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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
29/83

精霊の主、地界の神

 窓から差し込んだ肌に刺さるような日照りと、それとは対照的にひんやりとした部屋。

 ゆらゆらと踊る景色の中、各々の目的の為に早足で道を行き交う人々や、日陰に座って涼んでいる子供達。

 そんな平和この上ない日常風景から切り離された、この窓を眺める背中では、物騒な会話が絶えず飛び交っていた。

「いい加減看過出来ません! これで何度目の領土侵犯ですか!?」

「奴ら天界人の侵入経路もまだわかっていないんです。もう神王軍の取り締まりだけでは間に合いませんよ」

 最近また増加の一途を辿っている、天界人による地界アストピアへの領地侵犯と、未確認兵器実験によると思われる原因不明の爆発報告。

 見張りの体制を大幅に拡大してはいたが、未だに天界人の足取りを掴むことは出来ていなかった。

 そんな緊迫した状況に業を煮やし、武力行使という強行策を提案しているのが、神王軍と青龍騎士団の近藤パンチ白兵部隊長ら数名。

「これはもう我らアストピアへの明確な宣戦布告です。大きな犠牲が出ないうちに、いい加減こちらも兵をあげるべきです!! ここまでされては、和平条約も既に形骸化しているも同然です」

 そんな暴れ馬数頭の手綱を、額に汗浮かべながら握り締めるのは、地界政府官房長官を務める、月影風花。非常に頭の切れる優秀な右腕だ。

「落ち着いてくださいパンチさん。天界が保有しているという決戦兵器の噂を知らない訳ではないでしょう?」

「そんなものは噂でしかありません。アストピアに侵入した天界の工作員が、こちらの動きを妨害する為に広めた出鱈目ですよきっと」

「パンチ部隊長のおっしゃる通り。天界の奴らめ、調子に乗っているのも今のうちだ」

「そうです! 先日も西側の森で不審な爆発がありました。きっと天界の奴らに違いない」

 勢いの止まらない血気盛んなお馬さん達……。


 ……うっわぁ。絶対嫌や、こんなん絶対混ざりたないわ。

 ふうちゃんこっちに話振らんといてな。

 せや、知らん顔しとこ。なんなら目まで瞑っといたろ。

「皆さん、少し落ち着きましょう。……地界神様、いかがいたしましょうか?」

 こっち振らんといて言うたばっかりやないの! いや、言うてへんけど。

 色んな意味がぎゅうぎゅうに詰め込まれているであろう溜め息と、一緒に振り向いた風花の顔には疲労が伺えた。

「せやなぁ……。とりあえずお茶もらえる? 喉乾いてしゃぁないわ」

「……もぉ。それでは皆さん、一度休憩を挟みましょうか。再開は十分後でお願い致します」

 風花が小休止を告げると、不満気にぶつくさと会議室を出て行く神王軍をはじめとしたタカ派の人達。

 やれやれと溜息を吐き、背もたれへと体を預ける地界政府をはじめとするハト派の人達。

 度重なる天界による領土侵犯を危惧した、神王軍が招集を求めた今回の軍事議会。

 総勢二十名弱の参加を予定して開催されたのだが、緊急の天竜討伐任務が発生した為、青龍騎士団の多数が欠席となっていた。……約一名を除いて。

 その結果、タカ派の意見が優勢となり、ハト派の面々はすっかり息を潜めていた。

 しっかしほんまおもろいなぁ。

 同じ想いを持っとるのに、こんな両極端に意見が割れるなんて。しかも律儀にお話で決着つけようやなんて、ほんまにお行儀良くて可愛い子達やな。

 ほんま、お空の子達とは大違いやで。あの子らどんな教育つけられてんねん。

「地界神様、どうなさるおつもりですか?」

「なにが?」

 やれやれと大きな溜め息と共にやってきたのは風花だった。

 潤んだ眼差しは、いかにも助けてとでも言いたげだ。

「会議ですよ会議。だからあらかじめ片方ずつ話を通しましょうって提案致しましたのに。大体、全然会議に参加なさらないじゃないですか」

「え? えっと~、なんというか、その~」

 実は、知らん顔していたのには理由が二つあった。

 一つは、この地界の長として、なるべく彼ら自身に未来を決めて欲しいと思う自分なりの想い。

 そしてもう一つ。

 ……正直身も蓋も無いし、前言を自分からぶち壊しているが、もう既に手を打ってしまったのである。しかもつい最近にだ。

 こんなに有意義な会議が催されるならば、こんな野暮な事はしなかったというのに。

 ……知らん知らん。

 こればっかりはどうにもならん。今回だけや。

 すっかり大雑把になってしもたなぁ。もう歳やろか。知らんけど。うち神様やし。

「それは、あれや、なんや、……そう! 考え中やねん! いや悩むわぁ~」

 しかしまぁ、こんな真剣にぶつかり合う機会なんて少ないやろうし、うちの意見はもうちょい出し惜しみしとこ。

 あの論争の中に飛び込むのは嫌やけど、外から見る分には喧嘩みたいでおもろいし。

「……はぁ」

 水滴の滴るグラスを差し出し、風花は小さな溜息を溢した。

「おおきに~。ふぅちゃん、溜息ついたらあかん言うてるやろ? そんなんするから婚期が遠退くんやで」

「んなっ!? い、いいじゃないですか別にっ!!」

