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忠誠

代表代行の一人と接触した蓮見は、気になること確認する。

 5


「突然現れて驚かせてしまったかな?」

「まあ、ちょっとね。けどいいよ、気にしないでくれ」

 桐山さんにちょっとしたドッキリをした後、私たちはその近くの喫茶店に入った。彼の行きつけの店らしく、味は保証するとのこと。

 彼はどうやら知人の墓参りに行く途中だったようで、出直そうかと遠慮する私に「構わない」といってくれた。

「けど、昨日の今日でいきなりか。昨日はお互い大変だったね。あれはきつかっただろう。僕なんか血が苦手でたまったものじゃなかった。ちょっとならいけるんだけど、ああいう大量出血は夢に出るよ。実をいうと昨日だって蕁麻疹がでたし、吐いたよ」

「そいつは大変だったね。私もショックはショックだったよ。だから今日は一人なんだ」

 別に春川は昨日のことがショックで寝込んでいるとか、そんなのはでない。彼女は今日、デート。誰とかって彩愛ちゃんと。二人でお出かけするそうだ。もちろん私も誘われたが、断って彼に会いに来た。美女二人の誘いを断るなんて、苦渋の決断だったけどね。

「大変だったといえば、たぶん私たちよりそちらだろう。警察から色々と訊かれただろ?」

「色々訊かれたなあ。けど初めてじゃなかったからね。それよりこれからのほうが大変かも。二人も立て続けにああなると、協会がまわらなくなる」

 ここに来ても協会の運営が第一か。桐山さんはあのメンバーの中じゃ一番、まともそうだったがそうでもないな。いやまともな方でこれか。

「ショックじゃないのかい、仲間が死んだんだよ?」

「蓮見くん、昨日の僕らの様子を見て気づかなかったわけじゃないだろ。あそこは仲良しクラブじゃない。協会のために尽力している人らの集まりさ。慣れ合いはない。ショックじゃないと言えばひどいかもしれないけど、正直守島さんと知り合ってそこまで経っていなかったし、僕としてはそこまでかな」

 正直な感想だな、そっちの方が助かるけど、聞いていて気持ちいいものじゃない。

 ウェイトレスさんが私たちの注文の品を持ってきて、テーブルに置いて去っていった。

「知り合ってそこまで経ってないっていうのはなんだい。代表代行は定期的に会議をすると聞いているけど」

「僕の場合、代表代行になったのが半年くらい前なの。あそこじゃ新参。だから大蔵のおっさんがうるさく言ってくるわけなんだよ」

 それにしては真っ向から対立していたけどね。父にもあのことは報告したけど代表代行の仲がよくないのは警察も把握していた様で、驚かれることはなかったけど。

「じゃあ、あそこの人たちとは全員知り合ってそこまで経ってないんだ」

「全員じゃないよ。立浪さんは知ってた。というか、協会で教祖の次に有名な人だし。けど代行で知ってたのはあの人だけだなあ。あとの四人は代行になって初めて顔をあわせた」

 どこにでも顔をだすな、立浪さん。そりゃあ娘にかまってる暇なんかないわけだ。

「で、蓮見くん、今日は僕になんの用?」

「話が早くて助かるよ、先輩。拡大派と維持派について聞きたい」

 本来なら昨日済ませておきたかった話だ。それがあの件で流れたけど、大蔵さんのあの様子じゃ無視していい問題じゃないのは明らか。立浪さんも何か言いにくそうにしていた。

 というか桐山さん、一番口が軽そうだ。何か弱みを出すかも。

「うーん、やっぱりそれか。大雑把になら知ってるの?」

「協会を大きくしていこうというのが拡大派、現状を維持して今の信者を大事にするべきだというのが維持派。知ってるのはそれくらい」

「そうだね。拡大派と維持派はそれであってる。じゃあなにを知りたいのさ?」

「どうしてそれが協会運営に影を落とすくらい大きくなっているんだい?」

 拡大派と維持派が争いをおこして、それに積極的に参加していた協会に深く関わっていた人間が殺された。しかし、これを聞いたときから私は疑問を持っていた。

「教祖が一声かければいいだけじゃないか。あなた方は、教祖にまで楯突かないだろ?」

 そう、教祖がどうしていくか決めれば争いなんて終わる。

「そうだね。蓮見くんの言うとおり。けどそうはいかなかった。そもそも、教祖が僕らに投げかけてきたんだよ。これから協会をどうしていくか決めろって。あの人は、その判断を僕らに任せた。結果として派閥争いなんて醜いことになった」

