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21.異界で魔石を再生してた

俺が弟王子を締め上げてから二十日足らず、明日が、俺の社交界デビューの日だ。

で、この(かん)、俺が何をしていたかと言うと、ゲオルグのいない日中を、異界でエンヤと遊びながら魔石の再生に勤しんでいたのだ。


事の始まりは、ゲオルグの一言からだったな。



「アルダナーリ、おまえ、もう一度城へ行く気はないか?」


弟王子の騒動から三日後、朝食の席で、そう切り出したゲオルグに、俺は首を傾げた。


「なんで?」

「テオが静かに荒ぶっていてな、オスカーの憔悴が激しいのだ」

「はぁ!?」


静かに荒ぶるって、どんな状態だよ?


「休み明けのテオは、おまえとアロイスの騒動を知って相当に悔しがり、一日中オスカー達に不平を漏らし続けていたようだ。ある意味予想通りではあったのだが、実は、少々予想を超えた事態に発展していてな。どうやら、テオの兄も絡んで来ているようだ」

「お兄さん?」


確か、驚異の36人兄弟だったな。


「ああ。あれの兄に、魔道技官のダミアンというのがいる。おまえが稼働してみせた、用兵シミュレーターの開発者なんだが…」

「司令部にあったテーブル型魔道具の?」

「そうだ。…その、なんだ、ダミアンは、魔道技官の中でも、ちょっと突出していてな…」


ものっ凄く言いよどんでいるのは、なんでだろう?


「優秀なのだが、優秀過ぎて、我々の理解の範疇を超えたところにいる人間だ」


……オタクか?たぶん、魔道具オタクなんだな?


ダミアン・レンネンカンプ貴士爵、51歳。テオの父、ニクスの第十三子で、テオとは同腹だな。若い内から魔道具開発の才能を開花かせた人物のようで、『用兵シミュレーター』の他にも、王宮と城内の『マルチ・エアコン』『セントラル式給湯器』『浄化式トイレ』『人感センサーライト』『魔道車』などの有益な魔道具を開発しているな。by【魔眼】


え!?それ凄くない?ここの生活、めっちゃ快適みたいだと思ってたけど、彼のお陰だったんじゃん。


但し、燃費は最悪だぞ。どれも魔石をバカ喰いする。by【魔眼】


あ~、なるほど。


「おまえが、アレを難なく稼働させたと知ったダミアンが、テオを通じて強硬に要請してきてな。どうだ?ダミアンの前で、またアレを稼働してもらえるか?」


『用兵シミュレーター』の稼働騒ぎを思い出して、思わず遠い目をしてしまった俺に、ゲオルグの声が掛かる。


「うん、それはいいけど、俺、今日は予定あるよ?」

「はい。姫様は、本日夜会服の仮縫いがございます」


俺の貰ってきたゴールデンスパイダーの糸で織った生地から、漸くドレスの仮縫い段階まで漕ぎ着けたと、ヴァンフォルトから連絡が入ったので、今日がその日なのだ。


「ああ、わかっている。こちらは明日で構わない」

「じゃあ、明日は城だね」


約束して、城へ向かうゲオルグを見送った俺は、ちょっと気になってオスカーの様子を視たのだが、確かにやつれてる。たった三日で、頬がげっそりしてるって、どんなストレスだよ?

側に立ってるテオの顏が、微笑んでるだけってのが、余計怖いわ。

うん、これは、追跡視するのは止そう。なんか、俺の精神も削られそうだ。



そして翌日、そのテオが、弟王子との騒動以上に喰らいついたのが、エンヤの事だったのは当然で、王宮に迎えに来た時は何も言わなかったのに、ゲオルグの執務室に入った途端、詰め寄ってきた。


「姫様!エンヤの属名が小型変異種になったそうですね!毒牙が大型種と同じ劇毒牙にもなったと!?こんなことが起こるなんて!凄いことですよ!これまでの魔物研究を根底から覆す事例です!ぜひとも、専門家に診て貰っては頂けないでしょうかっ!」

