2.転生したら微妙な称号がついていた件
森だな。
うん、わかってた。
スタート地点に森の中を選んでたもんな。
あんのクソッタレが。
いや俺だよ、確かにあれは俺の選択だが、そこに俺の意思はなかった。
夢なんてそんなもんだろ?
だいたい意識がしっかりしてたら、森の中なんて選ばねぇよ。いきなり街中はないが、せめて街道だろうよ。
そしてさぁ、最大の選択ミスはそこじゃないんだよ。
なんだよ両性って!なんだよアンノウンって!
しかも俺、とんでもない見た目になってんぞ。
俺が選んだエクストラスキルの【魔眼】てヤツのお陰で、自分を外側からゲーム画面ように3D回転方式で視ることが出来るんだが、もうさ、俺の面影どこにもないね。
しかも生物としての感すらどこにもない。敢えて言うなら性別不明の美しい人形。
よくよく考えてみろよ、左右完全対称の人間なんているか?
とにかく、ひとつひとつのパーツが嘘くさい。
髪と眉と睫毛以外の毛は生えてないし、髪も肌も目も爪も、とにかく全てが宝石みたいな艶と輝きを持っていて全く生身に思えず、アンノウンてアンドロイドなんじゃないかと思ったくらいだ。
けど、機械感はないんだよな。
動きにも人の柔らかさがあり、体温もある。
ためしに持ってた短剣――初期装備ってやつで太もものナイフホルダーに付いてた――で、ちょこっと自分の腕を切ってみたら、一応血はでた。でたが、【超再生】が痛みを感じる前に無かった事にしやがったな。
んで、残った血を舐めてみたら、やはり血は血だった。
生物であることには違いないようだ。
で、残りのエクストラスキル【異界】なんだが、これ使える感が半端ないわ。
どうやら俺が外形オプションで設定した【異界紋様】がスキル獲得の絶対条件だったようで、これがあると俺は自分の異界空間を利用できるようになる。
これさ、ぶっちゃけ最強スキルだった。
俺は紋様の位置を基点に異界への移動が可能なんだが、紋様の位置は背中、胸、掌、足の裏だ。
しかも異界は部分利用も可。つまり、入れたものは取り出せるアレを持っていると同義だ。
で、早速異界に入ってみたんだが、そこには何もない真っ暗な空間が無限に広がっていやがりましたよ。
【魔眼】があるから困ることはなかったが、これが使えなかったら何か灯りになるものを持ち込むまでは結構困ったであろうことは想像に難くない。
え?生活魔法に【ライト】がある?…便利だな、生活魔法。
【異界】から出る時も【魔眼】が大活躍で、俺は【魔眼】で把握した任意の場所に出ていくことが出来た。仮に【魔眼】がなければ、入ったところにしか出ていけない仕様とのこと。
【魔眼】の知覚範囲は半径10キロ圏内――但し、一度視た部分は以降いつでも視られるという優れもの――で、視点移動も自由自在、物を視ようと思ったら鑑定まで出来た。どうやら鑑定系の最上位互換スキルでもあるらしい。
このスキル選択だけは、あの俺を褒めてやりたいぜ。
で、種族と属性とスキルから獲得した能力と称号だが、これも鑑定持ちでなければ視られないし、鑑定の種類で視られる範囲も限られてくるらしい。
なにせ鑑定系の下位スキルになると【鑑定(人)】【鑑定(植物)】【鑑定(鉱物)】等と細分化するらしいので、フルコンプの【魔眼】の有用性は推して知るべしである。
そして、俺のステータスなんだが、うん、ふざけてるわ。
名前:未設定(非開示真名:立花京也)
年齢:未設定(外形年齢12~14歳)
性別:両性
種族:アンノウン
属名:知性属
属性:魔属性
▼能力
体力:無限
魔力:無限
筋力:最下級(50/100)
知力:神話級(100/100)
精神:神話級(100/100)
免疫:無限
物攻:最下級(60/100)
物耐:無限
魔攻:神話級(100/100)
魔耐:無限
▼固有スキル
魔眼、超再生、異界、畏怖の波動、闇魔法(LvMAX)、生活魔法(LvMAX)、無詠唱
▼獲得スキル
短剣術
▼称号
名状しがたきもの:この世界の常識では計り知れない畏怖をもたらす存在
体力が無限なのは【超再生】がある所為だ。疲れすらも端から回復していくからな、お陰で眠る必要も食べる必要もないときた。物耐と免疫もその所為だろう。
魔力は、よくわからん。アンノウンの特性と言われればそれまでだし、筋力と物攻が最低なので、いわゆる極振りってやつかもしれん。魔耐のカンストもこれの影響らしい。
知力がカンストしているのは【魔眼】の所為だ。これを使いこなす為には必要――常に全周囲視界を持ち、オプションで上空からの俯瞰映像も同時に視るから、高性能でないと情報が整理出来ない――だし、【知識の泉】という百科事典のようなスキルの最上位互換でもあるからな。
精神は魔攻に影響するのかな。これが高いと魔法の威力が高くなり、【魅了】とか【スリープ】とかの精神系魔法に対する耐性も高くなるようだ。
ちなみに能力のランクは下から最下級、下級、中級、上級、最上級、特級、超級、覇王級、伝説級、神話級で、それぞれが更に100位階に分かれているが、ランク間の差は結構あるらしいので、単純に考えることは出来ないそうだ。
生活魔法は、さっきも言ったが、その名の通り生活を便利にする魔法で、【ライト】とか【ウォーター】とか【クリーン】とかだな。
短剣術はさっき腕を切ってみたので、獲得したようだが。つーか、わざわざスキル化することか?これでいったら、包丁使ったら包丁術とか出てくるのか?
