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逃亡

彩愛を見つけた2人だが……

第七章【最後の事件 –The Final Problem-】


 さよが春川の後を追いかけると、彼女は雨に濡れることも厭わず、一心不乱に事件現場に戻った。付近にはわずかな通行人と、そしてビルの周りの警察だけがいた。

 春川は立ち止まると、首を回して何かを探し始めた。表情から必死さが伺える。さよが今まで見てきたどの彼女の表情より深刻で、焦っていた。

「せ、先輩?」

「さよ、さっきの女の子を探して。早くっ」

 さっきの女の子? あの彩愛という子のことか。さよも春川と同じように付近を探すが、その姿は見当たらない。

 春川はなにかに追い詰められているかのように、額に汗をかいていて、その形相からさよは「ただごとじゃない」と感じ取った。

 二人の様子を見ていた一人の警官が近づいてくる。

「どうかしましたか?」

「中学生くらいの女の子を見ませんでしたかっ?」

 切羽詰まった声で春川が警官に質問をぶつけると警官は一瞬面食らったが、ああと声を漏らした後、ある道を指さした。

「被害者のお子さんのことかい? だったら、今署に向かっているはずだよ。そこに保護者の方がいると聞いたら、自分も行くと言っていたからね。車で送ろうかって訊いたけど、歩いて行くって」

 警官の返答を聞き終えると春川は全力でその道に向かって走りだした。さよは唖然とする警官に「あ、ありがとうございますっ」と礼を言い、また春川を追いかけた。

 オフィス街の歩道は狭く、ガードレールの向こうでは雨のせいでいつもより多い車が走行している。そして傘をさす人々の隙間をぬうようにして春川がその道を進んでいく。

 さよもなんとかその後ろにつく。そして行き交う人々の中にあの少女がいないか念のために探すが、やはりいない。

 しかし、しばらく進んだ所でビニール傘をさした少女の後ろ姿を捕捉できた。

「彩愛ちゃんっ」

 春川がそう呼びかけると、彼女は振り向いた。そしてびしょ濡れの春川に驚いて「わっ、ハル姉どうしたの?」と駆け寄ってくる。

「びしょ濡れだよ。風邪ひいちゃうよ?」

「ありがとう。でもいいのよ……ところで、誰とも会ってない?」

「ふぇっ? うん。ずっと一人だったけど」

 その言葉に安堵したのか春川が大きく息をはいて、よかったと呟いた。さよも彩愛もなんだか分からなくて首をかしげる。

「署に行くんでしょ。私達もいくわ」

「え、でもハル姉たち学校は?」

「いいのよ。とにかく早く行きましょう」

 有無をいわさず春川が彩愛の手を握って足早に進み始めた。彩愛はなにがなんだかわからない様子だったが春川の出している威圧から、拒否はできなかった。彩愛は引っ張られるような形で春川の後に続き、さよもなんだかよくわからないままその後ろについた。

 しばらく三人は無言で進んでいたが、ある時、急に春川の足がぴたりと止まった。突然のことにさよはその背中に顔をぶつけてしまったが、それでも春川は一歩も動かず、前方を見つめていた。さよは春川の背中から覗きこむような形で、前方に目をやった。

 傘をさすスーツ姿の男性や、学生服の少女が行き交う中、一人の男がこちらに向かってきていた。ジーパンに、白いシャツ。そしてサングラスとマスク。顔がはっきりと見えない、ただどう考えても不審だった。

 春川が後ろを振り向き、さよも追従すると同じ服装の男性がまたこっちに向かっていた。

「……遅かった」

 春川が苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた。さよはなんだかわからなかったが、とにかく前方と後方の不審な男たちに、得体のしれない恐怖を感じていた。

「二人共、こっち」

 春川が彩愛の手を引いたまま、ビルとビルとの細い隙間に入っていった。

「せ、先輩、あの人達は……」

「今は説明してあげられない。とにかく、逃げなきゃ――」

 ビルの隙間をしばらく進んだ、ちょうど半分くらいのところで、春川がまた足を止めた。彼女たちからすれば出口、反対側からまた一人、さっきの二人と同じ格好をした男が隙間に入ってきたのだ。

 また春川が後ろを振り向く。さっきの二人が、隙間に入ってきていて、道を塞いでいた。

 完全に挟まれていた。

「は、ハル姉ぇ……」

 恐怖と不安から彩愛が泣きだしそうな声をだした。春川はそんな彼女の手をぎゅっと強く握る。まるで、なにかを決意したように。

 後方の二人と、前方の一人は一歩ずつ進んできて、確実に三人との距離を縮めていった。

「二人共、よく聞いて」

 春川が二人だけに聞こえるような絶妙な声量で、そう切り出した。

「私がせーのと言ったら、一気に前に走って。振り返ったり、足を止めたりしちゃ駄目。なにがあっても走り続けて。そしてすぐにレイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?」

