1.俺の意思が反映されない転生準備
異世界転生ってやつは、本来予期せぬ状況下で起こるらしいが、いやはや世の中とはままならないものである。予期せぬ状況どころか、予定調和というか、当然の成り行きというか、俺は不本意ながらも、なるべくして異世界に転生した。
事の発端は、約一週間前に遡る。
夢に現れた、何かのゲームのものらしきキャラクター設定画面。
明晰夢を見ることの出来ない俺は、夢の中の出来事に然したる疑問を挟む事もなく、流れに沿ってキャラメイクを始めていた。
設問:種族を決定してください
選択:ヒューマン・ビースト・リザードマン・マーマン・ドワーフ・エルフ・ドラグーン・デーモン・エンジェル・スピリット・アンノウン
回答:アンノウン
設問:性別を決定してください
選択:男性・女性・両性・無性
回答:両性
設問:属性を決定してください
選択:聖属性・魔属性・精霊属性・無属性
回答:魔属性
設問:髪型と色を設定してください
選択:3Dモデリングとカラーチャートによる自由設計を行ってください
回答:モデリング結果により、白から赤のグラデーションカラーのセミロングとなりました
設問:瞳孔の形と色を設定してください
選択:瞳孔のパターンとカラーチャートによる自由設計を行ってください
回答:モデリング結果により、円形瞳孔のファイアオパールカラーとなりました
設問:肌の色を設定してください
選択:カラーチャートによる自由設計を行ってください
回答:モデリング結果により、パールカラーとなりました
設問:外形のオプションを設定してください
選択:羽、翅、角、尾、耳、爪、毛、鱗、貴石、紋様の追加オプションを設定できます
回答:背中、胸、掌、足裏に金色の異界紋様が追加されました
設問:エクストラスキルのオプションを設定してください
選択:取得可能スキル一覧より、最大三つ設定できます
回答:魔眼、超再生、異界
設問:種族・性別・属性・オプション選択により能力と称号と初期装備が決定し、総合判断により顔の造作及び体型が適正化されました。キャラメイキングを終了しますか
選択:終了・再設定
回答:終了
だが、その夢の中では俺がキャラメイクした何者かの最終形態を確認することは出来なかった。
今にして思えば、なんでそんな選択をしたと激しく突っ込みたいが、夢に整合性が問えるはずもなく、普段は考えもしない行動や選択をする事もよくあることで、目覚めた後もやけにリアルに覚えていたのだけが、不思議と言えば不思議だったな。
次に関連すると思われる夢を観たのは三日後で、やはり、同じような選択画面を見ていた。
設問:顕現する界を設定してください
選択:天界、魔界、精霊界、混沌界
回答:混沌界
設問:スタート領域を設定してください
選択:ヒューマン領域、エルフ領域、ドワーフ領域、ビースト領域、マーマン領域、リザードマン領域、ドラグーン領域
回答:ヒューマン領域
設問:顕現する時期を設定してください
選択:春、夏、秋、冬
回答:春
設問:スタート国を設定してください
選択:帝国、王国、神聖国、都市国家連合、公国、小国群
回答:都市国家連合
設問:スタート地点を設定してください
選択:街中、郊外、街道、森中、山中、海辺
回答:森中
設問:スタート開始までの時間を設定してください
選択:即時、4日後、9日後
回答:4日後
設問:転生理由を設定してください
選択:事故死、病死、神隠し
回答:病死
設問:選択により転生準備が整いました。転生設定を終了しますか
選択:終了、再設定
回答:終了
この日の目覚めは最悪だった。
ただの夢の筈なのに、言い知れぬ不安に苛まれ、心臓の鼓動は速くなるし、冷たい汗が背中を流れた。
そして俺は、起きてすぐに、これまで全く興味のなかった『異世界転生』というキーワード検索をしてみたのだ。
びっくりしたね。世の中どんだけ異世界好きなの?というか、今の人生そんな不満なの?というか。
でもまあ、それでもいくつか異世界転生を題材にしたネット小説を読んではみたんだ。
だが、それが俺には全く合わなかった。
ステータス隠蔽?自分を偽るな。
ロリ奴隷?気持ち悪い性癖だな。
ケモ耳ハーレム?俺は爬虫類派だ。
だいたい何で女とばっかりつるむんだ?現実を見ろよ。異世界補正つっても無理があるって。
とまあ、脱力しきりだった。
で、俺はすぐに投げた。
考えてもムダだと思ったからだ。
そして今朝、俺は自分が死ぬ夢を観た。
死因は急性心筋梗塞からの心室細動、いわゆる突然死だ。大学の構内で倒れ、そのままってやつ。
ドクターカーが来て、心停止状態から蘇生措置を受け一時的には回復するが、救急外来に運ばれた後、次の心停止時に延命処置を施すとほぼ植物状態確定と医師の宣告を受ける。
駆けつけた俺の親は潔かったね。
しっかりと俺の意思を尊重してくれた。
俺の家族は二年前に亡くなった祖父にしてしまった虐待を後悔していたからね。
そう、虐待。俺はそう思っている。
似たような状況で延命措置を望み、結果、人工呼吸器に繋ぐという虐待で三年もの間苦しませ続けた。
あれは人の尊厳を損なうと、俺は思う。
三年の間に親戚間の軋轢も凄いことになったしな。
で、俺の家族は祖父の一周忌のあとに、自分たちの意思を確認し合った。
父と俺は生き続けることで家族を苦しめること、自身の尊厳が損なわれることを厭い、一切の延命措置をしてくれるなと宣言した。
母と姉は選択が出来ず、保留もしくは家族の判断に任せると言った。
だから、俺が蘇生から3時間後に再度心停止を起こした時、父は死亡を確定させた。
俺の通夜、葬儀には結構な人が参列してくれて、たくさんの涙と共に見送られた。
火葬、四十九日法要、納骨。
そこまで観て目を覚まし、しばし呆然とした。
ほんとに夢か、これ?
いや深刻になってバカなこと言って、逆に心配を掛けるのもあれだし、だからと言って夢の通りになった後、まさかの延命措置という逆転劇も最悪なので、俺は小芝居を打って家を出る事にした。
まだ出掛ける前の父に見せつけるように仏壇の前に座り、祖父の夢を観たと言って線香を上げて止めの一言。
「じいちゃん、ホント苦しかったよな」
その時の父の顔といったら、ほんと申し訳ないと思ったね。
祖父に続き、俺までも重い決断を迫るかもしれないのだから。
で、俺は普段通りに大学へ行き、講義を受け、ランチを食べようと移動している時に倒れたわけだ。
意識を失う直前に『転生を開始します』というメッセージを聴いて。