神として、主として
「……実はな、天界内部で計画されとる革命に便乗するで」
「えっ?」
静かに呟いたそんな言葉に、この場に居合わせた全員の思考が止まって複雑な表情に変わった。
「まぁ聞いてや。実はな、天界に何人かお使いを頼んどる奴がおんねん。んで、そいつからついこないだ最新の情報が入ってきたんやけど――」
「「――天界に密偵が居たんですか!?」」
言葉を言い終えるのを待たずに風花とパンチが立ち上がった。
「ちょいちょい、今から説明するからまぁ落ち着いて」
同じセリフと共に同じタイミングで立ち上がった二人は、顔を見合わせて再び席に座りなおした。
少しだけ気不味そうな二人を横目に、フレッドは静かに身体を起こした。
「せめて我々、神王軍には存在を教えていただきたかった。天界の奴らの侵入対策や軍事対策にはとても重要な情報です」
「世界情勢に直結する密偵の存在なんか、怖くて情報共有なんかできひんわ。それに、最近ようやっと連絡が取れるようになった保険みたいな奴やし」
少しだけ不満気な面持ちのフレッドだったが、密偵に関する情報が気になったようで、一先ず言葉を呑んでくれた。
「続けるで。まず前提として、今の天界政府は軍事関係の連中が主に動かしとるみたいや。天界の情勢が攻撃的なのもここに起因しとるらしい」
大人しく話を聞いていたイヴが、徐に小さく右手を挙げた。
「あの、天界内での革命って……。そんな話が出るほど内情が崩れているという印象はありませんでしたが、民衆の不満が溢れるほどに、政府との間に溝があるのでしょうか?」
「どうやらそうみたいやで。うちらから見れば隙のない巨大国家の集まりに見えとる世界やけど、実際は過剰な力を持った軍の単独暴走状態。普通に生活しとる人からすれば、政府のやっとることは意味の分からん兵器開発、鬱陶しいほどの軍備増強、強制的な兵役制度、明確な軍民格差。夢も自由もない若者。せやけど、自分らが軍の怖さを一番身近で見とるから誰も歯向かえへん。天界は自界の民に銃口突き付けて政治しとんねん」
「……思っていたよりも、息苦しい場所なんですね」
垣間見えた天界の事情。
抑圧された人々の顔を想像でもしたのか、しかめた眉間を抑えながら、震えた言葉を溢すイヴメルティ。
誰よりも力の怖さを知っとる優しい子やからな……。
「火種があれば簡単に崩壊するんやけど、徹底的な人間管理のせいで肝心の火種がどこにもない。そこにあらかじめ仕込んでおいた奴を革命の先導者に立てる。うちらはその革命を支援する形で、優勢に立とうって訳や」
「なるほど、私達が焚き付ければ勝手に炎上し始める。ということですか」
風花は納得したようだったが、パンチとフレッドはどこか解せぬといった様子。
「……あの、すみません。疑ってるつもりはないんですけど、その密偵の情報って本当に信用して大丈夫なんですか?」
訝し気な面持ちでそう尋ねたのはパンチ部隊長だった。
「申し訳ないのですが、私も同じ意見です」
案の定フレッドも続いた。
「今の天界の情勢と、攻撃的な一連の行動との関係は一理あると思います。ですが、まだ納得に至る情報が欠けるんです」
「まぁ信じてもらえへんってのは当然やな。せやけど、うちが今回動こうと決めた理由は別にある」
「その別の理由っていうのは……?」
「噂になっとった天界の決戦兵器の存在や」
「――ッ」
「……やはり、実在するんですね」
「向こうでは“神殺し”なんて呼ばれ方しとるみたいやで。今も調べてくれとるみたいやけど、密偵の情報をそのまま伝えると、どうやら、地界の女の子を拉致して兵器化しとる可能性が高いらしいわ。その手段は残忍すぎるで。その子の精霊を無理矢理暴走さして、地界の霊力を喰い尽くす気らしいで……」
「なっ!?」
落ち着いて聞いていた全員が一斉に声を漏らした。声だけでは足りなかったのか、フレッドは立ち上がって殺気立ち始めた。
「これが天界の切り札。要するに、その子を生け贄にして、うちを、詰まる所精霊の長を呪い殺す魔術みたいなもんやな。あとは精霊術が使えへんようになった人らをゆっくりと制圧して、天地を統一。すんねんて」
「……なんて馬鹿げた話だ。許される行為ではない」
「せやから何としても今動かなあかん。そんな話聞いたら、人を愛する地界の神として、精霊を愛する精霊の主として、そんな外道な兵器で、死ぬ訳にはいかん」
久しぶりに感じる怒りに、思わず語調が強くなる。
フレッドもまだ怒りが収まらないようで、顔が真っ赤に染まっていった。
「すまん。一旦落ち着こうや。それに、そろそろ頼もしい助っ人が来てくれる頃やねん」
壁に掛けられた時計に目を向けると同時、会議室の扉が叩かれた。
その後、扉をおずおずと開いて登場した人物に、一番驚いていたのはパンチだった。
まぁ、一番彼を知っとんのは、こいつやからな。
「失礼致します。白虎隊所属ジン・テオドフロール。只今到着致しました」
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