「ピギャッ」


一応、テオにも人目を気にする程度の理性はあったようだ。その分、(たが)が外れたその姿が、エンヤには脅威に感じられたようで、悲鳴を上げた後、威嚇行動に移った。


「シャアァアアアアアッ、シャーッ」

「え…!?」


呆けるテオが一歩引いたのを見て、エンヤは俺の首の後ろ、髪の中に顔を隠してしまう。


「ピギッ、ギュギッ、ギルッ、グルッ」


もの凄く不満気な声で鳴きながら、完全にへそを曲げていた。


「あ~、テオ、しばらくは構わないほうがいいね」

「ええ~っ」


隠れてしまったエンヤの胴体を宥めるように撫でて、そう言えば、今度はテオが不満気な声を上げる。


「テオ、いい加減にしないと、完全にエンヤに嫌われてしまうよ?」

「へっ!?」

「そうなると、もう姫様とも同席出来なくなるかもしれないな」

「はっ!?」


ロルフには右肩、オスカーには左肩に手を置かれて諭され、テオの勢いが一気に萎んだ。


「ううっ…、それは困ります」


しゅんとなるテオに、一切口出ししなかったゲオルグは苦笑して、さっさと執務机に陣取ってしまう。

後に続いたロルフの手には、何やら書類の束が握られていた。


「では、この話はお終いですね。姫様、お茶を淹れましたから、急ぎの決裁が済むまで、こちらにどうぞ」


さらりと場の雰囲気を変えたシュテファンに誘導されて、広い執務室の中央にあるソファに腰掛けると、美味しそうな香りのする青いお茶がサーブされた。

なんだろう?水色(すいしょく)は透明なブルーなのに、香りはフルーツ系、口に含むと、ほんのり花の香りもするが、味は渋みのない緑茶に近い。


「すごく美味しいけど、これ、なに?」

「青花ライチ茶です。昨日、手に入れたばかりなのですよ。東国(とうごく)の方で栽培されている珍しい品種で、実も美味しいらしいのです。ただ、実は日持ちがしませんので、輸出用にはエキスを抽出し、青い水色(すいしょく)の出る花と一緒に茶葉に混ぜているのですね。この茶葉は幾分味の主張に欠けますからね、こうするとより美味しく飲めるのですよ」


ライチか!確かに、言われてみれば、この香りはライチだ。


「東国って、イサール大森林の先にあるってこと?」

「はい。遠過ぎて、詳細は不明なのですが、多数の国があるとは聞いております」


通称『小国群』だな。国と呼ぶには少々小さい領主国が大多数の地域だ。大国になれていないのは、地勢の所為だろう。山林の占める割合が非常に高い地域だからな。by【魔眼】


「でも、お茶は入ってくる?」

「はい。茶葉は空気に触れさせなければ、何年でも持ちますし、商人ギルドの流通網はしっかりしていますからね。特にお茶が好まれる都市国家連合へは、各地の茶葉が集まりますよ」


うん、ここ、コーヒー文化はないもんな。


コーヒーなら西の大陸にある帝国だな。南北に長い地形の恩恵で、南部はコーヒーとカカオの産地だ。この大陸とは然程離れていないし、ランクの高い海棲魔物は深海に生息するので、安全な航路が確立し物流は盛んだが、何故か、こちらにはコーヒーの文化が根付かなかったようだ。その分、あちらはカカオの輸出で儲けているようだがな。by【魔眼】


西の大陸!そうか、別大陸があるのか。他にも?


東にも大陸がある。だが、こちらは離れ過ぎているし、ほぼドラグーンとリザードマンの領域で、ヒューマンの居住地はほとんど無いぞ。あとは、大きな島が五つあるが、これもヒューマン以外の種族が大勢を占める領域だな。by【魔眼】


ふうん、ヒューマンの勢力範囲は、この大陸と西の大陸たげかぁ。


この大陸が、この世界最大の大陸で、西の大陸がそれに次ぐ大きさだ。その大半をヒューマンで占めているのだから、十分だろう?by【魔眼】


そっか。


「このお茶は高いの?」

「はい、それなりには。入荷するのは一年に一度、作られるのはこの時期だけですし、更にここまで届くのに一年近く掛かっていますからね。事前予約制の販売のみで、これも一年前に予約していた分なのです」

