未来へ
気がつけばまた、オリジンの元に来ていた。そして告げられる、最後の宣告。
『もうすぐ、本当にお別れの時間だよ』
「オリジン、まだダメだ! まだ諦めちゃだめだよッ!!」
『……お疲れ様。よく頑張ったよ。でも、もう程なく彼女の中で、精霊の神殺し化が始まる。彼女に残された飢餓の精霊は、精霊王に繋がる霊力回路を逆流して、精霊王を喰い始める。このままほっといたら、精霊王は完全に喰われて、本当のおしまいになる』
「そんな、間に合わなかったの?」
『……ボクは今から、精霊と世界を守る為に、神殺しを生んでしまったこの世界の人間を消し飛ばす。長く寂しい時間のあと、再び新しい歴史が始まる。
何も君たちが初めてじゃないよ。ボクは、今までもこれからも、人間に期待なんてしていない。人間の本質を何回見てきたと思っているのさ。もう数えるのもやめたよ。何で学習しようとしないんだろうね』
「なにそれ、どういうこと? 待ってよ。それじゃあ今のこの世界が生れる前から、ずっとこんな事を繰り返してるの!?」
『そう、こういうことを何度も何度も繰り返してきたのさ。ボクら精霊が創り上げてきた全てを壊し。不敬とも思わず何度だってあの禁術に手を伸ばした。こんな愚かな生物は他にいないよ』
「……ごめんね。オリジンも、いい加減人間が嫌いになっちゃったよね」
『いや、好きだよ。人間はとても面白いんだ。各々に与えられた思考と感情を、時間とともに少しずつ育てていく力がある。その奇跡みたいな発想から、毎回予想もつかない、全く別の未来を見せてくれたんだ。
ある世界は水と共に、ある世界は空と共に、ある世界は大地と共に。同じ人間を殺して領土を広げたり、些細な違いを見つけて排除したり。世界の壁を超えて笑顔を創り出したり。精霊にこんな力はないからね』
「そっか……」
『新しい歴史が生れる度に、いつも淡い期待を抱いてしまう。今回はきっと大丈夫。ずっと一緒に生きていけるって。でも、結末はいつも一緒。いつの間にか精霊は道具にされて、何度繰り返してもあの禁術に辿り着いた』
「そうだよね。僕らは精霊と一緒に生きてる。そのことを忘れちゃいけないんだ」
ボクは、せっかく待ってくれたオリジンに何かできたのか? ずっと待っていてくれたかぐやを守れたのか? 今も待っていてくれている、博士や地界神様、みんなを救うことができたのか? あの日、僕にかぐやを託してくれたヤマトにいちゃんとの約束を果たせたのか?
ーーそうだ、まだ何もできてないじゃないか。だったらまだ、終われない。僕の答えは、もう決まっている。
「……オリジン」
呼び掛けた時だった。オリジンとは別の声が割り込んできた。
「少年、聞こえとるか!?」
「地界神様!? どうして声が」
「今、少年はうちの眷属やからな。精霊の間に直接干渉できんねん」
『主様……』
「少年に頼まれた通り、一般人の避難は完璧や。次はあんたの番やで」
『主様、お言葉ですが、もう間に合いません神殺し化が始まってしまいます』
「どあほ! うちがすぐにくたばると思うな白坊主! 喰われ始めても、うちが完全に消えるまで可能性はあんねん!!」
『ですが、ですがその言葉を信じて、ボクは前の主様を……』
「あんな老いぼれと一緒にすな。あぁせや、少年。眼鏡からの伝言や」
「博士から? なんですか」
「絶対に諦めんな。やって」
「……よく効く痛み止め準備して、って伝えてください」
「わかった。――ッ、もう、抑えられへんな。ほな、待っとるで、二人とも」
『……さっきのはどういう意味だい? 言ったじゃないか。もう無駄だよ』
「無駄になんかさせない。僕がこの結末を変えてみせる。毎回同じ顛末だって言ってたよね? 僕は違う未来がきっとあると思うんだ。僕ら人間の可能性を、オリジンが大好きな、人間の本当の結末を見せてあげる」
『何を馬鹿なことを。かぐやは救えても、もう神殺しは始まるんだよ!? 止める術がない』
「そんなの、やってみなきゃわかんないよ。……オリジン、人間は空を飛べると思う?」
『……なんだい急に。翼もないんだ。そんなの無理だよ』
「残念だったねオリジン。僕らは空を飛べる。厳密には、飛ばされてるんだけどね」
『ごめん、いい加減はっきり教えてくれないかな』
「オリジンは僕らに翼がないって言ったよね。実はあるんだ、精霊っていう翼が。
僕らは精霊の力を足元に圧縮させて、一気に爆発させる≪アクセル≫って飛行術を身につけた。
その空にあった景色は人間だけでも、精霊だけでも見れなかった景色だったと思う。
翼を動かす力があって、力で動く翼があって、僕たちは初めて、その空に飛び立てる。どちらか片方じゃ、新しい未来を目指すなんて無理なんだよ。
もう、一人で終末を抱え込まなくていいんだよ。君には僕がいる。僕も一人であがいてみたけど、やっぱり無理だった。……翼を貸して欲しい、オリジン。一緒に、新しい未来へ行こう」
『……ふ、ふふ、あはははっ!! 馬鹿馬鹿しい』
「なっ、ちょっと! 笑わないでよ!!」
『あははっ。……はぁ、全く。宿主さんは本当に面白いね。こんな絶望的な状況で、まだこんなにワクワクさせてくれるなんて。でもどうするつもりだい?』
「オリジン、かぐやの精霊を丸ごと隔離できないかな? 僕の記憶を一時的に隠していたみたいに」
『精霊の力は隔離できる。ただそれだと、神殺しの根本的な解決にはならないし、かぐやは永遠の精霊暴走に苦しむことになる。ボクに出来るのは、神殺しから精霊王への逆流を消し続けるだけ。それにどうやってかぐやの精霊に干渉するの?』
「かぐやは、精霊術を応用した精神干渉で僕と話をしてた。その精霊術を逆流して、あの子の精霊の間に届かないかな?」
『……なるほど、面白い考えだね。でも、そんなことしたら彼女がどうなるかわからないよ? ボクだって初めての試みなんだ。心が消滅する事にもなりかねない』
「でも、これしかないでしょ? あんなにボロボロになっても、僕を待っていてくれたんだ。僕達が出来るのは、かぐやが最後の力で必死に伸ばした手を、掴んであげることだけだよ」
『……ふーん』
しばしの沈黙の後、精霊の間から意識が戻り始めた。真っ白だった景色が、現実味を帯びた実験室と、ガラスからゆっくり滑り落ちる少女に変わる。
「……オリジン? オリジン!?」
声をあげても返事がない。今まで忘れていた体の痛みが蘇ってくる。ついに、うずくまってしまったかぐやも再び苦しみだし、首に取り付けられた鉄の輪を外そうともがいている。
「――ッ、オリジン!! 諦めちゃだめだ!! 早く!!」
『聞こえてるってば。早く手を伸ばして!』
その声を聞いて咄嗟に手を挙げると、両手が白く輝き始めた。次第に強くなるその光は激しく揺れ動き、やがて白銀の雷へと姿を変えた。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




