表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/55

犯人

さて、彼女が脅迫状の件を自白した。当然、彼女は事件とは無関係だ。なら現場に残されていたのはやはり、偽装だね」

「問題はそこだ。協会はなんのためにそうした?」

「簡単だよ。大村さんの事件と、あの二つの自殺。結びつけるのに必要なのはメッセージだ。しかし、さっき言ったよね、協会として自殺はダメだ。誰かによって殺されたシナリオが望ましい。しかし、急ピッチでそんな事件を企てた教会はあることを心配した。当然、これが自殺じゃないかと疑われることだ。なら、それを回避するためにどうするか?」

 さっきのファイルのもとへ戻り、彩愛ちゃんが届けた全ての脅迫状を取り出す。

「彼女がこの脅迫状を出したのは、一年前からだ。これは利用できると考えたんだろ? 少なくとも一年前から協会は悪意に狙われていて、その人物に殺されたとなれば、まさか自殺とは疑わない」

 もちろん、彩愛ちゃんには悪意などなかった。彼女が脅迫状を出していた理由は、実に少女らしい、純粋なものだ。はっきり言って立浪さんに責任がある。あんな小さな女の子が父親をとられたと感じたら、取り返そうとするのは当然だ。

 だから、立浪さんに代表代行をやめるように脅迫状を送ることにした。しかし彼だけに送っては、自分が犯人だと言っているようなものだ。だから他の代行にも送ることにした。

 しかし、それは最悪の形で利用されることになった。

「脅迫状を利用しようと提案したのは教祖、あなたかい?」

「うん? 誰だったかな? 立浪じゃなかったことは確かだ。矢倉、お前だったか?」

 しかし矢倉さんは答えない。未だにうなだれている。しかしこれでわかった。やはり脅迫状は立浪さんの意志じゃなかったんだ。彼は娘のやったことだとわかっていただろから、そんなことを提案するわけもない。

 しかし教祖が案を採用すれば、彼は刃向かえなかったんだろう。

「ありえないよ……。ただの自殺を殺人に見せかけるために、本当の殺人事件とつなげる必要があった。これだけでも無関係の事件をくっつけているのに、更にそれの信憑性を出すために、また関係のない脅迫状の事件を利用したんだ」

 本来、無関係の三つの事件は一つになった。強制的に。

「教祖、だからあなたは私に言ったんだろ? 自分が犯人だって」

「なんだ、そんなことまで気づいていたのか」

 彼が自ら犯人だと名乗った理由はよくわからなかった。しかし、彩愛ちゃんが脅迫状の犯人だとわかれば、それは存外簡単なものだ。あの脅迫状は、事件現場に残されていたものと、最初に届いたものとでは明確に違いがあった。

 なんでそんなことになったのか。おそらく立浪さんが制作を指示していたんだろう。もし最悪の場合でも、娘に疑いの目が向かないように。

「しかしそれに疑問をもったあなたは立浪さんの真意を探ることにした。そこで私に犯人だと名乗った。事実、あなたは手を下してはいないが犯人なのだから、自白だった。もちろん私は父に報告し、それは立浪さんの耳にはいった。彼は焦っただろうね。計画が狂えば、娘の身だって危ない。あなたは彼のリアクションを確かめるために、ああ自白したんだ。そしてそれであなたは確信したんだろ? 彩愛ちゃんが犯人だって。だから昨日、あの公園にいきなり現れた。彩愛ちゃんの姿を確認するために」

「お前に犯人だと名乗った日の夜は面白かったぞ。立浪が俺に初めて、怒鳴った。なにを考えているのかってな。その時は笑ってやったが、確信したよ。こいつは誰かを庇っているとな。そしてやつが庇うやつなど限られていた。そのガキだけだ」

 教祖もどこかで脅迫状のおかしなところに気づいていたんだろう。しかし、彼はそれが露見することなんてどうでもよかったんだ。どのみち彼の計画では協会はなくなったのだから。レクリエーション感覚で、事件を楽しんでいたんだろう。

