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名も無き物語~無能の白銀騎士~  作者: 木ノ添 空青
天界革命編
14/83

博士の八つ当たり

 天界の季節は夏本番に突入した。

 どうやらこの天界にも、アストピアと同じように四季があるらしい。

 夏が深まる連れ、降り注ぐ気温が若干攻撃的になってきた気がする。

 研究所内でも納涼の為か、半袖や腕まくりをしている職員がちらほらいたが、騎士学校時代に夏の特訓(夏季炎天下灼熱マラソン七日間耐久)を経験した僕に言わせれば、だいぶ生き易い環境だ。

 節電だかなんだか知らないけど、文明の利器で温度を調整できるって時点で快適なのは明らかである。

 ――そう、ここ以外は。

「……あの、暑くないすか? なんでわざわざ、暖房なんか」

「ふっ、能無しの貴様にいいことを教えてやろう。暑い中食べるこのアイスクリームは、最高に美味なのだっ!! ちなみにコレは、選ばれし天界人にしか食せぬスペシャルブランド」

 ただでさえ白衣のせいで万年重ね着確定しているというのに、その上さらに暖房まで……。

 変な執念が凄いな……。やっぱりこの人バカなんだな。

「はぁ、そすか。あの、因みにここ一応僕の部屋なので、出てってもらうことは可能ですか?」

「否! 不可能だ。天才が底辺に格の違いを見せつけるとても大事なイベントの真っ最中なのだ。じっとしておけ!!」

 なぜこんなことになったのか。

 おそらく、先日改良したとかいう実験装置がまた意味をなさなかったからだろう。

 天才を自称しておきながら失敗を繰り返す無様な自分が情けないのはわかるけど、当てつけのように僕への嫌がらせをするのはご遠慮いただきたい。

「もういい加減実験なんてやめましょうよ。何度やっても結果は変わりませんって」

「あぁ、そうだな。確かに貴様は役に立たん。観測機がピクリともせんし、エネルギーの無駄遣いかもしれんな」

 今日は妙に物分りがいいな。これは解放してもらえる日も近いのでは?

「実験の趣向を変えてみるというのもいいかも知れん。……いやあるな、……あるぞ。以前どこかで……。いやしかし」

 そんなことはなく、汗だくになりながら頭を抱え始めた。どうやら変なスイッチが入ったらしい。

「ったく、余計に暑苦しい」

 博士が自分の世界に入り込んでいる隙に窓を開け、室温の設定を全力下げた。

 この機械はアルデラントの生活必需品らしい【エアコン】と呼ばれている機械の箱らしい。

 こんな便利な代物はアストピアにも是非欲しいところだが、博士曰く、技術的にまだ不十分だと嘲笑された。

  窓枠に頬杖をついて生ぬるい風を浴びていると、後ろから声がかかった。

「しかしお前、精霊術を使えないのか? 精霊の反応が極端に薄いが」

 熱した鉄のように真っ赤になった顔でアイスクリームを頬張りながら、博士がこちらに目線だけを向けていた。

「僕は精霊術使えませんよ。精霊はいるみたいなんですけどねぇ。どういう訳か種族も分かんないみたいですし」

「……使えないだと? 精霊王には尋ねたのか?」

 少し真剣な顔に変わった博士は、メガネを押し上げながらそう聞いてきた。

 補足しておくと、精霊王とは、地界に存在する全ての精霊の主であり、地界を見守る神として、アストピアにおける全ての権限を持つ実在の人物である。

 僕は遠目でしか見たことはないけれど、少なくとも僕が見た時には人の姿をしていたと思う。

「いや、別に。だって地界神様ですよ? そう易々とお話できる方じゃないんです。それに精霊術が使えないってのは、どうせ僕が無能だからですよ。自分で使えるようになる努力もしないで、地界神様に泣き付いたりしたら、なんかおこがましいじゃないですか」

 少し考え込んだ博士は大きな溜め息を一つ吐いて頭を抱えていた。

 どうやら悩んでいるのとは違うらしい。

「貴様は本当に無能だな。アストピアの人間は例外なく“人と精霊の二心一体”。多少の力差はあれど、精霊の力はハッキリと分かるものだ。貴様ほど極端な奴は異常以外の何物でも無い。己の無力を決めるのは勝手だが、精霊の種別すら分からんのは流石に妙だと思わなかったか?」

 あれ、怒られてる? まさか異界の人に精霊のことで説教を受けるとは。

「いや、まぁ……。というかお詳しいんですね」

「……改めて言わせてもらおう。貴様は本当に馬鹿だな」

 えぇ……。このパターンの罵倒ははじめましてなんですが。

「いいか? 私は精霊の研究者だ。貴様ら地界人の一般教養など私の本能レベルのことだ。その何倍もあらゆる知識を溜め込んでいる。出来が違うのだよ。覚えておきたまえ」

 相変わらず高いところに着地するなぁ、この人の話は。

「それは、申し訳ない」

「かまわん。しかし、だいたい察しはついた。……少し考えが変わった。業腹だが実験は諦めてやろう」

 そう言うとスプーンを咥えたまま立ち上がった。

 ……えっ!? 今この人はなんて言った!? 諦める!? つまりそれって!!

「実験はしばし中断だ。本日より夏休みに突入してもらう。来る秋には、私の才能を存分に見せ付けてやる。震えて待つがいい」

 中断っ……!?

 まぁ、わかってましたけどね。

 さっさと捨て台詞とアイスクリームのゴミを残して帰って行った博士。

 まぁ、百歩譲って捨て台詞は我慢するとして。

「……ゴミくらい持って帰ってくれればいいのに」

ご覧いただきありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


木ノ添 空青

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