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調査

代表代行に蓮見は気になることを質問していく。

「さあ、お仕事をしてちょうだい」

 江崎さんがコピー用紙を差し出してくる。早く終わらせたいので、それを黙って受け取る。やっぱりこれも五枚。もう届いた時期なんて聞くだけ野暮になりそうだね。そして切り抜きのメッセージをチェックする。

『過ちを犯すな』『やめろ』『協会をやめろ』『罪をつぐなえ』『地獄におちろ』

 また同じだ。これから差異を見つけ出すことは無理。というか、使い回しもあるのか。

 問題はどうしてそんなことをしているのかだけどね。

 メッセージそのものに意味があるなら、もっと長くなるし、一人一人違うものを送るだろう。けど同じ物を使いまわしたりしてるあたり、問題は文面じゃない。脅迫状を出す、これこそが犯人の目的とみるべきだ。

 そして一貫して言っているのは「協会から離れろ」と「償え」だ。意味があるとすればこれだけだ。あとは蛇足とみるべきだね。共通してるメッセージはこれだけだから、犯人としてこれだけは伝えたかったんだろう。

「どうかしら、なにかわかった?」

「おや、期待してないんだろ?」

「ええ、念のためよ」

 全く都合のいい。

「まあ、今から話すよ」

 私は預かったコピー用紙を持って、春川のもとへ向かった。彼女へそれを渡す。彼女はそれらをじっくり見つめる。

「駄目ね、私には何にもわからない。あなたは?」

「少しだけ」

 私は体の向きをくるりと変えて、立浪さんの方へ向いた。

「立浪さん、あなたに送られてきたのも五枚かな?」

 彼は静かに一度だけ頷いた。彼のは後で見せてもらおう。時間もない、というか、あまり長居したくもないし、さっさと話を進めるのを優先させたい。空気が悪いところは嫌いなんだよ。

「さて、まず私の方から質問だけどね、この脅迫状の送り主に心当たりとかあったりする?」

 誰も応えない。立浪さんは変なリストを作っていたらしいから、それが答えだろう。ちなみにそのリスト、ほとんど役にたたなかったと父が嘆いていた。

「誰も何もないのかい?」

「小娘、そんなのイタズラと私たちは思っていたからな。馬鹿な奴らが協会に嫌がらせをしてくるのは初めてじゃない」

 大蔵さんが腕を組みながら、バカが多いからなと締めくくった。

「イタズラは今までいっぱいされてきたの?」

 それに答えたのは立浪さんだった。

「近隣住民が協会を嫌がって、怒鳴ってきたりすることはあります。そういうものの延長線で、信者と住民が揉め事を起こすこともあります。ですが、そういった方々はリストに載せました。お父様が確認なさっているはずです」

 確かに、こんな立派だけどどこか不気味な建物を本拠地とする宗教団体が近所にあったら落ち着かないだろう。しかし、それだけで脅迫状なんか送るものかな。送るとしても代表代行にひとりずつなんて手間はとらないだろう。

 予想通りだね。

「じゃあ、やっぱり内部の人間だよね」

 私の一言に張り詰めていた部屋の空気にまた一層緊張が走ったのがよくわかる。

「どうしてそうなるのよ」

 守島さんが睨みながらそんな抗議をしてくる。

「脅迫状があなたがたに届いたからだよ。自宅のポストに犯人自ら届けている。ということは、犯人はあなたがたの住所を把握しているということになる。あのね、そんなの内部の人間じゃないとできないだろう。立浪さん、相談室のパソコン、あそこにはそういったデータがいっぱい入ってるんじゃないのかな?」

 立浪さんははいとだけ答える。彼は多分私がこういうことを言い出すと予想していたんだろう、特に驚いている様子はない。静かにことの成り行きを見守ってる感じが、不気味だけど。

