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協会に呼び出された蓮見は、代表代行の全員と会うことになる。

第四章【毒薬の小瓶 -A Dram of Poison-】



 翌日、私と春川は約束の時間通りに協会へ出向いた。驚いたことに、警備員が増えていた。以前は入り口に立っていただけだったのに、その数も二人から四人に増えていたし、中にも警備員が配備されるようになっていた。物々しいな。

 建物の中へはいると、素早く受付の矢倉さんが反応してくれた。私達の方へむかって一礼する。彼女へ近づくと「ようこそ」とまた頭を下げられた。

「お待ちしておりました」

「あなたが案内してくれると聞いてるんだけど」

「はい。少々お待ちください」

 矢倉さんは受付カウンターの中の電話をとり、内線をかけた。そしてしばらく「はい、はい」と誰かと会話した後、受話器をおいた。

「もう会議は終わっているそうですのでご案内いたします。ついて来てください」

 彼女がカウンターから出て歩き出す。思えば、彼女がここから出てくるのを初めてみた。いつだってここに鎮座していて、それが当たり前だったからすごく新鮮だ。

 エレベーターに乗ると矢倉さんは最上階のボタンを押した。

「会議と言っていたくらいだ、ここには会議室があるんだろ? そして私は今からそこに行く」

「会議室ではなく、大きなホールです。集会など人が集まる場で使用されています」

「へえ。勝手な想像だけど、てっきり最上階は教祖がいるのかと思っていた」

「教祖様の部屋は、別の階にございます。申し訳ありませんがお教えできません。極秘のことですので」

 そうかいと返事をしながら、おかしなはなしだと思った。私に教えてくれないということは、つまり秘密事項ということだ。おそらくは一般の信者にも。当たり前だけど、社長室を隠す企業なんてそうはない。

 そうしないといけないのか、単にそうしてるだけか。どっちにしても胡散臭い。

 最上階につくと矢倉さんの案内通りに進み、『Cross Hall』というところへついた。大きな両開きの立派な木目の扉を、矢倉さんがノックした。そして「どうぞ」という返事が聞こえてから、それを開けていく。

 中には五人いた。合計三十くらいあるであろう長テーブルが綺麗に並べられていて、そして彼らはそこらにちらばって座っている。私たちが入ってくるのを待っていたのか、一気に目が向けられた。

 一人は若い男。おそらく私とそこまで歳がかわらない、メガネをかけた男性だ。

 二人目はおそらくは父より年上の女性。紫の口紅が唇に塗りたくられている。

 三人目も女性。四十くらいだろうか、どこかつかれた顔をしている。綺麗に輝くピアスが遠くからでもよくわかった。

 四人目は男性。父と同じくらいの年齢。眉間によったシワが波打っているせいで、ひどく厳つい。顔のシミが目立っていいぇ、ブルドックに似ている。

 そして、ただ一人立って私達を出迎えたのが、立浪さん。

「急に呼びつけてすいません。ただ、いい機会でしたので」

「構わないよ。ねえ?」

 私が春川に同意を求めると、春川がええと簡単に答えた。

「では、まずお二人の紹介をさせて」

 立浪さんの言葉が遮られたのは、野太い声が横入りしたからだ。

「いいよっ、そんなの。さっさと終わらせるべきだろっ」

 怒鳴り気味にそう提案したのはブルドッグ似の男性だった。なぜかわからないけど、怒っている。

「そうですか。では、お二人の紹介は省かせていただきます。よろしいですか?」

「名乗るほどの者じゃないしね。問題ないよ」

「ありがとうございます」

 あの男性のああいう態度に立浪さんは慣れているのか、特に動揺することもなく対処した。そういえばいつの間にか案内してくれた矢倉さんが室内から消えていた。

「では、代表代行のことを私から紹介させていただきます。先ほどの男性が大蔵さんといいます。大蔵茂雄さん」

 あのブルドッグが大蔵さん。なんというか、お似合いの名前だな。

「次に、女性の紹介を。あちらに座っているピアスの女性が、守島さん。守島秋さんです」

 紹介をされると守島さんは座ったままぺこりと頭をさげてきた。

「今度は代表代行の最年長の江崎さん。江崎かな子さんです。代表代行でも最年長ですが、この協会の信者としてもかなりの古株です」

「立浪、年の話はするなと言っているでしょう」

「そうでしたね、失礼しました」

 聞き流すように立浪さんがその江崎さんの捨てきれない女性のプライドを処理した。

「最後に、今度は一番若い方を。あの男性が桐山さん。桐山彰さん。実を言いますと、蓮見さんたちの大学の先輩ですよ。そして年も二つしか違わないはずです」

「違うよ、立浪さん。細かく言うと僕は彼女たちの先輩じゃない。なにせ僕は中退したからね」

 桐山さんが立ち上がって、こちらに寄ってくる。そして私の前に立つと私に握手を求めてきた。

「紹介にあずかった、桐山だ。一応君等と同じ大学には行ってた。ただ、あんまりおもしろくなかったから三年の途中でやめた。なにかの縁だ、よろしく」

「先輩に出会えるとは思わなかった」

 私は握手に応じる。私との握手が終わると今度は春川にももとめた。彼女もいつもの笑顔でそれに応じる。年が近いこともあったし、代表代行の中で唯一私達に挨拶してきてくれたこともあった、好感がもてる。