「……誰が予約していたの?」

「私ですが?」

「やっぱり。これ、シュテファンの私物だろ?俺に飲ませる為に、わざわざ持って来たの?」

「姫様に喜んで頂きたいと思いまして」

「うん、嬉しい、ありがと」

「恐悦至極に存じます」


シュテファンは、たらしだな。絶対、女にモテる。


「来年は、俺が出来たてのお茶を買いに行って、シュテファンにプレゼントするよ」


がたがたとゲオルグが立ち上がり、オスカーとロルフとテオもこちらを見る。


「……東国へ買いに行かれるおつもりですか?」


当のシュテファンは、ポーカーフェイスが行き過ぎて、見事な能面と化していた。


「行くまでは大変だけど、一度行けば、後はいつでも行けるからね」

「どういうことだ?」


大股で近寄ってきたゲオルグの顔は、ちょっと険しくなっている。

あれ?俺、【異界】と【魔眼】のコンボ技のこと、説明してなかったっけ?


姫が【異界】で生活し、それを使って移動もしている事は匂わせたが、具体的な説明はしていないな。by【魔眼】


あちゃ~、じゃあ、ゲオルグパパが眉間に皺を寄せるのも無理ないか。まさか、事前準備さえ整えば、あとは一瞬で行き帰り出来るなんて思わないよな。

まあ、ゲオルグ達になら、もう全部話しても大丈夫だろ。



「一度視た場所は、いつでも視られる…」

「魔眼があれば、異界の出入(ではい)りに距離は関係ない…」

「行くまでが大変とは、そういうことですか」

「魔力が無限とは聞いていたが、そのような事まで可能なのか…」

「異界に従魔を連れて行けるのであれば、そこで従魔牧場が出来るのではありませんか!?」


で、お茶を飲みながら話した結果が、これである。

上から、オスカー、ロルフ、シュテファン、ゲオルグ、テオだ。

テオだけ反応がおかしいのは、もうお約束だと思って、スルーしておこう。


「暇な時に、少しずつ魔眼の知覚範囲を広げて、大陸中を制覇しておくからさ。来年には東の方にも行けるようになってると思うんだよね。だから、楽しみにしててよ」

「……姫様」

「ん?」

「東国では、我が国の身分証は通用致しません」

「……そなの?」

「はい、国交がございませんので。となると、そのお姿では入国時に問題が…。今は、どんな小国でも、侵入者対策の魔道具を設置しておりますので、姫様のスキルで密入国するのも厳しいかと…」

「…………ダメ?」

「はい」


近衛が揃って頷きやがった!

ゲオルグなんて、憐れむような目で見てくるーっ!


彼は、気を遣って侵入者対策と言ったが、実際は魔物に反応する魔道具だからな。by【魔眼】


……そうだった。俺、魔物としても鑑定できるんだったわ。だから、この国でも激甚災害クラス以上の魔物に反応する魔道具が作動して、騒動になったんだもんな。


「おまえの言う他国が、大陸中とは思わなかった。悪かったな、連合の王族という身分が通用するのは、大陸の西側に偏っているのだ」

「ピヨ…、ピルッ」


俺の隣に座ったゲオルグに頭を撫でられていると、首の後ろに篭っていたエンヤも、顔を出して慰めるように頬ずりしてくる。うっ、可愛いっ!


「うん、しょうがないねっ。このお茶の直接買い付けは諦めるから、来年の分、俺のも予約しててよ」

「はい、かしこまりました」

「シュテファン、王家の名で、取れるだけ取っておけ」

「はっ」


あ、パパが本気になった。これは、来年のお茶は俺達で独占かもな。

なんてバカな事を思ってたら、入口の側の机に設置された通信の魔道具が呼び出し音を鳴らした。


「失礼致します」


離席する非礼を詫びて机に向かい、テオが受話器を上げる。

これ、見た目が、アンティークショップにあるような、レトロで優美なデザインの電話機によく似てるんだよな。ただ、電話機と違ってダイヤルはなく、その部分には起動用の魔法陣が刻まれてるけど。


「はい、元帥室です」

『あ、テオか?私だ。殿下の執務はまだ終わらないのか?昨夜は興奮して眠れなくて、今日はいつもより1時間も早く出て来ているのだよ。なのに、まだ先触れがないとは、一体どういう事なのだ?まさか、我らの救世主である姫君がお見えになってないとは言わないよな。もし、そうであれば、私がどれほど落胆するのか、わからないような愚弟ではないだろうな。であるならば、然るべき連絡があっても良いところだ。それがないという事は、姫君はそちらにいらっしゃっているのであろう?まさか、ご一緒ではなく、後程お見えになるのか?昼か?まさか、昼過ぎまで待たねばならぬと、そう言うのか!?それは、あんまりではないか!ああ、何という事だ!これでは、私の逸る思いが破裂してしまう!おまえに、この兄の嘆きがわかるか!?』