 春川の説明に彩愛は震えながらも頷いていたが、さよはそうできなかった。なぜなら今の説明ではこの状況を打破できそうにない。走って逃げ切れるかどうかわからないから。

「せ、先輩」

「さよ、あなたの方がお姉さんなんだから任せたわよ。ほら、彩愛ちゃんと手を繋いで」

 さよの呼びかけを無視して春川はさよに彩愛の手を握らせた。

「大丈夫だから。あなたならできるから。ほら、いくわよ」

「先輩……」

 この時、さよは察した。春川が何をするつもりなのか、どうやって状況を打破するつもりなのか。

「せーのっ」

 春川が掛け声をあげて三人は一気に走りだした。前方にいた男が驚いて一瞬身を引いたが、すぐさま向かってくる三人の道を塞ぐように両手をいっぱいに広げた。それでも三人は足を止めなかった。

 助走をつける形で、春川がその男に体当たりをした。二人同時にその場に倒れ込んむと、ドサッという音がして、男が背中を地面に打ち付けた。道が開き、さよと彩愛がそれを通って行く。

「ハル姉っ」

 彩愛が足を止めそうになり、それが失敗だった。後方の一人がすぐそこまで迫ってきていて、スピードを緩めた彩愛に手を伸ばしていた。

 しかしその男もビルの壁にたたきつけられた。起き上がった春川が彼でも力いっぱい体当たりをしたからだ。

「二人共っ、早くっ!」

 春川の叫びで、さよは意を決して繋いだ彩愛の手を引っ張った。

「彩愛ちゃん、走ってっ!」

「で、でも」

「いいからっ!」

 いいわけなかった。けどそうするしかない。じゃないと大変なことになる。

 最後の一人が春川に襲いかかるが、彼女はなんとかその攻撃をよけた。そしてそのまま彼の腹部に蹴りをいれたが、最初に倒した男が起き上がり、その彼女を羽交い絞めにしようとした。

 それと同時に二人目に倒した男が起き上がり、逃げる二人を追おうとしたが、春川が羽交い締めにされたままにも関わらず暴れて、なんとかその彼の足を引っ掛けて転倒させた。

 さよは泣き出す彩愛の手を握ったまま、とにかくその場から離れなければいけないという思いで全力疾走をした。彼女も泣きそうだったが、必死でそれを堪えている。今は、そうじゃない。そんなことをしてる場合じゃない。

 しばらく走ると二人は息が上がってきて、恐る恐る後ろを振り向いた。そこには誰もいない。男たちが追ってくることもなかったが、春川もいなかった。

 そこでようやく足をとめて、ポケットから携帯を取り出した。とにかく誰かに連絡しないといけない。誰か、誰か。

『レイに連絡をとって、助けを呼ぶの。わかった?』

 春川にそう言われたことを思い出して、さよは震えのとまらない指で携帯のボタンを押して、蓮見に電話をかけた。

 彼女の隣では彩愛ちゃんが「ハル姉が、ハル姉が」と泣いている。

『さよちゃん、申し訳ないけど今少し忙し――』

「せ、先輩っ、助けてっ!」

 ようやく電話にでてくれた蓮見が何か言っていたが、そんなこと気にする余裕はなく、気づけばそう叫んでいた。

 混乱のせいで、しばらく会話にならない会話が続いたが、その間も雨脚は強まり、いつの間にかさよも彩愛もびしょ濡れになっていた。

 雨と涙の区別がつかないほどに。



 警察署に一台のパトカーが戻ってきて、それが正面玄関のところで停車した。運転していた警官が出てきて、後部座席の扉をあけると、顔を真っ青にしたさよちゃんと、嗚咽を漏らしている彩愛ちゃんの姿が見えた。

「二人共っ」

 私はすぐに二人にかけよる。全身が濡れていて、さらに震えているが、これが寒さのせいでないことはわかった。

「先輩……」

「レイ姉……」

 二人が同時に抱きついてくる。相当怖い思いをしたのだろうか、私の顔を見た瞬間に涙腺が決壊し、大きな声で泣きだした。

「わかった、わかったから。とにかく中に入ろう。また風邪をひく」

 二人を署の中にいれると、すぐに大きなタオルをもった婦人警官二人が駆け寄ってきて、二人をふき始めた。私は彼女たちに二人を任せて、少し離れたところで事の成り行きを見ていた父のもとへ行った。

「見た感じ、二人に怪我はない」

「そうか……。今、現場付近に警官を派遣して大規模な捜索をしているが……見当たらないそうだ」

「……あの馬鹿」

警察って人見つけるの本当に早いですよ。

以前身内の捜索願を出しましたが、一日もたたず隣の県で保護してくれました。

すごいもんです。

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