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相関

蓮見は立浪を自宅に招いていた。

第五章【シンプル・プラン –A Simple Plan–】


 立浪さんは約束の五分前に家に来た。

「お邪魔して大丈夫なんですか」

「邪魔なら呼ばないさ。安心してくれ」

 守島さんの事件から三日経った今日、私は立浪さんを自宅に呼びつけた。昨日連絡して大丈夫かと確認すると、承諾を得られた。

「わざわざ呼びつけて申し訳なかったね。けど協会、人があれだから」

 協会の本部は今、マスコミがよく囲んでいるせいで人がいっぱいいて、信者もよく訪れるのでとても落ち着ける場所ではなくなっている。

「ええ、わかっています。そういえば今日は春川さんは?」

「ああ、ちょっとね。彼女も忙しいから」

 立浪さんをリビングに入れて、ソファーに座るように勧めたあと、キッチンへ行きお茶を用意した。

 お茶をさし出すと立浪さんはお礼をいって受け取った。

「さて、あなたもお忙しいだろうしさっさと話をしようか。三日前、守島さんが殺されてから、どうなった?」

「お父様からどこまで伝えられていますか」

「残念、何も教えて貰ってないんだよ」

「そうですか、ではまず事件の詳細を。守島さんは毒殺でした。警察の推測どおり、薬に毒が仕込まれていたそうです。で、その薬ですが彼女が常にカバンに入れていたもので、いつ毒が混入されたかは分からないそうです」

「そうなるだろうね。ましてや錠剤だ。一種の時限爆弾みたいなものだね、一粒入れているだけでいつか勝手に被害者が飲み込む。いつ混入されたかを調べるのは無理だろうね」

 警察も捜査はするだろうけどカバンの中に仕込まれた瓶にいつ毒が仕込まれたかなんて調べるのは至難の技だ。普通に考えれば水島さんの事件の後とみるべきだけど、それも断言はできない。

「そして脅迫状が、彼女の自宅の中から見つかったそうです。コピー、持ってきました」

 立浪さんが紙を取り出して、それを渡してくる。広げると毎度おなじみの新聞の切り抜きで作られたメッセージがあらわれた。

『厳罰がくだった』

 まったく、いつも意味ありげでそのくせ何のことかさっぱり分からないメッセージだね。

「自宅ねえ。警察が捜索に入るのを見込んでそうしたのかな。どのみち、やっぱり犯人はあなた方によっぽど詳しいらしい。家に入れるなんてね」

「警察もそう言っておられました。守島さんの家に入れる人はいないかと質問されましたが、少なくとも私は知らない。彼女、一人暮らしです。天涯孤独で家族もおられません。恋人などもいないはずです。そうなると合鍵を持っているような人はいなかったはずです」

「まあ、カバンに忍ばせていた瓶に毒をいれる犯人だ。同時に鍵をとって、合鍵つくって、また戻すなんて離れわざもできたかもね。ピッキングということも考えられる。これは考えるだけ無駄だ」

 犯人がいつ行動したのかわからない限り、可能性は無限大だね。

「蓮見さんの方は、桐山さんに会われたそうですね」

「情報伝達がすばらしいね。ああ、そうさせてもらった。駄目だったかい?」

 立浪さんはそんなことはないですよと言ってくれるが、私としては断られたってするんだけどね。意地悪なことに。

「その桐山さんに聞いたよ、あなたと最初の被害者、大村さんとの関係を。盟友と聞いた」

「そうですね。少なくとも、私はそう思っています。今となっては大村がどう思っていたのか、私にはわかりません」

「申し訳ないけど、大村さんの事件について詳しく教えてくれないか」

 事件について最低限は調べているけれど、それはあくまで資料から何があったかを知識として得ているだけだ。関係者になにがどうなったかを聞いたことはない。

 立浪さんは少し迷った素振りを見せた後、わかりましたと答えて、話してくれた。


 被害者は大村庄司さん、協会の関係者。関係者という名目ではあるが実質、協会でかなりの地位を築いていた人だったそうだ。信者ではなかったけど、協会の発展に貢献していた。入信していなかったため、代表代行などの役職にはつかなかったけど、協会内でのポストは立浪さんと同等。

 もともと立浪さんが協会を大きくしていく活動をしていたときに出会った弁護士で、協会の厄介事などを解決していたらしい。

 教会を大きくしていくことが立浪さんの仕事で、その際に生じる障害を排除していたのが大村さん。そういう役割でうまく活動していたらしい。大村さんは、立浪さんの話しによると教祖から相当な報酬をもらっていたらしい。

 半年ほど前、教祖が代表代行に「協会を今後どうしていくべきか」と投げかけたとき、立浪さんは今までのこともあり拡大していくことを推し進めた。

 しかしそれに反対したのが大村さんだった。これ以上大きくしていくことに、反対し現状を維持するべきだと主張した。二人が知りあってから初めての、真っ向からの対立だったそうだ。

 結局大村さんに賛同するメンバーも出てきて、協会には二つの派閥ができた。

 意見が割れた後も二人は仕事上では協力していたそうだ。ただ意見の対立は二人だけの問題じゃなくなり、代表代行の中でも争いが起きて、それが一部信者にも普及してしまった。教会内に不協和音が響き始めていた。

 そして、そんな日々が続いたある日、大村さんが何者かに自宅で殺害された。刺殺、胸を包丁で一突きされてみつかった。

 事件を受けて協会内には衝撃がはしった。もちろん、維持派からすれば拡大派の仕業だと考えるのが自然だ。警察の捜査が協会に及んだときも、維持派のメンバーは一貫して拡大派こそが怪しいと証言したそうだ。

