叫べ、叫べ、叫べ
再び天井から、余裕綽々なゴドナーの声が聞こえてきた。
「いやいや、虫酸が走るセリフの数々。実に馬鹿馬鹿しい。やれるものならやってみるがいい。完全神殺し化までの制限時間は後一時間だ。これまでの愚かさを懺悔し、祈りを捧げるには充分過ぎる時間だろう」
「悪いけど、あなたの望みは潰します。こんなやり方じゃ誰も幸せになれない。神殺しを止めて、この子を返してもらいます。その次は、あなたの番です。あなたは僕の大切な人を傷付けた」
「黙れ小僧! この私を脅すなど立場違いも甚だしい! そんな貴様には――」
音の出ていると思われる天井の丸い窪みに、引き抜いた剣の鞘を投げつけた。
「喋ってる途中に申し訳ないけど、もういいよ。ゴドナー・ハンバッグ。あなたは、断罪されるべき人だ」
喧しい声が消え、少女の悲痛な叫び声だけが響き渡る。そっとガラス壁に添えた手には、冷たい温度が伝わってきた。
「こんな馬鹿げた尻拭いの為に、精霊の力なんて使えない。できるなんて格好付けちゃったけど、僕には結局、これしかないよねっ!!」
握りしめた剣を振りかざし、心の叫びを全てガラス壁に叩きつける。手のひら全体に衝撃が走り、薄っすらと僕を映すガラス壁は、渾身の一振りを簡単にはじき返した。ガラス壁には小さな傷が一つ付いただけ。
「何もしないよりは。……ましだっ!!」
強烈な金属音。飛び散る鉄片。先ほどと同じように弾かれる。もう一回、もう一回と剣を叩きつける。剣を振るたび、今までの思い出が蘇って来る。
綺麗な夕陽が群青色の彼方に沈んだ日。君と初めて交わした言葉。
「絶対に、諦めるな!!」
重く冷たい曇天が、突然空を覆った日。連れて行かれる君に届かなかった手。
「今度こそ、助けるんだろ!!」
刺さるような痛みに我を忘れ、飛び出そうとした暗い廊下。自分の無力さを思い知り、噛み締めた唇。
「こんな寂しい場所で、終わらせるな!!」
絶対に届くことのない、高く晴れた青空。叫び、もがき、血を吐くあの子を、ただただぼかすだけの涙。
「僕の命を、すべてを賭けるんだ!!」
子供のようにすべてを投げ出した僕を、待っていてくれた白い光。今までの僕を、ぶっ壊してくれたあの人の言葉。
「もう、失いたくない!!」
何の変哲もない星空、鬱陶しいだけの向かい風、当たり前のように流れていた時間。そのすべては、実はとっても大切なモノで。僕はこの世界で、もう一度笑った君に会いたいんだ。
「必ず、僕が助けるからッ――!!」
しかし、握りしめた僕の想いは、大きな破裂音とともに、砕け落ちた。
「――ッ!? っくそ!! まだだ!!」
切っ先の砕けた剣を再び握り、血で滑る柄に力を込める。
なんの痛みなんだろう。次第に震えだした身体に、頬を伝った暖かい感覚。無力だと分かっていながらも、こんな形でしか抗えない自分に無性に腹が立った。
「ッぐ、届けぇぇぇ――ッ!!」
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




