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着想

2人の話を聞きた蓮見は、ついにあることに気が付く。

 あの電話、さよちゃんからのSOSで、なんとか彼女から何が起きたか大雑把に教えてもらった。彼女いわく、三人で署に向かっていたら見知らぬ男三人に囲まれて、彼らから逃げるために春川が囮になったということだった。

 父にそれを話すと、素早い対処をしてくれた。事件現場にいた警察に連絡をとって、二人を捜索するように命令し、警察はすぐさま現場付近でさまよっていた二人を保護した。

 そして今、あの二人は署に連れて来られた。

「レイ、ひとまずお前があの二人からなにがあったか聞き出せ。お前が適任だろう」

「わかった」

 本来なら警察がやることだろうけど、今の二人の様子を見る限り、一番的確に素早く聞き出せるのは私だろう。私はまた二人のもとへ戻った。

 さきほどの婦人警官が「着替えさせたあと、部屋に行かせます」と伝えてきた。私はお願いしますと頭をさげて、その部屋へ向かった。警察が容疑者ではなく、地域住民の相談室として使っている部屋だそうだ。

 そこで少し待っていると、婦人警官に連れられた二人が入ってきた。ジャージをきて、顔が青かった。婦人警官が二人を座らせたあと、頭をさげて部屋から出て行く。

「ちょっと落ち着いたかい?」

 二人の真っ青な顔をみるとそうじゃないことはわかっていた。返答はない。

「きついかもしれないけど、君たちから話を聴かないといけないんだ。なにがあったか、細かく教えてくれるかい」

「わ、わ、わかり……ました」

 そう答えてくれたのはさよちゃんだった。彩愛ちゃんはまだ鼻をグズグズといわせているあたり、ちゃんとした話はまだ聞けそうにない。

「蓮見先輩と別れたところから、話しますね」

「うん、ゆっくりでいいよ」

 さよちゃんは私と別れたあと、やはり春川たちが気になって二人を探したそうだ。そして近くの駐車場で二人を見つけた。そこでは春川と彩愛ちゃんが色々と話していたそうだ。私はその会話の内容も細かく聴きだした。

 そして彩愛ちゃんが現場に戻ったあと、春川はさよちゃんに今日は大学に行かないと伝え、彼女には行くように指示したらしい。彼女がそれに従い、その場を去ろうとした時だったという……。

「先輩の顔色が急に変わったんです」

「顔色が変わった? どんな風に?」

「なんか……信じられないって表情でした。とにかく、何かにすごく驚いてました……」

「それがなにかは分からないんだね?」

 彼女はごめんなさいと謝った。謝ることはない。一番驚いたのは彼女だろう。

「その後は呼びかけても反応してくれなくて……。ただ、誰かに電話をかけてました」

「電話?」

 はっとする。一瞬で背筋が凍り、嫌な汗が頬を流れた。ポケットからスマホを取り出して、着信履歴をみる。間違いなく春川の名前があった。私があの時拒否した電話……。

「せ、先輩?」

「……ごめん、続けてくれ」

 適当に誤魔化して、話しの続きを聞き出すことにした。

 その後は春川が急に走りだして、彩愛ちゃんを探し始め、彼女を見つけてたが、すぐに不審な男たちに囲まれたという。彼らの容貌も聴きだしたが、役にたちそうになかった。

「あとは、電話で……お話し、した、通り……です」

 思い出すのが辛かったんだろう、彼女は声を途切らせながら説明を終えた。私はありがとうと礼を言ってから、今度は彩愛ちゃんに声をかけた。

「彩愛ちゃん、ちょっといいかな?」

 彼女はびくっと反応したあと、恐る恐るという感じで私と目を合わせた。

「レイ姉……ごめん、ハル姉が」

「いいよ。君のせいじゃない。彼女がやったことだ。きっと、君達を逃がすことしか考えてなかったんだよ。目的を達成して、今頃高笑いでもしてるさ。だから、心配しないで」

「……ほんと?」

「今度は本当だ。だから泣かないでくれ。ちょっと君から聞きたいことがある。今のさよちゃんの話し、どこか間違ったところはあったかい?」

 彩愛ちゃんは首を横に大きく振った。

「ない」

「そうかい。なら、君がなにか感じたことはないかな。春川のことでも、男たちのことでもなんでもいいよ」

「わかんないよ……あ、でも、ハル姉がね、レイ姉を呼べって」

「え?」

 よくわからないことを言われてしまい、思わず聞き返してしまうが、すぐにさよちゃんが補足説明をしてくれた。

「春川先輩が言ったんです。『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』って」

「そう、それ。私ね、あんな時だったけど、二人って本当に仲が良いんだなって思ったの」

 それだけだという。彩愛ちゃんの話を聞き終えて、私は立ち上がった。

「二人共、ありがとうね。また警察が来て同じことを聞くと思うけど、今と同じように話せばいいから」

 二人が頷くのを確認して、部屋から出ると外で待機していた婦人警官と目があった。

「ここからは一人ずつ別々に聴取します。もし確認したいことがあれば、言ってください」

「大丈夫です。二人、だいぶ参っているので、優しくお願いします」

「かしこまりました」

 私は婦人警官に二人を任せて、父のもとへ向かった。父は受付付近で若い刑事と何か話し込んでいたけど、私を見るとすぐに駆け寄ってきてくれた。

「どうだった?」

「色々聴きだしたよ。説明するね」

 父に二人から聴きだしたことを、全て話した。父の隣で話を聞いていた若い刑事が、必死にメモをとっている。

「以上だよ。もっと細かいことは今聴き出してると思う」

 若い刑事がメモを確認したあと、どこかへ駆けて行った。

「……なるほどな。春川くんはなにか気づいた、そしてそれは信じられないことだった」

「みたいだね。けど、それがなにかは分からない」

「レイ」

「なんだい」

「大丈夫か?」

 顔を覗きこまれて、そう質問された。思わず目をそらしてしまう。

「大丈夫……かもね」

 実際問題、ちっとも大丈夫じゃなかった。未だに心の整理がつかない。この状況をなんとかしなければという思いだけで平常心を保っているだけだ。今、気をぬいたらどうなるかわからない。

