ぼくのきおく
「おーい二人とも、はやく来いよ」
「まってよヤマトにいちゃん! だ、大丈夫?」
「うん、平気だよ。ふぅ、まったく、にいさんてば子供なんだから」
「お前の方が子供だろ!? ジン、しってるか? こいつ、おとぎ話に出てくる英雄と結婚したいんだって。あはは、こいつの方がお子様だよな!?」
「あぁ―ッ! ジンくんにはナイショって言ってたのにぃ!!」
「それってしろいマントの英雄さんのお話だよね!?」
「おいジン、今はそんな話じゃないだろ? こいつがまだ子供だって話」
「え? えへへ、ヤマトにいちゃんたちと一緒なのが、うれしくなっちゃって」
初めてじゃない、初めての記憶。あれは、小さい頃の僕と、あの女の子の兄、ヤマトにいちゃん。そして、あの子が。
「ぼくもスキなんだぁ! かぐやと一緒だね!!」
そう、“かぐや”という少女。僕たちはずっと一緒だった。
あの頃はよく、英雄ごっこをしていた。大好きなおとぎ話の英雄に憧れて、ぐだぐだな三人でなりきりって。年下の僕に英雄役を毎回譲ってくれたヤマト兄ちゃん。お姫様らしからぬ活発さではしゃいでいたかぐや。そして、強くて、かっこよくて、憧れてしまうような魔王役がヤマト兄ちゃん。朝から夕方まで思いっきり遊んで、帰るたびに泣きそうなほど寂しくなって。悲しくなるほどの、楽しい記憶。
そうだ、あの日は突然訪れたんだ。
「けほっ、けほっ。ホコリまみれじゃんココ。秘密基地にできるかな?」
ヤマトにいちゃんたちの家の裏にあった大きな蔵。正面の扉は大きな錠がかけられていたんだけど、こっそり換気窓から忍び込めるようになっていた。そこには沢山の衣類や、古くなった家財道具の他にも、剣のような武具なんかも置いてあった。
「暗くてカビくせぇけど、秘密基地にはピッタリだな!!」
「ちょっと、にいさんやめようよ。ママたちも入っちゃダメって言ってたのに」
「それに、まっくらで怖いよ。オバケがいるかもしれないよ」
「そんなものいねぇって。それより、宝探ししようぜ!」
「にいさんやめよう? わたしまで怒られちゃう」
「おれが代わりに怒られてやるから。おっ、なんかすごそうなのあった!!」
それは、とても古びた装丁の本。子供の体の幅くらいで、少し大きいのが印象的だ。
「なんだこれ? よめねぇじゃん」
「……みたこともない字」
「うん、べつの国の字なのかな?」
「やっぱりお前たちも気になるんじゃないか。にしし、開けてみようぜ」
文字ばかりが埋めるページを捲っていくと、あるページから挿絵が増え始めた。
「――ッ! ヤマトにいちゃん、これお話に出てたアクマじゃない!? こっちも、こっちも!!」
「にいさんこれよんじゃダメな本じゃないの!?」
「そ、そんなわけないだろ。それに、アクマとかいないって言ってんだろ! ……あれ? おれ、この字わかるぞ!!」
「うそ? そんな字、よめないよ……?」
「オレは兄貴だからな、当たり前だろ! えっと、なになに?」
ダメだ!! それを読んじゃダメ!! 唱えちゃいけないんだ!!
「『エロイム…エッサイム、フル、ガティ、ウィ…エ、ト、アッペ、ラウィ…??』だって、なんかの精霊術かな!? つよくなったりして!?」
「どうなんだろう、きいてもわかんない」
「ねぇにいさん、もうやめよう? ちょっと怖いよ?」
「大丈夫だから。もうちょっとだけだって。……えっと、こっちもよめる! んっと、ちの、けいやくをかわせ?」
「にいさん!! もうやめて!!」
「あっ、こら、はなせよ! まだ読んでるだろ!? 破れるって!」
「ふ、二人ともやめなよ。あぶないよ」
「ダメ!! はなして!! これパパにわたしてくる!!」
「あとちょっとなんだから!!」
しかし、年上の、まして男の子の力には及ばなかったかぐやの手は本から外れ、引っ張っていた勢いのまま、後ろに倒れてしまった。
「かぐや!? だ、大丈夫?」
「もう! 血がでた!!」
「わ、悪かったよ。……これは、オレがとうさんに返してくる。すぐに薬持ってくるから外で待ってろ。ジン、ちょっとかぐやをみててくれ」
「う、うん。大丈夫?」
「もう、にいさんが言うこと聞かないから」
慌てて外へ出ていくヤマトにいちゃんを見送って、泣きそうになってるかぐやの頭をそっと撫でる。しかし、すっかりむくれてしまっている。
ようやく動く気になったらしいかぐやと、一緒に蔵の外に出て待っていたのだが……。なかなか帰ってこない。
「ヤマト兄ちゃん、おそいね?」
「きっと怒られてるんだよ。いい薬! もう、行こうジンくん。待ちくたびれちゃった」
そうして家に入ったが、子供ながらに感じる違和感。何度か出入りしていたからわかる。こんなに静かな事ってあったかな?
「ねぇ、みんないないの?」
「ううん、パパもママもじぃじも、今日はみんないるよ?」
じゃあ、なんでこんなに……。
――ッドン!!
二階から大きな音がした。
「すごい音……」
「どうせにいさんでしょ? にいさん! ママは~?」
返事はない。
「もう~! わたしちょっと見てくるね?」
そう言って、静まり返った家に小さな足音が消えていった。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




