攻めと守り
先生はまっすぐにみぞおちを狙ってくるだろう。急所を一発で打ち破るのも体術科のセオリーで、走ってきたロボマネキンの弱点となるセンサーを一発で仕留められるまで帰ってはいけないという夏合宿もあると聞いた。
次に、足を肩幅に開いて右足を少し後ろに下げる。右利きの私は、この構えで右手の剣に、自分の力を目一杯持っていくことができる。
髪の毛が体をくすぐる。鬱陶しい。
この間にも、教室の窓から覗いている傍観者の「あの子、スパルタ原先生に目つけられるなんて、不運だね」というひそひそ声が聞こえてくる。
迷惑。こういうときには耳栓をして戦いに集中するのが1番いいのだが、今耳栓は、自分の足元のリュックの中。しゃがんでリュックを開け、耳栓をつける隙を、この原先生が見逃してくれるはず、ない。
そう考えているときにも、原先生はじりじりと距離を詰め、こちらの様子を伺いながら拳をピキピキならせている。
__ああっもうっ!こんなの早く勝って終わらせてやるっ!
重心を右足にかけ、一気に左足へもっていく。そのまま踏み切って、右足を前に突き出す。当然先生の拳に突き当たり、それを思い切り蹴って飛ぶっ!
体はひねらず剣は常に相手に向け、空中で振る。先生がすっと身をよじったせいで、惜しくも肘のセンサーには当たらず、宙返りするように着地する。
このすばしこい拳野郎め。
間を与えずに二本の剣を前に出し、前かがみに、がら空きの両膝をいっぺんに青にする。先生は私が飛んだせいで、上に目が行き、それを追いかけるように自然と手も上を向いていたため、足の防御ができていなかったのだ。
少しでも力を入れて私を蹴れば防げたのに。
上に注意を引いて下に攻撃する。
作戦術の基本、誰もが知っているようなことだが、これがなかなか役に立つ。