 春川のことで頭がいっぱいだった。朝までは会いたくないと思っていた彼女のことが気になって仕方ない。本当ならいますぐにでもバイクに乗って探し回りたい。

 どうして、こんなことに……。

「休んだほうがいい。あとは警察に任せて」

「いやだ、絶対にいやだ。あれは私の……私の……。と、とにかく私が助ける。言ってやりたことが、山ほどあるんだ」

 まるで駄々をこねる子供のようにそう主張すると、父は困った顔をした。

「父上、そういえば桐山さんが自供した件。そっちはどうなってるんだよ?」

 話題をそらすために質問することにした。父は何か言いたそうだったが、難しい表情をしながら応えてくれた。

「あれな。正直、よくわからん。桐山が全て自分の犯行だと突然自供したそうだ。一応、やつの自宅を捜索したら江崎さん殺害に使用されたと思われるトンカチと、大量の新聞紙は見つかったそうだ」

「けど、彼って大村さんの事件のときにアリバイあるよね?」

 あの事件は桐山さんだけじゃなく、事件関係者全員にアリバイがあったはずだ。

「その件は黙秘している。ただ、代表代行を殺したのは自分だと主張しているらしい」

 なんだか、よくわからない。私がうーんと声を出して悩みだすと、父がぽんっと肩に手を置いてきた。

「レイ、お前は今、春川くんのことに集中しろ」

「集中って……」

「春川くんはお前になにかを託したんだ。それがなにかわかるのは、お前だけだぞ」

 若い刑事が父を呼び、父はその彼の元へと行った。一人その場に残された私は、言いようのない虚無感に襲われる。それは私の心を蝕んでいく。不安と恐怖と後悔で、胸がはちきれそうになる。

『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』

 春川は二人にそう言ったという。彼女は無意味にそんなことを言わない。助けを呼ぶなら警察でも、誰でもいいわけだ。わざわざ私という個人名を出した以上、それに何か意味があるはずだ。

 けど、どういう?

 スマホを取り出して、さっきの履歴を見る。着信を拒否してしまった、春川からコール。あの時彼女は何かを伝えようとした。どうしてそれを、無下にしてしまったのか。子供っぽい感情のせいでとんでもないことをしてしまった……。

「春川……」

 どこまでも真面目で、優しく、目的のためなら手段を選ばない、そんな私の親友……。ちょっとした食い違いが許せなくて、それをずっと引きずって、結果がこのザマだ。

 彼女が私を求めたときでさえ、それを拒んだ。

 ポケットからタバコを取り出す。署内は禁煙なので、正面玄関から一度外に出る。相変わらず雨が降っていて、肌寒い風が吹いていた。そんな中、タバコに火をつける。ただ、いつもはおいしいタバコも今ばかりは全然味など感じなかった。なにも、感じれない。

 スマホを手にし、春川に電話をかけてみる。何度もコール音はするが、出る気配はない。

 出ない。出て、くれない。あまりの虚しさに胸が締め付けられるような思いになる。きっと、春川もこんな気持ちだったんだろう。

「クソッ!」

 スマホを振り上げて、力任せに地面に叩きつけた。鈍い音がして、表面のガラスがわれ、蜘蛛の巣のようなひびがはいる。

 それを拾い上げると、また虚しさに襲われ、ため息をついた。

「何を考えてるんだ、私は……」

 冷静になれ、私。悔いてる暇はないだろ。彼女が気づいたことはなんだ、それを考えろ。彼女を助けるには絶対にそれが必要だ。犯人は誰だ。それを突き止めれば、彼女の居場所だってわかるはずだ。

 なんだ、彼女は何に気づいたんだ?

『お前と春川君は水と油に見える』

 不意に、教授の言葉を思い出した。私と春川が似ていないと指摘したとき、そう表現した。

 ぶんぶんと頭を振って、その思考を追いだそうとする。そんなこと思い出してる場合じゃないのに、どうしてもあの言葉が頭から出ていかない。

 しかし教授、本当に私たちのことを見事に見抜いていたわけだ。真面目だが不誠実な彼女と、真面目じゃないが誠実な私。たしかに、似てるようで全然似ていない。

「――うん?」

 その時、頭の中にひらめきがあって、思わず顔をあげる。そして次の瞬間、体中に雷で打たれたみたいな衝撃が走る。疑問が、違和感が、頭の中から消えていく。しかし同時に震えが止まらなくなった。うそだ、そんな……。

 けど否定できない。だから彼はああして、彼らはあんなことをしていたんだ。そしてそれが答えなら全て繋がる。点は線になり、最終的に円になる。そう、どこかへ繋がるんじゃない、元の場所へ戻るんだ。

 ガラスケース――。そうか、違ったんだ。周りの景色がぼやけていたのは、そこに閉じ込められていたのは……私だったんだ。

 すべての答えが、完全に脳内で描かれた。

「――っ!」

 今自分がだした結論が信じられなくて、声にならない声をあげた。

次の次から解決編です

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