「で、そのデータは簡単に見れるのかい?」

「いいえ、限られた人間にしかアクセスできません。教祖、そして私達、矢倉さん。そして大村だけでした」

 ここでも大村さんの名前が出てくる。一ヶ月前に殺された彼も、情報には触れられたわけだ。

「じゃあ、そのメンバーに脅迫状の犯人がいるとみるのが妥当さ。大村さん、水島さんは亡くなってるから、あなた方五人と、残り二人の合計七人の中の誰かが犯人さ」

 バンッという大きな音が部屋中に響いた。突然のことで目を丸くしてしまうが、その音をたてた人、守島さんが「ふざけんじゃないわよっ」と大声で怒鳴るものだから、更に面食らってしまう。彼女は立て続けにテーブルを拳で叩きながら、声を張り上げる。

「教祖様が犯人ですって!? ふざけるんじゃないわよ、このガキッ。そんなことあるわけないでしょう、あの方は誰より私達を信じてくださってるのよっ、部外者が知ったような口をきくんじゃないわよっ。そんなのはありえないっ」

 ものすごい形相で睨まれてしまっているが、肩をすくめたくなった。全く、どうかしている。私は今、教祖だけじゃなく、この場にいる全員にあなたがたは容疑者だと宣言したのに、彼女はそれを無視して教祖のことだけを怒っている。

 優先順位が理解できない。

「まあ、それには僕も賛成かなー。蓮見くん、教祖は外していいと思うよ。あの方はよくわからないことが多いけど、脅迫状なんてことはしない。うん、断言できる」

「若造の言うとおりだ」

 守島さんの怒りの声明に桐山さん、そして大蔵さんまで賛同する。ちらりと江崎さんを一瞥すると彼女は私の目を見てから、静かに、一度だけ頷いた。初めて、この集団が団結してるのを目の当たりにした。

 教祖、とんでもなく信頼されているらしい。これはタブーだな、触れると面倒だ。

「なるほど、なら教祖のことはおいておこう。では、あなた方は自身が犯人でないと証明できるのかな?」

 質問を変えると一気に静かになった。全員言葉に詰まる。

「立浪さん、データにアクセスするのは簡単なのかい?」

「ええ、少なくともここにいる代表代行なら誰でも簡単にできます。パソコンさえあれば」

「閲覧履歴とかは残ってる?」

「残っていますが、データは私達よく利用するので履歴は役にたたないかと思います。確か、警察の方にも同じ質問をされました」

 やっぱり警察もわかっているみたいだ。で、特に進展がないということは少なくともそこからは辿れなかったとみるのが妥当か。彼らは自身の無罪を証明できないようだけど、同様に警察も彼らの有罪を立証できない。

 データだけじゃなんともならないみたいだね。残念。

「ふーん……なら、この話題はもういい。あ、よくない。大村さんだ」

「大村がどうかしましたか」

「彼が殺されたことと、今回の水島さんの事件を無関係と考えるのはあまりにも無理がある。しかし関係性が見つからないのも事実、しかし私が犯人なら大村さんの事件は警告にしたはずだ」

 私が何を言っているのかわからないのか、全員が眉間にシワをよせる。

「つまり、あなたがたも大村さんみたいになるぞという、脅しさ。しかし当たり前だけど、それはあなた方だけに伝えたかったはずなんだ。なにせそんなあからさまな脅しを警察にまで知られたら、いざというときあなた方に手が出せなくなるからね」

 だから犯人としては警察には知られない方法で、脅迫状の犯人こそ大村さんを殺した者だと、協会に伝えているはずだ。しかしそれに協会は気づかなかった。結果として犯人は行動を起こした。そう見るのが妥当だ。

「だから犯人は大村さんとあなたがたしか見ることのできないところへメッセージを残した可能性がある。そしてパソコンのデータは、まさにそれにあたる」

 大村さんと彼らがアクセスできる。いわば秘密基地のようなもの。私が犯人なら、そういうところへメッセージを残す。

「……蓮見さん、それはどうでしょう。データにはよくアクセスしますが、大村の死後も大きな変化はありませんでした」

「だから、もっと調べてくれないかという話さ。別にデータだけじゃない。あなたがと大村さんしか見ないような場所、そういうところが他にもあればそこかもしれない。とにかく、二つの事件を結びつける何かが、必ずあるはずだよ」

