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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
34/83

僕の願いが叶うなら

『はじめましてじゃないでしょ、宿主さん。忘れたのかい? オリジンって名前を』

「君が、オリジン……。僕の声が……聞こえるの? 時々見えていたここは、夢じゃなかったの?」

『ここは、君とボクの境界線。精霊の間って言って、ボクら精霊が宿る人間の心の奥にある場所さ。……とは言え、余程特殊な人間しか干渉できないはずなんだけどね』

 かすれそうな呟きで、最後の一言はよく聞こえなかった。

 しかし、ここは夢の世界ともまた違う場所らしい。

 僕と精霊の境界線か……。

 いまいち理解しがたいけれど、簡単には理解できない状況だという事は理解できた。

「精霊の間……。という事は、君が僕の精霊……」

 ちょっと想像していたものとは違うな。

 七大精霊なんて言うもんだから、てっきりもっとおっかない雰囲気を想像していたんだけど。

『だからぁ~、何回もそう言ったじゃないか。……それともまだ呪いの――』

「えっ? なに?」

『何でもないよ、独り言。しっかし、相変わらず精霊術はヘタクソなんだね』

「いや、急に辛辣だな。だって、今まで精霊術とか使えなかったし」

『情けないなぁ。ようやくあの忌々しい呪いから解放されたっていうのに。まったくボクの宿主さんときたら、相当不器用だし、霊力少な過ぎるし。貧弱だし、無能だし』

 散々いうなコイツ……。

 やっぱりただの夢か? 精霊の間?

 ……わからない。とりあえず、それっぽく相槌を返しておこう。

「……なるほど」

 どうしよう。全然状況が理解できない。というか、なんでいきなり僕に話しかけてきたんだ?

 精霊を宿すってこんな感じなのかな?

 ダメだ、わかんない。博士にでも聞いてみようか。……えっ、やっぱり夢か!?

『ごちゃごちゃうるさいなぁ。ボクがまたこうして呼ばれたのも、君たちのせいなんだからね。君たち人間は、またあのおもちゃを造ったみたいだね。本当に学習がない。旧文明時代の過ちを知らない訳じゃないだろうに』

「おもちゃ……? なんのこと?」

『呆れた。まさか何も知らないのかい? 君たち人間が神殺しとか言う無礼千万な名前を付けたおもちゃさ。あれはボクたち精霊も、そして僕らの主たる精霊王さえも蔑ろにするものなんだよ。ボクたち精霊もあんなに雑な使い方されたんじゃ、さすがに怒っちゃうよ』

 神殺し。その言葉を聞く度に、嫌でも血に塗れた少女の姿が脳裏に蘇る。


『ミィツケタ……』


「――っ」

 そして、その忌まわしき兵器を止めるのは、今の僕に与えられた使命だった。

「そう……だよね、ごめん。でも大丈夫。神殺しは絶対に使わせない。とにかく、君が僕の精霊だって言うんなら長い付き合いになるんだよね。よろしく。一緒に頑張ろう。僕はね、神殺しにされそうなあの子を助けてあげたいんだ」

『……ふぅん。本当にできると思ってるのかい?』

「えっ?」

『ボクの予見では、かぐやはもう助からないと思ってる。神殺しっていうのは、一度始まったら止められない。それはいつの時代だって同じさ。神殺しが誕生した世界に未来はない。何故なら、神殺しを生み出した人間の文明を、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ま、待って。人間の消却?? さっきから何言ってるの!?」

『多分これが最初で最後の自己紹介だね。改めまして宿主さん。ボクが『精霊オリジン』。世界に呼ばれてやってきた、消滅の使者さ』

 どういう事だ……。

 本当に夢でも見ているだけなのか。

 この声はずっと何を言ってるんだ。

「ごめんオリジン、何を言ってるの? 君は、僕と同じ想いじゃないの?」

『あのね、七大精霊っていうのは、本来人間じゃなくて世界に宿る精霊なんだ。創造、無、希望、絶望、時間、空間、そして精霊王。精霊が世界を創って、精霊が世界を動かして、そして、ボクが終わらせる。それが、世界を創った七大精霊としての、ボクたちの使命。……人間との共存は、ボクの役目じゃない』

「……じゃあ、そもそも僕には何の用もない、ってことなのかな」

『……そういう事』

「――っでも、聞いてオリジン。神殺しを造ったのは僕たちじゃないんだ。造ったのは僕がこの後戦う事になる天界軍で」

『――宿主さん。今の言葉がどれだけ勝手な発言なのか気付いているかい?』

「……え?」

『正直、ボクから見れば天界にいるのも地界にいるのも同じ人間じゃないか。どこで暮らしていようが、別々の文明を築いていようが君たちは同じ人間じゃないのかい?」

「それは……」

 予想だにしなかった言葉に思わず言葉を失った。

 説得しようと言葉を探していた思考が、その声に冷やされていくのが分かった。

 僕たちがやろうとしているこの戦争の一番の被害者は、精霊なんじゃないか。

 人間同士の争いにいつの間にか巻き込まれて、いつの間にか自分たちの主を人質にされて、精霊が生きようと足掻く力であるところの精霊暴走を悪用され、いつの間にか精霊同士の望まぬ殺し合いをさせてしまっている。

『ごめん、君たちだけのせいじゃないね。これは主が選んだ世界だ。でもね、そんな選択をしてくれた精霊王を手にかけようとするのは絶対に間違っている。だから守らなきゃいけないんだ。君たち身勝手な殺し合いで、ボクたちの主を、愛すべき精霊たちを犠牲にしていい道理なんかないんだよ』