あ、【魔眼】が教えてくれたぜ。スキルは生活活動における通常行為には適用されないとさ。
そして称号だが、なんか聞いたことあるような響きだよなぁ、どこでだったかなぁ?
だもんで【畏怖の波動】という、パッシブスキルのようなものを持っていた。
いいけどさぁ、こいつの恩恵ってやつ?さっきからひしひしと感じててさぁ。
逃げてくんだよ、魔物が。
ぼーっと突っ立ってるだけの俺を知覚した途端、何とも言えない情けない雰囲気を醸し出しながら逃げる、避ける、ひれ伏す。
いや、ひれ伏すなよ、迷惑だから。
で、昔の大名行列よろしく伏した魔物――たぶん動けないんだろうが――の合間をぬって移動していた俺は、【魔眼】の俯瞰映像の中に気になるものを見つけた。
おおっと思い、当然そちらへ足を向けようとして、…止めた。
【異界】を使えよ、俺。
という訳で、足裏の紋様を意識して異界に潜り、胸の紋様を意識して外に出た。
ちなみにこれを第三者視点で見ると、詰襟袖無しのチャイナ風ワンピースにスキニーパンツと編み上げのヒールブーツという全身黒尽くめの服装なのに、露出している肌は光沢のある真珠色、髪は白から赤のグラデーション、瞳は煌めくオレンジ色で、完璧に整えられた人形のような顔の俺が、足元から地面に溶けていき、前面から空間に染みだすように現れたというホラーになる。
スピード調節は任意なんで、最速だと瞬間移動に見えるはずだ、なんて考えていたら。
「ピィーッ、ピィーッ」
切羽詰まった鳥のような悲鳴が辺りに響き、俺の目の前で魔物による魔物へのいじめ――殺す気はなく、弄っていただけ――が行われていた。
「なにしてんだ、ごらぁっ」
俺の怒声に、一本角のある、でかい狼みたいな魔物が、びくりと身を竦める。
動けなくなったそいつに近づいて、ひとつ蹴りを入れてやった。
「キャウン」
ええ、どうせ物攻最下級ですよ、なんのダメージも入りゃしませんよ。
それでも情けない声を上げたのは、俺の【畏怖の波動】の所為だろうさ。
地べたに伏せて、ぶるぶる震えるそいつはガン無視し、俺はピィピィとか弱い鳴き声を上げる小さな白ヘビを拾いあげた。
はい、ヘビです。鳥みたいな鳴き声を上げてはいるが、見た目はどうみてもヘビです。
ん、少し違うか?両目の後ろに少しだけ羽毛が生えているな。
視てみると、
名前:未設定
年齢:生後1時間
性別:両性
種族:魔物
属名:ケツァルコアトル(小型種)
属性:精霊属性
職務:名状しがたきものの従魔
▼能力
体力:中級(100/100)
魔力:下級(100/100)
筋力:下級(10/100)
知力:中級(100/100)
精神:中級(100/100)
免疫:上級(100/100)
物攻:下級(30/100)
物耐:上級(50/100)
魔攻:下級(10/100)
魔耐:上級(100/100)
▼固有スキル
毒牙、火吹き、自然回復
▼獲得スキル
畏怖無効
となった。
畏怖無効って、俺への耐性かよ。で、既に俺のペットなわけね。
狼みたいな奴にいじめられてつけられた傷も徐々に癒えているから、これが【自然回復】のスキル効果だろう。
「ピッ」
くたっとしていた身体に力が戻ると、掌の上で上体を起こし、俺を見上げて小さく鳴く。
白い身体に真っ赤なオメメ、俺の髪と同じ白から赤へのグラデーションの入った羽毛がアクセントってか。
ああ、そうか、だからスネークじゃなくケツァルコアトルなのか。
しかし、やばいっ、めちゃくちゃ可愛いぞ、こいつっ。
