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少女

現場に警察が到着して、蓮見たちは帰されるのだが、あの少女が……。

 2



「なにか言い訳はあるか」

「うーんと、ないね」

 あれから一時間ほど経ち、私と春川は相談室にいた。パトカーと救急車がかけつけてきて、警察が現場保存、救急隊が守島さんの蘇生措置を施したが、結果として彼女は私の見立て通り亡くなった。

 それからは代表代行、そして私達、それぞれの聴取がはじまった。代表代行は今別室で聴取を受けているだろう。矢倉さんはとても何か話すことができる状態じゃなかったので婦人警官がどこかへ連れて行った。

 そして私と春川は相談室で、父を目の前にしている。正確に言うと、激怒している父の前にいる。父はソファーに座っていて、私たちは立たされている。

「お前はあの時、事件にはもう関わらないと言わなかったか?」

「そういえば、そんなこと言ったね」

「ならなんで今ここにいる?」

「ええーと……運命?」

 とたんに父が「バカやろうっ」と大声をあげ、拳でテーブルを叩いた。

「ふざけてる場合かっ、この馬鹿娘っ!」

「いやもうなんというか、今回ばかりは言い逃れ出来なくて、自分が何を言っているのかはっきりと自覚してないんだよね。いやほら、ショッキングな状況だったし」

 未だにあの絶叫が耳から消えないし、血で染まった矢倉さんの顔が忘れられない。絶対しばらくは夢に出る。というか、一生もののトラウマ確定だ。

 春川も同様みたいでさっきから口数が少ない上、顔が青い。

 父は私達二人の様子を見て、怒るのをやめて大きなため息をついた。

「こういう目に合わせたくなかったから、ああ言ったんだぞ……」

「そうだね。ごめんなさい」

 言い訳できそうにないので、素直に頭を下げた。横で春川も「ごめんなさい」と謝る。

「……もういい。過ぎたことを責めても仕方ない。頭をあげなさい」

 私一人ならもっと怒られていただろうけど、これは春川に助けられたね。

「レイ、お前は今度時間のあるときにじっくり話しをするからな、覚悟しておけ」

 父を甘く見ていたようだ。トラウマがもう一つ増えそうだね。おめでとう、私。

「で、何があったか話してくれ」

「ああ、分かった。春川、私が話すよ」

「お願い」

 私は昨夜、立浪さんから連絡があったところから、できるだけ細かく父に話しはじめた。私が彼らにした質問、そして彼らの返答までとにかく私が覚えているかぎりのことは全部父に伝えた。

「で、矢倉さんが入ってきた。あとは……電話で話したとおりだよ」

 これ以後の説明は父が到着するまでの間に電話で説明していた。だから父もそれ以上は何も訊いてこなかった。

「今鑑識が色々と調べているからまだ答えは出ていないが、おそらく薬の方に毒が混入されていたんだろうということだ」

「水のほうじゃないんだね?」

「お前の話では守島さんは倒れるまでタイムラグがあるからな。多分、体内で毒が溶け出すまでに時間がかかったんだろう。水ならそうはならない……という話だ」

「なら、矢倉さんは無実だね」

「はっきりとは言えないがな。彼女の水が原因じゃないことは間違いないだろう」

 ただあの死の直前の守島さんの言動を見ていると、水に原因があると思っていたように思える。たぶん最期の瞬間、自分を殺したのは矢倉さんだと考えたんだろう。状況的にしょうがないとはいえ、さすがに矢倉さんに同情してしまう。

 あの機械的な女性がああも取り乱すとは。彼女も女性、いや、人間だったんだね。

「矢倉さんは?」

「心的ショックが大きいからな。今はまだ聴取できそうにない」

 さすがに顔に血がかかれば、そうなってしまっても仕方ない。というか気絶とかしてないだけ強いのかもしれない。したほうが、彼女のためだっただろうけど。

「春川くん、君は大丈夫か?」

「はい。さすがにちょっとショックですけど、落ち着いてきました」

「今夜は一緒に寝るかい?」

 二割の良心と八割の下心で提案したのに二人に睨まれた。こんなはずじゃなかった。

「黙りなさい」

 二人が声を揃える。これじゃあどっちが親子かわからないな。

「ったく……レイ、今日はもういい。どうせお前もゆっくりしたいだろう。家に帰って休め。証言はお前たちより、他の奴らのほうが重要だからな。外にタクシーを待たせてあるから、それで帰りなさい」

 ありがたい話だ。私と春川は礼を言ってから相談室を出た。建物内では何人もの警察官が忙しそうに行き来している。おそらく、今回の事件のこと以外にも調べてるな。警察からすればいい口実ができたというわけだ。

 私と春川は話すこともせず、エレベーターに乗り込んだ。

「捜査、やめるの?」

 エレベーターの扉が閉まるなり、春川がそんなことを質問してきた。

「なんでかな?」

「お父様が怒っていらしたからよ」

「……ふっ、あれが怒っているのはいつもだよ。それにね春川、父はもう事件に関わるなとは言わなかっただろう。つまり、そういうことさ」

 もしも事件と関わりを切らせたいならあの場でそれを約束させたはずだ。けど父はそうしなかった。私の正確を一番理解している人だしね、それが無駄ってことが分かっている。

「君こそ大丈夫かい。ここからは私一人でもいいよ」

「馬鹿言わないで」

 馬鹿ではないよ、そう返してくるのはわかっていたからね。

 エレベーターの扉が開き、私たちはそのまま正面玄関から外に出ると、野次馬がいっぱい集まっていて、それを警察が[KEEP OUT]というテープを利用してせきとめていた。そのすぐ近くにタクシーが停まっていて、私たちはそれに乗り込もうとした。