 これには自信がある。二つの事件、必ずつながりがあるはずだ。そして代表代行でなかった大村さんが殺されたのは、最終警告だったはずだ。犯人はそれを無視されたと感じ、水島さんに手を出した。

「なるほど。わかりました、できるだけのことはしましょう」

 立浪さんが良い返事をくれたので私は満足した。しかし大村さんの事件が起きてから一ヶ月経っている、見つかるかどうかは微妙なところだな。それは犯人とっては見つかって欲しいものであったけど、もう第二の事件を起こした以上、役に立たない。それどこか、うってかわって見つかってほしくないものになってるはずだ。なにせ、手がかりになるものなんだから。

 証拠隠滅なんてされていたら、無駄骨になる。そして可能性は結構高い。

「じゃあ、データの話は終わりさ。続いて、この脅迫状。ねえ、あなたがたは何をしたのかな。犯人はどうやら何か償ってもらいたいようだけど」

「ただの脅しだろう」

 大蔵さんの実に間の抜けた指摘。

「これだけ償え償えって言ってるんだ。脅しなら、それこそ『殺す』とかにするさ。けど不思議なことに、犯人はそういったことは残していない。というか天罰とか言ってるあたり、どこか他人任せだね。けど償えっていうのだけは、メッセージに共通してる。犯人は明らかに、あなたがたになにかされたと思ってるんだよ。そしてそれが、許せない」

 それは人を殺すほど、大きな怒りであり恨み。

「水島さんは協会を恨んでいるような人間はいないと言っていたよ。皮肉な話しさ、じゃあ彼は一体誰に殺されたんだよ。贖罪せよなんてメッセージまで残されてるのに」

 恨まれていない人間なんていない。いたとしたら、それは異常だ。わたしはそう思っている。そして水島さんにもそう伝えた。彼があの時なにを思ったかは知らない、しかしその数時間後、彼はそれを思い知らされたわけだ。

「立浪さんはリストを作っていた。あなた方だって、覚えがないはずないだろ」

「蓮見くん、僕はこの代表代行の中じゃ一番若いし、まだ代行になって半年ほどしか経ってないけどね」

 桐山さんが突如して話し始めるので、耳を傾ける。

「恨まれているかどうかといえば、些細な恨みならいっぱいあるだろうね。ここの信者の家族とかがそうだよ。信者の家族が、家族を返せと言ってくるのはよくある。僕も対処する時があるからね。あとさっきもでたけど近隣住民も。この本部を建てるときなんて、すごい反対があったそうだよ。立浪さんがなんとかしたらしいけどね。けど、僕たちは犯罪に手をだしたことはないし、誰かを傷つけようとしたこともない。あくまで僕らの目的は布教であり、信者の安寧だよ。だから、恨みはあっても、殺意に出会うことなんてないんだよ」

「蓮見さん、私からもいいかしら」

 桐山さんが話し終えると同時に江崎さんが口を開いた。私がどうぞと促すと、彼女はこほんとせきをした後、穏やかな口調で、どこか諭すように話し始めた。

「桐山くんの話は本当にその通りなの。私たちは、理解されないことのほうが多いけど、あくまで一番に考えているのは信者なの。だから、信者の家族だって大切にしているわ。いざこざがないとはいわない、けどね、それがこんな事件に発展するとは思えないわ」

 水島さんは恨みなんてないと言ったけど、二人は違うらしい。あることはあるが、それがこんなことになるとは思えない。確かに、人を殺すほどの悪意や恨みなら、彼らが気づかないのもおかしい。そしてそれを隠すのもおかしい。以前ならともかく、今命の危機にさらされているのは彼らなんだから。

 だからこれは嘘じゃない、本心だ。

「……OK、わかった。納得しておこう。ただなにか思いだせば、すぐに警察に言ってくれ」

 これ以上聴きだしても何も得られない。あとはもう警察に任せてしまおう。どうせ似たような質問をもういっぱいされているだろうし、彼らは私ほど優しくない。これからもしていくだろう。素人はここで退くのが一番だ。

 では、一番気になってることに移行しようか。

「じゃあ、拡大派と維持派について、教えてもらおうか」

何かに心酔したときに大人ほど怖いものはありません。

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