驚いた。まったく、テオにしゃべる隙を与えない。しかも、勝手に推察して、勝手な結論まで出してるし。

でもって、今ここにいるのは【聴覚強化】のスキル持ちばかりだから、俺だけじゃなく全員が、今も続く嘆きの羅列を聞いてしまっていた。


「これ、テオのお兄さんだよね?今から会いに行くことになってる…」

(まご)うことなく、ダミアン・レンネンカンプですね」

「ああ。相も変わらずで、申し訳ない…」


苦笑するシュテファンと、何故か保護者面で謝罪するオスカー。

何故に、オスカーが謝るのだ?

首を傾げていると、ロルフが教えてくれた。


「兄と彼は小さな紳士の頃からの同級生で、これまでも何かと面倒を見てきているのです」

「あ~、なるほど」


テオの事といい、オスカーはお兄ちゃん気質なんだな。


「このままでは、司令部がまともに機能せんな。テオ、今から向かうと伝えろ」


ゲオルグが立ち上がると同時に、皆が一斉に動き出した。

そんな中、テオが俺の側にやって来て、神妙な顔で申し訳なさそうに一言。


「兄は、結婚もせず、人生の全てを魔道具に捧げております。姫様に、ご不快な思いをさせるかもしれませんが、根は無邪気な子供と同様なのです。悪気は欠片もございませんので、どうか、ご容赦ください」


未婚!?精力旺盛なヒューマンなのに、未婚!?金も地位もある士族なのに、未婚!?

おかしいだろ?それ!危ないだろ?それ!

オタクなんて可愛いものじゃなくて、マッドサイエンティスト化してるんじゃないだろうな!?

大体、そう言ってくるテオだって大概なんだぞ。そのテオが、心配する程ってどんなだよ!?


思わず、頬が引き攣ったのは言うまでもないだろう。



そして今、俺の目の前には(くだん)の人物が立っている。


名前:ダミアン・レンネンカンプ

年齢:51歳

性別:男性

種族:ヒューマン

属名:上位卑属

属性:無属性

職務:オーバルト国魔道具開発局魔道技官

身分:オーバルト国貴士爵

出自:オーバルト国ニクス・レンネンカンプ騎士爵第十二子

▼能力

体力:中級(10/100)

魔力:上級(100/100)

筋力:下級(80/100)

知力:上級(100/100)

精神:中級(20/100)

免疫:下級(80/100)

物攻:下級(10/100)

物耐:中級(10/100)

魔攻:下級(10/100)

魔耐:中級(20/100)

▼固有スキル

生活魔法(Lv7)

▼獲得スキル

魔道具、鑑定(魔物)、時空魔術(Lv40)


テオと同腹なだけあって面影はあるが、如何せん見た目が不健康過ぎて、言われなければ兄弟とはわからない程だ。長身痩躯と言えば聞こえはいいが、なまじ身長があるだけに、その細さが嫌でも目に付く。

しかも、普段は司令部と同じ棟にある魔道具開発局の研究室に篭って、丸一日出て来ない日もあるっていうんだからな。日にあたらないからか、顔色も青白いし、完全に引き篭もりのオタクである。

ステータスなんて、魔力と知力以外は下位卑属並に低いし、極振りもいいところだ。

しかも、人格にも難があるのは、先程の通信魔道具の(くだり)でもわかる通り。

今も、魔道具のなんたるかを延々と語って聞かせてくれてるが、取りあえず、右から左に流している状態だ。

だって、誰も止めてくれないところを見るに、これ、止めちゃいけないやつだろ?

エンヤも、テオ以上に警戒してか、隠れたままぴくりとも動こうとしないしな。


でもさ、挨拶もなしに30分近くも、この苦行に耐えてるんだぜ。俺、そろそろキレても良くね?