 仕込みでもしてあったかのように、一斉に彼女の方を向いた会議室の唖然とした面々。

 急に大きな声出すもんやからみんな見てるやん……。

 真っ赤な顔で、すみませんと頭を下げ、さっきよりおっかない顔で睨まれた。

 そんなんやから婚期が遠退くねん……。

「まったく。……で、どう収拾つけるんですか? このままでは意見がまとまりませんよ」

「まぁまぁええから。もうちょい話聞こうや。そろそろフレッドも来んねやろ? 神王軍の意見は、アイツにまとめてもろたらええやん」

「神王軍は反天界派の権化じゃないですか。既に全員一致で反撃開始だから困っているんですよ! 青龍騎士団はパンチさん達数名以外は軒並み欠席でもう話し合いにはなりませよ」

「それもそうか……」

「天界の決戦兵器だって、威力は未知数なんです。神王軍の意見を鵜呑みにして戦争が始まったら、被害も小規模で収まるとは思えません」

 これは一旦打ち切ってもええかもな。代表者だけ残す方が話も通るやろうし。

「せやなぁ。ウチんとこの反撃から戦争が始まるのは勘弁してほしいなぁ」

「ここで戦争なんて絶対ダメです。出来れば、平和的に解決したいところですが……」

 相手はあの天界。発明したガラクタで、遊びたくてうずうずしてるのは明白だ。

 こんな状況だからこそ、仕込んでおいた切り札に大いなる期待を抱いているのだ。

「……さぁて、そろそろ天界の腸食い破って外へ飛び出すで」

 予定の十分が経ったのか、会議室に賑やかさが帰って来た。それに……。

「……なんや、やっと王都に着いたか。この日を楽しみに待っとったで」

「えっ? 何がですか」

「いやいやこっちの話。さてふぅちゃん、各組織の代表者と天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)残してあとは解散にしてもらえる?」

「え? しかしまだ結論が……」

「予定変更。ちょっとお客さんが来るかもしれん。お茶を一人分余計に作っといて」

「えぇ? そんな急に……」

 こちらが雰囲気を変えたことに気が付いたのか、風花は途中で言葉を飲み込み、重い空気が寝そべったテーブルへと戻っていった。

「すみません、少し意見を絞る為に、一度長官レベルの軍事会議で検討させてください。各騎士団関係者の皆様、ご参加いただきありがとうございました」

 風花の言葉を聞いて会議室は一瞬ざわついたが、一回り大きく作られた上座へ腰掛けた途端、部屋の空気が変わった。

「少し複雑な事情が絡んどってな。今日、君らの未来に関わる重要な軍事作戦を決めさしてもらうわ」

 それを聞いた会議室のメンバーは一斉にざわつき始めた。

「遂に戦争か……」

「どの部隊が出るんだ? 神王と青龍の混合部隊か?」

「部隊編成にどれだけの時間がかかる?」

「地界神様、ここは我々、神王軍に行かせてください!!」

 一斉に沸騰し始めた会議室を、手で仰ぎどうにか宥める。

「待て待て、今作戦は≪天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)≫に総員出撃してもらうわ」

 その部隊名が聞こえたのか、時が止まったようにピタリと声が止んだ。

 ≪天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)≫。

 この地界アストピアで年々被害が増えつつある天竜の迎撃を目的とする、青龍騎士団と政府が共同で立ち上げた対天竜特別迎撃部隊である。

 団員に属するのは、青龍、神王両騎士団の枠組みを超えて選抜された僅か七名。

 しかし、この七名全員が、天竜と単独戦闘できる実力と、討伐・撃退経験を重ねた精鋭中の精鋭。

 軍事的に見ても、彼らの実力は折り紙付きだ。

 なんせ、各々がたった一人で既存の数部隊に匹敵する戦闘能力を有している。

 その中でも飛び抜けて化け物なのが、青龍騎士団団長を兼任するゴイル・ハーマン。

 この男は()()()()()()()としても名を轟かせていた。

 その伝説は出撃の度に増え続け、先日も南方の街で天竜が出没した際、壊滅状態にされた部隊に飛び入りで加勢し、必要兵員指数が二千超と推定された天竜二頭を、単独で、しかもたったの三日で討伐し生還してみせた。

 そんな化け物と肩を並べる騎士が7名。

 戦闘能力だけで見れば、少数ながら間違いなく地界最強部隊の呼び声高い。

「……あの部隊が、総員で出撃するのであれば、我々のような一般騎士は、何も言う事はありません」

「あぁ、あの部隊への加勢は、寧ろ邪魔になるからな」

「とにかく、その辺の動きとか含めて、まずは君らの団長と話をさせてもらうわ」

 ついに、地界の長である自らがハッキリと言及した、天界との明確な対決意志。

 今日からこの地界アストピアは、激動の時代へと舵を切ることになることだろう。

 皆の張りつめた視線が集まる中、会議室の扉が開いた。

 漂う緊張感のせいで、何人かが驚くようにそちらへ目を向けた。

「失礼致します。只今到着致しました」

「お疲れさん。待っとったで」

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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