「よしよし、痛かったな。ご飯食べて元気になろうな」
従魔にした魔物の餌は飼主の魔力に変更される。よって、魔物を従属するには上級以上の魔力が必要とされ、給餌に必要な魔力が足りなくなると、場合によっては従属した魔物から食い殺されることもある。by【魔眼】
…良かったなぁ、俺の魔力無限だったよ。
左手の上にいる仔ヘビに右手の人差し指を差し出すと、牙を立てないようにしてパクリと喰いついた。
「ピルルルッ」
すんごい嬉しそうに身を震わせながら、俺の魔力を吸い取っていく。
ダメだ、たまらなく可愛いっ。
身悶えしそうになるのを必死に我慢していると、ケプッと喉を鳴らして、仔ヘビが指を放した。
「もういいのか?」
「ピヨッ」
満足そうに鳴く仔ヘビに、俺も嬉しくなる。
なにせ俺はもとから爬虫類派なのだ。
母と姉の大反対により飼う事は適わなかったが、いずれは実家を出て彼らと暮らすことを目標にしていたくらいだ。
それが、転生してわずか数時間で、こんなに可愛い仔ヘビをゲット出来たんだからな。
嬉しくないはずがない。
「次は名づけだな。どうするかなぁ」
ペットに名前がないのは、不便なのはもとより、従魔に名づけを行うことで【遠隔使役】スキルを獲得できるので、従属したら即実行が基本らしいしな。
「見た目は雪のように白いが、属性は火だろう。どちらを取るかな…」
一人ごちる俺に、仔ヘビは首を傾げつつも待ち遠しそうに尾を振って、…いやマジで、嘘偽りなくその通りなんです。ヘビは首を傾げないとか、尾を振らないとか良く存じてますよ、俺も。
それでも、この子はそうしてるんだよ。
あ?ヘビじゃないって?
ケツァルコアトルだから、そういう特性だって?
ふ~ん、へぇ、そう。
絶妙なタイミングでの突っ込み解説の開示をありがとう【魔眼】くん。
スキルという割には、なんか人間臭さを感じる君も突っ込みどころ満載だよ。
「ふぅ、よし決めた。おまえの名前は俺から一文字取って炎也、エンヤだよ」
従魔に名づけを実行。エンヤ(非開示真名:炎也)。獲得スキルに【従属】【遠隔使役】が追加済み。by【魔眼】
…俺が確認しないからか、ついに自己主張を始めたぜ、こいつ。
「ピュイッ」
思わず遠い目になりかけた俺に、嬉しそうにひと鳴きしたエンヤが、腕を伝って首に纏わりついた。
体長が32センチなので、一重巻きも出来ず、首の後ろに乗っている状態だな。
顔の右側から頭をもたげ、俺の頬にスリスリしてくる。
俺はそれを【魔眼】で視ているので、もう内心萌えまくりだった。
「しっかり乗ったな?それじゃ行くとするか」
これ以上ここにいると、目の前の狼系の魔物、ライトニングホーンウルフとやらが恐怖の余り死にかねんので、速やかに移動してやろう。
「おい、クソ狼」
「キャンッ」
あ、跳ねた。
「もう弱いものいじめはすんなよ」
「キュゥン」
べた伏せして、か細い声で返事しやがった。
情けねぇやつだな、ホント。
まあ、どうでもいいか。
エンヤは従魔にしたことで異界へも連れていけるようなので、俺はそのまま背中の紋様を使って移動した。
「ピィ?」
エンヤの眼も暗闇に困らないようだが、全く何もない空間に来て、些か戸惑ったような声で鳴く。
「まだ何もないんだよ、これから少しずつ居心地良くしていこうな」
「ピヨッ」
「となると、やはり街に行く必要があるよな」
「ピュイッ」
同意するように鳴いたエンヤが、また頬にスリスリしてきて、マジ昇天しそうになったわ。