この手の人間を刺激して良い事はないぞ。by【魔眼】


ううっ…。


俺の葛藤を感知したのか、隠れていたエンヤが首の後ろから顔を出して、俺達の後ろに立っている近衛の四人に向かって、止めてもいい?みたいな感じで首を傾げると、揃いも揃って、ブルブルと首を振ってくる。

横に立つゲオルグをちらっと見上げれば、こちらも耐えろと目配せしてきた。

やっぱ、ダメかぁ。はあ…、辛いわ。


「というわけで姫君、この防衛シミュレーターの優位性はわかって頂けましたか?そうですか。そうですよね。これほど素晴らしい魔道具は、そうそう有りませんよね」


いや、俺、何も答えてないぞ。

ん?防衛シミュレーター?これ、用兵シミュレーターって言ってなかったか?


「姫君も、この素晴らしい魔道具が余すとこなく真価を発揮する様を、もっとご覧になりたいですよね」


だ、か、ら~、俺、何も言ってないって!


「さあさあ、姫君。どうぞ、こちらに魔力を!」


やっと、話が終わったか、既に経過時間40分だよ。もう、帰れるんなら何だっていいよ。いくらでも魔力を(そそ)いでやるさ。


「おおっ!素晴らしいっ!ここまで鮮明な立体画像になるとは!支給される魔石では、疑似模型を投影する事しか出来なかったというのに!」

「えっ!貴公、これにそのような機能を仕込んでいたのか!?」

「なんと!タイムラグのある静止画ではなく、リアルタイムの映像が立体で動いているではないか!」

「どうだ?素晴らしいであろう?いつもはダウングレード版の用兵シミュレーターしか起動出来ていなかったのだよ。しかし、このリアルタイム立体映像による状況把握に予測演算を加えたものこそが、この防衛シミュレーターの真価なのだ!」

「おおっ!」


あ…、やり過ぎたかも?なんか、凄いキラキラしい()ではしゃいでいるのが、魔道技官全員に増えた。


「すっばらしいっっ!これまで分割でしか投影出来なかった街のマップが、全域同時に投影出来ているぞ!」

「これっ、地下の構造まで、同時に見えませんかっ!?」

「勿論見えるとも。ほら、こうすれば」

「おおおお……」

「地上と地下の同時投影となれば、戦術局の連中が泣いて喜びますぞ!」

「姫君には、明日からこちらに日参して頂きましょう。フル稼働させた上での改善点の洗い出しが出来ますからな」

「おおっ、それは良いですな」


はああっ!?何、勝手に話進めてんの!?


「待て。そのような話は承諾できんぞ」


ここに来て、魔道技官達の狂喜乱舞振りに固まっていたゲオルクが、漸く動き出した。


「何を仰います、殿下!国防の(かなめ)たる元帥職におわす殿下自らが、この防衛シミュレーターの改善に尽くされなくてどうされるのですか!」

「それとこれとは話が違うぞ。アルダナーリは王族の姫だ。姫が城で働くなど、前代未聞ではないか」

「殿下ご自身も、王子の身でありながら、国防の為と、本来あり得ない元帥職に就かれたではありませんか!」

「私は、親王とはいえ、第二王子だ。当時、私が王位に就く可能性は低かっただろうが!」

「官職に就くことが問題であれば、視察名目でも構いませんよ。とにかく、この防衛シミュレーターの改善は、国にとっても重要案件なのですからね!」

「では、支給する魔石を大幅に増量してやろう。それを改善に使え!」

「何を仰る!その質に問題があるからこそ、これまでフル稼働させられなかったのではないですか!魔石でやれと仰るなら、先だって手に入れたという炎竜の魔石クラスの物でなければ!」

「馬鹿を言うな!あれひとつで、おまえが整備した王宮の全設備が、半年は稼働出来る程のものだぞ!」

「ですから、この防衛シミュレーターのフル稼働後の検証には、そのぐらいの質の魔石が要ると言っているのですよ!」


ええっと、凄い剣幕で言い合う二人に、もう、この場の全員が固まってるわ。

テオですら、兄の様相に言葉もないようだ。

王族に対して、具申する事は推奨されてるらしいから、多分、彼がここまで我を張る事に対する驚きの方が強いんだろうけどな。


「あの炎竜と同等の魔石って、他にないの?」


炎竜、炎竜公、炎竜帝それぞれの魔石は、連合の合議前なので、まだどうすることも出来ないらしい。

エリアボス攻略後の迷宮に出る炎竜は、劣化版で、魔石の質も悪くなるだろうからな。


「激甚災害クラスの魔物であれば、質的には同等以上かと思われますが、この国は、もう十数年も襲撃を受けておりませんので、全て使い切っております」


場に投じた一石に応えたのは、やはり頼りになるシュテファンだった。


「使い切る?魔石って使い捨てなの?」

「はい。内包する魔力が枯渇すれば、以降はただの石となってしまいます。中には、その美しさから宝飾品として再利用される物もございますが、大抵は粉砕して固定魔法陣用の顔料にしておりますね」