 春川が先に乗り込み、それに続こうとした時、初めて私がこの本部へ足を運んだ際に奇妙な警告をしてきたあの女の子が野次馬の中で必死に背伸びをしているのが目に入った。

 そして私と目があうと、突然後ろ向きに歩き出した。

「春川、申し訳ないけど今日は一緒に寝れない。先に帰っておいてくれ」

「えっ?」

 私はタクシーに乗らず、扉だけ閉めて野次馬の中へと入っていく。そんなこっちの様子に気がついた彼女が、驚いた表情をした後、一気に駈け出した。

「追いかけっこは得意なんだけどね」

 そんなつまらない独り言をつぶやいてから、私は彼女の背中目掛けて走りはじめた。

 しばらく彼女を追いかけて走っていたけど、お互いスピードを落とすことがない。走りながら、すごいなと感心した。明らかに体力じゃ私のほうが勝っているはずなのに、こんな長時間追いかけっこができるとは、すごい。

 少し息切れした時、彼女がちらりと後ろをみて、失速しそうな私を確認すると更にスピードをあげようとした。ただ、それが失敗だったんだろう。

「あっ――」

 彼女の声だったか、私の声だったか定かじゃない。ただ彼女が体のバランスを崩して、前に倒れ込んでいった。

「危ないっ」

 転んでしまうと危惧したのに、そうはならなかった。なにせ彼女が転ぶ前に、その体を誰かが支えたからだ。彼女も私も目を見開いて、その人物を見る。

「楽しそうね、私も混ぜてくれない?」

 春川が彼女の支えながら、私の方を見て微笑んでいる。

「……瞬間移動が使えるとは知らなかったよ」

「先回りしただけよ。あなたがこの子を追いかけて走りだしたから、タクシーで少し先まで行っただけ」

 彼女が少し離れたところに停まっているタクシーを指さした。なるほど。本当に頭の回転が早いな、敵わない。

「さて……怪我はない?」

 春川が支えている子にそう問いかけるけど、彼女は突然登場した人物に驚きを隠せない様子だった。しかし、すぐに我にかえって、また逃げ出そうとする。

 が、しっかりと春川に手首を掴まれて結局未遂に終わった。

「ちょっと、離してよっ」

「こう言ってるけど、離していいの?」

「だめだよ。せっかく捕まえたのに。怖がることはないさ、食べたりなんてしないよ。別の意味で食べたいけど」

 この子には分からない冗談を笑いながら言ったのに、春川がすごく怖い目で睨んできた。

「この子、誰なの?」

「さあね。私も知らない。だからそれら含めて、教えてもらおうと思ってね」

 春川から必死に逃げようとする彼女に近づいていき、目線を合わせる。

「お久しぶりだね」

「だ、誰よ、あんたなんか知らないんだから」

「そうかな。その割には二度も逃げたけど。それに覚えてないわけないよね、君の忠告、見事に的中したよ」 

 私がはっきりと彼女のことを覚えていたのが致命的だったんだろう、彼女は「そ、それはっ」と反論しようとしたまま、その後の言葉が続かず、結局私から目をそらした。

「忠告ってなによ?」

 春川の質問に、初めて協会に来た日の帰り道、この子に会ったこと、そして「あそこに関わると大変なことになるから」と別れ際に言われたことを説明した。

「どうしてそれを警察に言わないのよ」

「どうしてだろうね。勘みたいなものだよ。女の勘だよ、大切だろ?」

 せっかく同意を求めたのに春川はそれにのってくることはなく、ただため息をついた。

 そんな春川に捕まっている彼女が、さっきと違う表情になっている。当然彼女がどのタイミングで表情を変えたかも見てた。春川の口から「警察」という単語が出てきた時だ。

「さて……ここじゃゆっくりお話しできないな。春川、君の部屋に行こうじゃないか」

「これって誘拐じゃないの?」

「同意のもとでのデートだよ。ねえ?」

 彼女が反論しようとするが、それより先に私は言葉を続ける。

「これが誘拐だとすれば君は大声をあげればいいんだよ。面白くないことに、警察は近くにいっぱいいる、すぐ駆けつけてくれるよ。そうなると私の悪行はおしまいさ。ただ当然だけど、君は身分を明かさないといけないし、保護者の方が来るまで保護されるわけだけど、そんなの誘拐されることに比べたらなんてことはないよね。さて、これは誘拐かな?」

 たたみかけるように彼女に問いかけると、彼女はただただ奥歯をかみしめて、悔しがって何も言わなくなった。交渉成立だね。

「じゃあ、春川行こうか。いざゆかん我らが愛の巣へ」

「……犯罪者」

 春川が小声でそんな糾弾をしてくるけど、私は鼻歌をして聞こえないふりをした。

第3話くらいででてきた子がようやく、やっと、ちゃんと登場。

以後、この子はとっても重要。

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