 警察は証言をうけて拡大派に重点をおき調べてみたが、何もでてこなかった。

 時を同じくして教祖から信者全員に「しばらく派閥争いは禁止する」という旨の通達がされた。どちらの派閥にも教祖に歯向かうものなどいなかった。

 警察の捜査は虚しく終わり、今現在に至る。それが最初の事件だ。


「なんで大村さんは協会を大きくしていくことに反対したんだろうね」

「おそらくですが、仕事量の問題でしょう。大村は優秀で非常に仕事のできたやつでした。故に教祖からの信頼も厚かった。外部の仕事は大村にほとんどまわしていました。しかし、やはり大きくなるとその量は増えるばかり。弁護士としてそれなりのキャリアがあり、資産もあった大村からすれば、これ以上忙しくなるのは避けたかったんでしょう」

 ふむ。忙しいのが好きな人間はいないだろうけどさ……。

「なら、協会から距離をとればいいだけじゃないか。維持派になった理由はなんだよ」

 私の質問に立浪さんは少し間をおいて、そして告げた。

「協会に関わりすぎたから、そう簡単にやめさすわけにもいきませんでした。教祖もなんとしてでも引き留めろと仰っていましたから。協会が大きくなればなるほど、力ももちます。大村はそれも恐かったんでしょう」

 つまるところ、彼は深入りしすぎた。良い商売だったがそこから抜け出せなくなってしまったわけだ。距離をおいても協会の力で何をされるか分からない。弁護士なんて風評被害が出れば商売にならないからね。

 まあ、これはもういいや。話しをかえよう。

「桐山さんは事件と派閥問題は関係ないと言っていたね。あなたはどう思う?」

「わかりません。ただ、もしかしたら桐山さんも言っていたかもしれませんが、こういったことは協会、ひいては教祖に迷惑がかかります。そういったことを信者がするかといえば、私は違うと言いたい」

 なるほど、意見は一致している。教祖に迷惑はかけない。本当に絶対的な存在なんだな。

「そういえば大村さんについてだけど、私が言っていたこと調べてくれたかい」

「はい。警察にはわからないように協会に宛てたメッセージがあるかもしれないということでしたよね」

 立浪さんはそこで表情を曇らせた。

「どうしたんだい」

「いえ……代表代行や大村は協会の全データを共有していました。そしてその中には信者の情報も入っているのですが、その名簿、狂っていました」

「狂っていた?」

 オウム返しをしてしまったが、彼はこくりと頷いた。

「大村が管理していた名簿から数名信者の名前が消えていました。あなたに言われて調べて気づいたんです。しかし、それが事件に関係しているかどうか……」

 名簿から名前が消えていた。確かに信者が五千人もいれば、それに気づかないのもおかしくない。問題はなんで消えたかだ。

「信者の情報は厳しく管理してるよね?」

「もちろんそうです。ただ外に漏洩しないという点では完璧ですが、まさか内部から消されるというのは想定していませんでした」

 それはそうかもしれない。企業ならそうして当然だけど、ここは宗教。内部を疑うということに関しては意識が低い。それはよく痛感している。

「その信者の名前、教えてもらえるかな」

「はい。いざというときのために矢倉さんが手書きでも信者の情報をとっていましたから、それで判明しました」

 五千人以上のデータを手書きの紙で管理していたのかと少し驚いた。なんだか漫画でそんなのみたことあるな。

 立浪さんはまた別の紙を取り出し、それを見せてくる。一応「極秘情報ですので」と前置きをしてきた。

 紙にはその消されていたという信者の詳細な情報が載せられていた。個人情報がいっぱいだ。名前、生年月日、住所、電話番号という基礎情報から家族構成まで書かれている。なんだか悪いことをしている気分になる。

 しかし、そんな意識が吹っ飛ぶ。紙を見つめて、一人ずつ信者の名前を読み上げていく。

「佐々木……井澤……柴田……結城……梅川」

 それは信者の苗字だけ。ただそここそが私の気になったところだった。

「剣持……伊藤……香田……久米山……代田」

 一人で急に苗字だけを読み上げだした私に、立浪さんは怪訝そうな表情を向ける。私は自分の考えに間違いがないかを確認するため、もう一度紙を凝視する。他に気になるところはない。

 偶然か。いやそれはないだろう。明らかに意図してこの十名が名簿から消えて、それこそメッセージだったんだ。

「立浪さん、お手柄だよ」

 私はそれだけ告げて、ポケットからスマホを取り出す。急いで父に連絡するがこんなときだけ繋がらない。イライラしながら留守電に「かけ直してくれ」と伝言を残した。

「なにかわかったんですか?」

「気づかないか。さっきの苗字。一応、順番通りに読み上げたよ。まったく、くだらないことをしてくれる犯人だよ。子供だましだ。もともと新聞の切り抜きなんか使ってるんだから、子供みたいなものなんだけどね」

 そう、本当に子供だましだ。クイズ番組に出てきそうなほど、単純なメッセージ。だからこそ早めに気づくべきだったのかもしれない。犯人もそれを期待したのだろう。

 立浪さんがさっきの苗字を小声で復唱しているが、どうやら気づかないらしい。

「頭文字だよ、さっきの苗字の頭文字だけ並べると……こうなる」

 私はゆっくりと、そのメッセージを口にだした。

「さ、い、し、ゆ、う、け、い、こ、く、だ」

 それでようやく立浪さんが気づいて、目を見開く。そうメッセージはこれだけど。これこそが犯人の伝えたかったこと。

『最終警告だ』

 事件がようやく、つながった。

こういうのミステリでは多いですよね。

好きです。

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