僕も戦います
もしも、もしも僕にあの子を救える力があるのなら、僕はもう迷わない。
「やってやりましょう博士。僕達が信じる未来を掴み取る為に」
「歓迎しよう。ようこそ、誉れ高き正義の革命軍へ」
博士は僕の視線にその鋭い眼差しをぶつけ、静かに微笑んだ。
「よし、決め台詞が決まったところで、早速だが、お前には革命軍として最初の任務を命ずる」
「えっ? もう初任務ですか。なんかないんですか? 研修みたいな」
「そんなものはない。我が革命軍は年中無休で四六時中任務中。加えて上官である私の命令は絶対厳守だ。キビキビ働け」
「うわぁ……。馬鹿みたいな労働環境ですね」
「取り敢えず、お前は一度地界に向かえ。オリジンを覚醒させる為、お前にかけられた呪いを解く必要がある。呪いの程度はわからんが、精霊王ならば造作もないだろう。根回しは私がしておく」
「根回しって……、そんな簡単に言いますけど」
「あぁそれと、いくらお前のような切り札を得たとはといえ、お前と小娘を最後まで守りきる為の戦力が圧倒的に足りん。相手は鼻が利くゴドナーだ。最新の化学兵器を大量に保有している天界軍とぶつかり合うような事があれば、現状の対抗戦力は限り無く皆無に等しい。なにせこの革命軍は、陰湿な引きこもりの掃き溜めだからな」
相変わらず人の話を聞かないなこの人。
しかも、誉れ高いとか言った口で引きこもりの掃き溜めとか言いましたかこの人?
矢継ぎ早に早口でべらべらとまくし立てた博士。
急に不安になってきたな。なんだか先が思いやられる……。
でもこの人は、平和を求めて動いているんだ。その思いに嘘はないはず。
真っ直ぐな眼差しで信じるって言ってくれたことが、何よりも嬉しかった。才能もなくてみんなに置いて行かれていたこんな僕に、居場所と目標を与えて貰ったんだ。僕だって足を引っ張りたくはないし、その期待に応えたい。
ふと、未体験の感覚に包まれているような気がした。
なんだろう。程よく気が引き締まる緊張感と、例えようの無い高揚感。
今まさにこの瞬間にも、辛い思いをしている人、助けを求めている人がいて、そんな人達を苦しめている人がいる。それと時を同じくして僕は今、過去に感じたことがない位、今を生きていたいと感じていた。
不思議だ。この人の言葉には、自分一人じゃ引き出せなかった感情を引っ張り出される。
たぶんこの人、ガリベニアス博士は、天性の指揮官なんだろうな。
「わかりました。アストピアの騎士団に応援を依頼してくればいいんですね?」
「可能なら動きやすいよう、なるべく小規模で強力な部隊が理想だ。心当たりはあるか?」
「そうですね……、任せてください。やれるだけやってみます。一つだけ気掛かりなのは、僕達の作戦が戦争の引き金になってしまう事ですね」
「その可能性は十二分にある。神殺しという兵器の存在が地界に広まれば、地界は全力で止めに来るだろう。そうなれば戦争は免れない」
そういう意味でも、この革命軍という存在は必要不可欠なんだろう。
この戦いは、あくまでも天界と革命軍の内戦という構図にしなきゃいけないんだ。
「これは今の天界が企んでいる、私欲に塗れた陳腐な戦争とは訳が違う。恐怖と暴力が蔓延ってしまった、腐りきった天界を変える、弱者達の革命だ」
前々から感じていたけど、やっぱりこの人は只者じゃない。
広い分野に深過ぎるほど精通した知識。まるで時を読んでいるように冷静で的確な判断力。なにより、決めた行動や考えが一切揺るがない、覚悟と信念を持っていた。
どうしてそんなに真っ直ぐ歩き続けられるのだろう。
「……あの、博士って一体何者なんですか?」
「いつかも言ったが、私は地界側の人間だ。それ以上はまだ知らなくて良い。我々の目的はただ一つ。神殺しの阻止と、天界と地界の戦争を回避することだ」
もう天地戦争は目前まで迫っている。
でも、神殺しに利用された、あの子の旅立ちを開戦の狼煙にするのは絶対にダメだ。それを防ぐ為、今の僕に出来ることを全力で。
「やり遂げましょう。かぐやを助けなきゃいけないんです。」
「――お前、その名は?」
「えっ? あぁ、あの子の呼び名なんです、結局名前を聞きそびれちゃったんで」
この呼び名も僕が勝手に付けたんだった。
僕ってあの子の事何も知らなかったんだな。
だけど、こんなに必死なっても守りたいって思うのはどうしてなんだろう。
「なるほど、そういう事か。……では、改めて作戦の予定を説明する。お前が地界へと出発する日時は明日の晩だ。消灯二時間後にいつもの実験室に来い」
「明日の晩ですか。ずいぶん急ですね」
「急ぐ理由は二つある。まず一つ目。本来機密事項である小娘とお前の接触を知って、あの豚が黙っているはずがない。推測でしかないが、神殺しに至るまで、もう一刻の猶予もないだろう。そして二つ目。今作戦最大の障害であるゴドナーが、首都での会議参加の為に明日から二週間不在となる。万一の事を想定するならば、奴が不在の間に戦況を優位にしておきたい」
「それは、同感ですね。……ゴドナー。対峙したら相当厄介そうですもんね」
「あのデブの悪運の強さは意味がわからんからな。とにかくそういう事だ。明日の出発は、助手のバルウィックに頼む。私はもう少し今後の作戦内容を詰めたい」
「わかりました。準備をしておきます」
「一応、後で精霊王に状況を伝える為の書状を渡す。分かっていると思うが、決して失くすなよ」
「不安になるからやめてください」
「では検討を祈る。お前をこの革命の英雄に選んでやったのだ。……命を賭けて、世界を救ってほしい」
そう告げると、いつものように眼鏡を押し上げ、静かに部屋を出て行った。
どうにか繋ぎ止めた一握の可能性。絶対に無駄にする訳にはいかない。
外を見ると夕闇が空を覆い尽くし、開けておいた窓から少し肌寒い風が吹き込んでいた。
そっと窓を閉じると、少し不安げな顔が僕を見つめ返してくる。
「……大丈夫。きっと出来る。かぐやを助けるんだろ」
震えた声で呟いた半透明な自分の顔は、先ほどより少しだけたくましく見えた。
ご覧いただきありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
木ノ添 空青