「だからオリジンは神殺し諸共、人間を消そうとしているんだね」

『もしこのまま神殺しが使われたら、すべてが穢される前に、世界をやり直さなくちゃいけない。ボクは君の体を使って、地界にいる精霊を守る為に、この世界を消し飛ばす。人間である宿主さんたちとは、守るべきものが根本的に違うんだよ』

 ずっと欲しかった精霊の力。でも伸ばした手の先から、ひらりと光が零れ落ちた。

 だけどどうしてだろう。絶望とはまた違う感覚だった。

 今の僕に、この光を死に物狂いにひったくる気はなかった。

 ……そう、だよね。きっとそうだ。

 精霊にとって神殺しっていうのは、人間からの明確な宣戦布告だ。仲間を一人残忍にいたぶられて、主である精霊王の首に剣を添えているような行為だ。

 精霊にとって人間は人間。地界も天界も関係ない一つの種族なんだ。

 僕がオリジンの立場なら……、たぶん僕は、僕たちが許せなくなる。

「ごめん」

『……?』

「僕ら人間がしてきたことは、きっと取り返しのつかないくらい外道な事だったんだよね。例え住む世界が違う天界人のやったことでも、精霊からすれば、同じ人間だもんね。だから、僕が代わりに謝る。ごめん」

『あっははは。君は馬鹿なのかい!? そんな言葉で――』

「馬鹿なんだよ。だから、こんな真っ直ぐな方法しか想い付かない」

 僕は何の為にここにいるんだっけ。

 世界を救う為? 精霊を守る為? 大切な人を守る為?

 やらなきゃいけないことがいっぱいある。助けたい人がたくさんいる。

 僕がやるべき事。僕が今やらなきゃいけない事。

 精霊の事、世界の事、戦争の事……。

 ぐちゃぐちゃになってしまって、もう何がキッカケかよくわからないや。

 でもこれだけはわかる。

 あの子だけは助けなきゃいけない。

 どうしてなのか自分にもわからないけど、あの子にだけは、生きていて欲しい――。

 今終わらせたくない。世界を。歴史を。僕たちの時間を。

 ――どうしても救いたい。

 理由はこれだけで十分じゃないか。だから僕は革命軍に参加したんだ。

 この足を前に出さなきゃいけない、出し続けなきゃいけない。止まった時の景色は、簡単に思い出せるから。

「このちっぽけな命をかけて、神殺しを止める。絶対に使わせない。散々精霊を蔑ろにして神殺しを造った人間の僕が、今更オリジンに力を貸してほしいなんて言えないよ。僕一人で、精霊の力を使えない純粋な一人の人間として、この使命にすべてを賭ける。だからお願い。たった一度だけでいい。チャンスが欲しいんだ」

『へぇ~。宿主さんはバカだけど面白いね。……ふふ、じゃあ、これならどう? ボクと一緒に、何もかもが生まれ変わった世界で、新しい世界を創る王様になろう。過ちを償ってやり直すっていうのも一つの責任の取り方でしょ? そうしたらボクは全ての力を宿主さんの為に使ってあげる。どう? 魅力的な話じゃない?』

 オリジンが軽快に語ってみせたもう一つの未来。でも僕の答えが変わることはなかった。

「ごめん、それはできない。僕はまだ無能なまんまなんだ。オリジンがいくら有能でも、上手に使ってあげられないからね。それに、僕の使命はかぐやを助けること。今度こそあの子の笑顔を守らなきゃね。有能な精霊術と引き換えにその願いが叶うなら、僕は精霊術を使えなくてもかまわないよ」

『……相変わらず、随分その子にこだわるんだね。あ~ぁ、フラれちゃったなぁ。全く、ここまで無下にされたのは久しぶりだね』

 オリジンの声が少し小さくなり、真っ白な世界が眩しく輝きだした。

『そこまで言うなら見せてもらおうかな。幸い、まだ時間は残ってる。ふふ、どうやってかぐやを救うのかな? 少しワクワクしてきたよ。もしボクを楽しませてくれたら、少しだけ力を貸してあげる。……かもねぇ』

 どんどん声が遠ざかって、視界が少しずつ暗くなる。聞きたいことは山ほどあったが、裏腹に声は遠退いていった。

『――今度は楽しい時間を過ごさせてよ、宿主さん』

 ついに視界は真っ暗になり、まぶたの向こうから月明かりが白く届いた。

 時計を見るともう真夜中。

 久しぶりの肉体労働は、想像以上に疲労として体に溜まっていたらしい。

 ずいぶん深く寝ていたようで体が固まってしまいそうだ。部屋の入り口には、すっかり冷え切って水滴の付いた食器が置かれていた。

「……オリジン。消滅の使者」

 その精霊がいるであろう胸に手を当てると、少し早いペースで脈打つ心臓に気が付いた。

 触れていた手を離し、暗がりの中でまじまじと見つめると、薄っすらと白く光ったような気がした。

「君との約束、絶対に守る。必ずかぐやを助けて、君にも見せてあげる。僕が守りたいモノを」

 オリジンが語った人類滅亡という運命をぎゅっと握りつぶし、先日博士に殴られた頬にコツンとぶつけた。

 運命の日まで、もう少し。

 時計は、新しい一日を刻み始めた。

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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