精霊達の黙示録
――神が、世界の天地に境界を引いた――
古から伝わる、とある黙示録に記された一節である。
その事を知ってか否か、今の世界は、天界と地界と呼ばれる二世界に分断されていた。
別に神が降臨して境界を引いた訳でもなく、星を割った訳でもない。
時代を生きる我々が、勝手にそうしたのだ。
信仰する者に全貌の明かされぬ謎の異能、“精霊術”を授ける、精霊が住まう世界、地界アストピア。
その未知の力に危機感を示し、人のみの力で人智を越えてみせた超文明世界、天界アルデラント。
人類の進化を望む者達。
今ある世界を愛する者達。
双方が対立することは、避けられない運命であったと、とある学者は語った。
二世界の亀裂が限界を迎えた時、天地は長い戦争へと至った。
望んだ世界を勝ち取る為に、望まぬ犠牲を勝利に捧げた。
この戦いに意味はあるのかと、ある軍人が神に尋ねた。
その問いに神は、黙秘という答えを示した。
私は待っている。私は探している。
果てしない時間を彷徨いながら、黙示録が示す、白光を纏う英雄の誕生を。
私は信じている。私は願っている。
色褪せた黙示録の一文を、そっと人差し指で辿る。
――争いに明け暮れる世界に、一人の英雄を産み落とした。――
途切れてしまったこの先の頁に、願う結末があると信じて。
「博士、お疲れ様です。そろそろ彼の観測時間ですよ」
「あぁ、ご苦労。今向かおうと思っていたところだ」
山のように積み上げられた精霊術の資料。その一番上に置いておいた“彼”の名簿を拾い上げ、部屋の出口へと足を向ける。
「上手く進むといいですね」
助手を務める彼の言葉に、小さく一言だけ返事を返した。