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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
40/83

ぼくのきおく

「おーい二人とも、はやく来いよ」

「まってよヤマトにいちゃん! だ、大丈夫?」

「うん、平気だよ。ふぅ、まったく、にいさんてば子供なんだから」

「お前の方が子供だろ!? ジン、しってるか? こいつ、おとぎ話に出てくる英雄と結婚したいんだって。あはは、こいつの方がお子様だよな!?」

「あぁ―ッ! ジンくんにはナイショって言ってたのにぃ!!」

「それってしろいマントの英雄さんのお話だよね!?」

「おいジン、今はそんな話じゃないだろ? こいつがまだ子供だって話」

「え? えへへ、ヤマトにいちゃんたちと一緒なのが、うれしくなっちゃって」

 初めてじゃない、初めての記憶。あれは、小さい頃の僕と、あの女の子の兄、ヤマトにいちゃん。そして、あの子が。

「ぼくもスキなんだぁ! かぐやと一緒だね!!」

 そう、“かぐや”という少女。僕たちはずっと一緒だった。

 あの頃はよく、英雄ごっこをしていた。大好きなおとぎ話の英雄に憧れて、ぐだぐだな三人でなりきりって。年下の僕に英雄役を毎回譲ってくれたヤマト兄ちゃん。お姫様らしからぬ活発さではしゃいでいたかぐや。そして、強くて、かっこよくて、憧れてしまうような魔王役がヤマト兄ちゃん。朝から夕方まで思いっきり遊んで、帰るたびに泣きそうなほど寂しくなって。悲しくなるほどの、楽しい記憶。

 そうだ、あの日は突然訪れたんだ。

「けほっ、けほっ。ホコリまみれじゃんココ。秘密基地にできるかな?」

 ヤマトにいちゃんたちの家の裏にあった大きな蔵。正面の扉は大きな錠がかけられていたんだけど、こっそり換気窓から忍び込めるようになっていた。そこには沢山の衣類や、古くなった家財道具の他にも、剣のような武具なんかも置いてあった。

「暗くてカビくせぇけど、秘密基地にはピッタリだな!!」

「ちょっと、にいさんやめようよ。ママたちも入っちゃダメって言ってたのに」

「それに、まっくらで怖いよ。オバケがいるかもしれないよ」

「そんなものいねぇって。それより、宝探ししようぜ!」

「にいさんやめよう? わたしまで怒られちゃう」

「おれが代わりに怒られてやるから。おっ、なんかすごそうなのあった!!」

 それは、とても古びた装丁の本。子供の体の幅くらいで、少し大きいのが印象的だ。

「なんだこれ? よめねぇじゃん」

「……みたこともない字」

「うん、べつの国の字なのかな?」

「やっぱりお前たちも気になるんじゃないか。にしし、開けてみようぜ」

 文字ばかりが埋めるページを捲っていくと、あるページから挿絵が増え始めた。

「――ッ! ヤマトにいちゃん、これお話に出てたアクマじゃない!? こっちも、こっちも!!」

「にいさんこれよんじゃダメな本じゃないの!?」

「そ、そんなわけないだろ。それに、アクマとかいないって言ってんだろ! ……あれ? おれ、この字わかるぞ!!」

「うそ? そんな字、よめないよ……?」

「オレは兄貴だからな、当たり前だろ! えっと、なになに?」

 ダメだ!! それを読んじゃダメ!! 唱えちゃいけないんだ!!

「『エロイム…エッサイム、フル、ガティ、ウィ…エ、ト、アッペ、ラウィ…??』だって、なんかの精霊術かな!? つよくなったりして!?」

「どうなんだろう、きいてもわかんない」

「ねぇにいさん、もうやめよう? ちょっと怖いよ?」

「大丈夫だから。もうちょっとだけだって。……えっと、こっちもよめる! んっと、ちの、けいやくをかわせ?」

「にいさん!! もうやめて!!」

「あっ、こら、はなせよ! まだ読んでるだろ!? 破れるって!」

「ふ、二人ともやめなよ。あぶないよ」

「ダメ!! はなして!! これパパにわたしてくる!!」

「あとちょっとなんだから!!」

 しかし、年上の、まして男の子の力には及ばなかったかぐやの手は本から外れ、引っ張っていた勢いのまま、後ろに倒れてしまった。

「かぐや!? だ、大丈夫?」

「もう! 血がでた!!」

「わ、悪かったよ。……これは、オレがとうさんに返してくる。すぐに薬持ってくるから外で待ってろ。ジン、ちょっとかぐやをみててくれ」

「う、うん。大丈夫?」

「もう、にいさんが言うこと聞かないから」

 慌てて外へ出ていくヤマトにいちゃんを見送って、泣きそうになってるかぐやの頭をそっと撫でる。しかし、すっかりむくれてしまっている。

 ようやく動く気になったらしいかぐやと、一緒に蔵の外に出て待っていたのだが……。なかなか帰ってこない。

「ヤマト兄ちゃん、おそいね?」

「きっと怒られてるんだよ。いい薬! もう、行こうジンくん。待ちくたびれちゃった」

 そうして家に入ったが、子供ながらに感じる違和感。何度か出入りしていたからわかる。こんなに静かな事ってあったかな?

「ねぇ、みんないないの?」

「ううん、パパもママもじぃじも、今日はみんないるよ?」

 じゃあ、なんでこんなに……。


 ――ッドン!!


 二階から大きな音がした。

「すごい音……」

「どうせにいさんでしょ? にいさん! ママは~?」

 返事はない。

「もう~! わたしちょっと見てくるね?」

 そう言って、静まり返った家に小さな足音が消えていった。

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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