「しかし、父親というのは不思議なものだな。あんな切り抜きだけで娘の仕業だとわかるもんなのだな」

「ふん。もしかしたら、父親の勘だったのかもね。けど、気づける根拠はあったよ。桐山さんだ」

 その名前は予想外だったらしく、教祖は首をかしげた。どうやらこれには気づいていないようだった。

「桐山さん。彼には一通しか脅迫状は届いていなかった。なぜか。そもそも彩愛ちゃんはどうやって、代表代行の住所を調べたんだろうか。簡単だね、立浪さんのパソコン。それしかない。彼は時々だけど彼女に会いにいっていた。彼女いわく、最後に会ったのは、三ヶ月前の冬休み明けだ。そして、彼が作ったある資料がここにある」

 私は胸ポケットから一枚の紙を取り出す。昨日立浪さんに渡された、事件を時系列ごとにまとめたものだ。そこにはこういう記述があった。

『2010年10月27日 桐山さんが代表代行に昇格

2010年11月16日 教祖様が代表代行に今後の方針をどうすべきか尋ねる

2011年1月8日 四通目の脅迫状が届く

2011年3月3日 最後の脅迫状が届く』

 そう、これで桐山さんに一通しか届いていない謎は解ける。

「小学校の冬休みは一月の最初の一週間くらいまでだ。八日が休みだった可能性は十分にある。となると、この時彩愛ちゃんは立浪さんと会っていない。これ以後だ。そしてその後、家にきた彼のパソコンを盗み見ると代表代行が一人増えていたので、次の脅迫状では桐山さんを追加したんだ。そうだろ?」

 彩愛ちゃんにそう質問すると、彼女はこくりと頷いた。

「さて。もう脅迫状の謎はおしまいだ。いよいよ最後だよ」

 バンッと音をたてて近くにあったテーブルにファイルを叩きつけた。

「誰が、立浪さんと江崎さんを殺したか。これで、おしまいだ」

 彩愛ちゃんの体が硬直するのを遠目で見ながら、私は続ける。

「守島さんと水島さんは自殺だ。しかし、今日の二人は違う。なぜ、そして誰に二人は殺されたんだ」

 教祖を睨むが、そんなものにこの男が臆するわけもない。ニヤニヤと笑っている。

「思うに……裏切り者がでたんだろうね。代表代行は全員、殺人にみせかけて死ぬように命じられていた。しかし、それに反対するものがでた。それは誰か――」

 答えを出すのも馬鹿馬鹿しい。そんな人物、一人しかいないのだから。

「立浪さん。彼が、事件を終わらせることをしたんだ」

 彩愛ちゃんが顔をあげる。目を大きく見開いて、その驚きを隠せないでいた。

「昨日のことだろうね。彼はきっと、自分は死なない、そして事件を公表すると告げたんだ。もちろん、そんなことが許されるはずもなかった。それを聞いた人物は、立浪さんに会いに行った。そして話し合いは平行線に終わった。最終的に、その人物が彼を殺した」

「そいつは、誰だ?」

 教祖が興味深そうに尋ねてくる。ようやくメインディッシュがでてきたなとでも言いたげな態度だ。

「あなたじゃない。あなたと矢倉さんはどこかへ出かけていたからね。なら、残るは二人だ。桐山さんと大蔵さん。しかし……桐山さんはありえないんだ」

 私は彼と二人で話し合ったときの会話を思い出す。彼が口に出した言葉。それが、たったひとつの手がかり。

『僕なんか血が苦手でたまったものじゃなかった』

 守島さんの事件の感想を彼はこう述べた。そしてその一言がある限り、彼じゃない。

「あの現場は血まみれだった。立浪さんも滅多刺しにされていた。血が苦手な人間があんなことできるわけない。なら、残った一人こそ、犯人だ」

 私は四つん這いになったまま絶望し続ける彼の元へ足を進める。見下ろす私に、彼は恨めしそうな視線を向けながら顔を上げた。

「大蔵さん、あなたが立浪さんを殺した犯人だ」

なんてそのままなサブタイトル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