たのに。私、寂しがり…だから、つい、甘えちゃって……、ごめんね)
「――っ!! 僕の方こそっ、ごめんっ……。僕が逃げ出しちゃったから。だからかぐやをっ! 助けたくて…」
今度は縦に、何度も頷いた。
弱々しく僕に巻かれた細い両腕から伝わる、すすり泣きと鼓動。首元に零れる小さな吐息とまだ温かい雫。確かに動いているかぐやの命に、僕たちはそっと耳をすませた。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