「じゃあ、教祖は今でも何も言ってこないのかい」

「事件があるから今は議論を控えろって命じられているけど教祖自身、どっちにしろとは言わない」

 背もたれに体重をかけて、腕を組む。ちっとも教祖の目的が読めない。自分が築き上げたものが壊れそうなのに、まるで無関心じゃないか。

「で、教祖がそんなこと言ったもんだから、割れた。俺と立浪さん、あと殺された二人は拡大していくべきだって主張した。けど、江崎さんと大蔵のおっさんは反対した。これ以上大きくなる必要はない、今を大切にすべきだって。いかにも年寄りらしい意見だと思わない?」

 同意を求められたけど適当に答えを濁した。どっちでもいいよと言うわけにはいかない。

「しかし意外だね。立浪さんは中立という立場をとりそうだけど」

「なに言ってるの、立浪さんは拡大派の筆頭株だよ。というかもともと小さかった協会をあの人が大きくしたようなもんなんだよ? 確か、あの人と教祖が会ったのが五年前。そのときはまだ小さい組織だったみたい。でも僕が教祖に会ったのが三年前で、その時にはもう協会結構な大きさだったからね。聞くところによるとあの人がそうしていったって話しだよ。もともとエリートだったみたいだし」

 彼の経歴は昨日彩愛ちゃんに教えてもらった。一流の企業で活躍していたのが彩愛ちゃんの母親、つまり彼の奥さんが亡くなったことがきっかけでおかしくなっていったそうだ。

「蓮見くん、君が僕らにどういった感想を持っているかは知らない。ただ冗談抜きで僕らはあそこに救われた。だからあそこを広めたい。大切な人を亡くした人っていっぱいいる。そんな人達を、教祖なら救えるんだ。だから広めるべきだ」

 急に熱く語られてしまったけど、「そうかい」と聞き流すような返事をした。死者と会える。それが『クロスの会』だ。彼もまた誰かに再会できたことで救われたんだろう。

 私から言わせればそれは救いでも光でも希望でもなく逃亡なんだけどね。

「けど大蔵さんたちは違う」

「そうだよ。あの二人はこれ以上大きくしてどうするって言ってる。どうするもこうするもねえよって話しだよ。結局、今でも話し合いは平行線だ。こっちは二人味方がいなくなったし、やってらんないね」

「そう、それなんだけどね」

 私が口をはさむと桐山さんは「うん?」と首をかしげた。

「殺された二人は拡大派なんだ。ねえ、正直な話しをしてくれ。維持派の犯行と考えているかい?」

「いや、それはないんじゃないかな」

 私の質問に桐山さんは驚こくほどすばやく、そしてはっきりと否定した。

「だって最初に殺された大村さんは維持派だからね。明言していなかったけど、明らかにあっちよりだった。正直、それが問題をややこしくしていたんだよね。立浪さんと大村さんって協会では盟友関係だった。立浪さんが教会内のことを片付けて、それ以外を外で大村さんがこなしていたんだ。その二人まで意見が割れたから、派閥なんてできてるんだよ」

 そういえば春川と一緒に教会にいったとき、立浪さんが言っていたな。殺された男と自分は仲が良かったって。なるほど、こういうことか。殺された大村さん、そして立浪さん。実質二人の派閥だったわけだ。

 けどそうなると最初に殺されたのが維持派のリーダー格、そしてその後に拡大派の主要メンバー。うげっ、滅茶苦茶じゃないか。

「最初に疑われたのは拡大派の僕らなんだ。警察だけじゃなく、大蔵のおっさんにも色々言われたよ。今じゃお互いさまになっちゃったけどね」

 桐山さんがはははと一人で面白そうに笑うけど、全然笑い事じゃないだろう。

「だから蓮見くん、多分派閥は関係ないと思うよ。ていうか、これだけははっきり言わないといけないね。……僕らは、教祖に迷惑がかかるようなことはしないよ」

 今までの明るい声じゃなく、トーンを落として真剣にそう断言した。

「僕らはあの人に救われた。あの人のためならなんでもできる。代行のメンバーはまとまりはないかもしれないけど、志は一緒だ。教祖のため。それだけは絶対だよ。あの人がやれといったらなんだってやる。きっと死ねって言われたら喜んで死ぬだろうね、あのメンバーは」

 昨日、教祖が犯人の可能性もあると指摘すると守島さんが眼の色を変えて反論してきたのを思い出した。それに桐山さんと、彼と犬猿の仲の大蔵さんまで同意した。やっぱり、特別な存在なんだな、教祖というのは。

「……わかった。とりあえず今日はこれだけでいいや。時間を頂いて悪かったね」

「いいよ。ああはいったけど、君だって協会のために動いてくれているんだ。僕でよければなんだでもやるよ」

「そうかい、ありがとう」

 なら代行をやめてくれと言ったら辞めるのかと質問をしてやろうかと思ったけどやめた。

 私、時間の無駄は好きじゃない。

亡くなった方の声って覚えてますか?

年々忘れていってしまうんですよ。あれ、怖いですよね。

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