乾電池かよ。でもって使い終わると、宝石になるものもあるのか?そりゃ、値も張るだろうさ。


「そうなのです!どんなに素晴らしい魔石であっても、魔力が尽きればただの石。魔道具開発局にも希少性の高いものは保管されていますが、所詮は枯れた魔石。何を討伐すれば、どのような魔石が手に入るかの標本でしかないのですよ!」


枯れた魔石ねぇ。変な言い回しだな。


姫なら、枯れた魔石を甦らせられるぞ。by【魔眼】


えっ!?そうなのか?


「俺、魔石の再生が出来るぞ」

「なっ――」


姫、今言ったら大変な事に…。by【魔眼】



…………なりました。

ゲオルグとダミアンの険悪なムードの回避になればと発した一言で、今度は国の上層部を巻き込んだ騒動――でも極秘扱いなので表向きは静か――に発展した。


これまで、魔石は魔力を使い切ったら、再生は絶対に不可能な筈だった。

しかし、俺はそれを自身の魔力で再生可能ときた。

そりゃ、騒動にもなるわな。

弟王子が『屈辱の平伏』をするより前に、国王自らが、息子と娘の不始末の謝罪と魔石再生の懇願に現れたくらいだよ。

たぶん、その所為もあって、弟王子も反発心を引っ込めたんだろうさ。いやに素直に平伏していったからな。


実はこの国、他国と比べて魔石の消費量が半端なく多いそうだ。

もちろん、だいたい全部ダミアンの所為。

奴の開発する燃費の超悪い魔道具は、一度使うと()められない悪魔の魔道具だったようだ。

国庫は潤っているが、反して魔石の供給量には限りがある。市場を混乱させる訳にはいかないが、それでも妥協できないラインはあるという事で、なんと、国内のギルドに持ち込まれる魔石の60%は、市場価格の二割増しで国が強制徴収していたらしい。

となると、市場へ出回る量は常に不足気味になり、魔石の販売価格も高止まりするわな。で、一般用魔道具の販売も不振になるという悪循環。

贅沢がし(にく)い原因の一端が、国自身にあろうとはな、びっくりだよ。

まあ、それも、俺が国所有の魔石を再生循環させる事で好転するとは思うけどな。


だから俺は、これ幸いと、ゲオルグの早期勇退――3年は掛かると言われたが――を条件に、処分待ちになっていた拳大以上の魔石と、希少性から魔道具開発局保管となっていた大型の魔石のすべてを再生させることを了承した。

やり方は簡単。

【畏怖の波動】で魔石に衝撃を与えて活性化し、次いで俺の魔力を、ゆっくりとやさしく――急ぐと魔石が耐え切れずに破砕するんだよ――注入するだけ。

ただ、これが、普通は不可能らしい。俺以外で出来るのは、上位神属の極一部だとか。

しかも、俺にしたって、王宮で集中してやるより、異界でエンヤと遊びながら片手間にやった方が、何故か速く確実に出来た。

これに関しては【魔眼】も、例の、アンノウンは、アンノウンであり…状態だった。


これが、俺がこの十数日間、毎日異界に通う羽目に陥った、事と次第である。あるが、俺は、これからも当分は、異界での魔石再生を続けなければならない。

それもこれも、あの魔道具オタクが、再生する端から検証と新たな魔道具の開発に費やし、すっからかんの状態で返してくるからだ。



そして、この事が、この世界の()(よう)に、不穏当な一石を投じた事に気づくのも、また当分先の事だったんだけどな。


ラストの一文が物語に関わってくるのは、公開ペース的にも結構先の事になりそうです。しかも、この件だけだと一石で済むのですが、畏怖姫ですからね~。大量投下による複合事案化は必至です。

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