「おいっ、時間がないんだよっ、同窓会なら別のところでやってくれ」

 ブルドッグ、もとい大蔵さんがその様子をみてまた怒るが、桐山さんが「うっさい」と返した。

「静かにしろよな。さっきの会議もそうだけど、あんたうるさすぎる。でかい声だしてばっかりでろくなこと言わないし」

「……あいかわらずうるさいぞ青二才」

「うるさいのはあんただっての老害。ったく、なんであんたなんかが代行なんだよ。教祖様もよくわかんないな。ああ、教祖様がわかんないのはいつものことか。わるいね、蓮見くんに春川くん。あれは無視していいよ。とにかくいつもああなんだ、無視してたらそのうち黙るから」

 桐山さんは言いたいことだけいうとウィンクして、近くのテーブルの上に座った。二人のやりとりのせいで、この広いホールに緊張感が走った。どうも落ちつかないな。桐山さんは口笛でも吹き出しそうな雰囲気だけど、大蔵さんはまだいいたいことがいっぱいありそうだ。

 代表代行、なんだか私が想像していたのと違っている。

「どうもお忙しいみたいだし、さっさと本題に入ろうか」

「そうですね。では皆さん、脅迫状のコピーを出して下さい」

 四人がそれぞれなにか紙を取り出す。男性二人は胸ポケットから、女性二人は足元においてあったカバンをテーブルのあげるとそこから封筒を取り出す。私は手始めに一番近くにいた桐山さんに寄って行き、それを渡してもらう。

『代行をおりろ。地獄にいくぞ』

 また新聞の切り抜きでつくられた脅迫状だ。この一文だけ。

「ほかにはある?」

「ないんだよね。僕のところへ届いたのはその一通だけ」

 肩をすくめる彼を傍目に見ながら、また疑問が生まれた。水島さんは数通もっていた。代表代行の中でも送られてる枚数に差があるのか。

「ちなみに、これが届いた時、何か気づいた?」

「違和感はなかったかな。ついに僕のところへも来たんだって、ちょっとおもしろかったくらいだよ。一応、ポストの周りとか色々と調べたけど、なんにも不思議なところはなかったね」

「僕のところへもきたんだっていうのは?」

「ああ、聞いてないのか。僕だけ脅迫状もらってなかったんだよ。水島さんとか大蔵さんには届いていたのに、なんでか僕だけもらってなかった。おかげで一時は二人に疑われたなあ。けど、しばらくしてからこの一通だけ届いた」

 だから水島さんはたくさん持っていて、彼は少ないのか。しかしそれにしたって根本的な解決は何もできていない。

「俺は今でも疑っているぞ」

「うっさい、はいってくんな。寝とけよ」

 大蔵さんが横槍をいれて、それに桐山さんが応じる。諌めたりしても無駄なんだろうな、あの立浪さんが仲介に入っていないところをみるといつもことで相手にするだけ時間がもったいないんだろう。

「これ、いただくよ」

「どうぞ。コピーだしいくらでも持って行ってくれよ」

 さて、次は誰にしようかなと思った所で、視界の端に面白いものがはいった。春川がピアスの女性の側に立っていて、すでに預かった脅迫状のコピーを面白そうに見つめていた。

「レイ、こっち」

「はいはい」

 春川に寄って行くと彼女はその用紙を差し出してくる。五枚もある。これはこれで多いな。そして中身を確認する。

『代行を止めろ』『ひどい目にあうぞ』『許さない』『天罰がくだる』『あそこに近づくな』

 なるほど、内容は大きく変わらないな。私は守島さんに目を向ける。

「これ、届き始めたにはいつ頃?」

「一年くらい前から。あとは不定期的に少しずつ。最後に届いたのは一ヶ月くらい前ね。大村さんの事件の少し前だったから」

 大村さんという名前が突然でてきたけど誰か分からないということはなかった。おそらくは大村庄司さんのことだろう。春休みに殺された協会の関係者、立浪さんの友人だったという方だ。どういう人かまで知らないが、基本情報くらいは調べた。

「そうか。ちなみにやっぱり家のポストに?」

「いいえ、私の家ポストないから。新聞もとってないし、チラシとか邪魔になるの。私宛に何か届くとしたら、ここ。この協会に届くようにしてるわ、矢倉さんがうまく処理してるはず」

「じゃあ、これはどこに?」

「家のドアに封筒にいれて糊付けされてたわ。ちょっとドアが汚れて、イライラしたわね」

 イライラしたか。どうやら、こういうのが届いたことに対する恐怖はなかったようだ。というか、さっきの桐山さんといい、本当にどこか他人ごとだと思っているんだな。

 脅迫状なんかものともしないというか。確かにこんな映画みたいな脅迫状を送られてもいたずらと思うか。

「レイ、気づかない? それ、おかしいわよ」

 春川がそんな指摘をしてくる。少し笑っている。私はコピーをまた見る。なにかおかしなところはあるだろうか。

「……あっ。これはケアレスミスだね」

「そうね。ちょっと恥ずかしいわ」

 春川が最初に気づいたのは、いかにも彼女らしい。優等生特有の着眼点だ。

 立浪さんが「なにかわかりましたか?」とこちらに近づいてくるから、私はさっき五枚のうちの一枚を彼に差し出す。『代行を止めろ』と印刷されたもの。彼はそれを受け取るが、何が言いたいかわからないのか「これがなにか」と首をかしげる。

「誤字だよ。代行を止めろと書いてあるけど、『やめろ』の漢字が違う。正しくは辞表の『辞』という字で『代行を辞めろ』としなきゃいけないんだよ。細かいことだけどね。けどテストなら間違い無く減点対象だね」

 解説するとわかるけど、細かいことだ。細かいというか、些細というべきだね。どうでもいいように思える。

「ああ」

 と声を漏らした立浪さん、自分に届いた脅迫状なのにまるで興味がなさそうな守島さんに、はははと笑い声をあげた桐山さんに、不本意なことに私と同じ感想をもったのは大蔵さんだったようで「どうでもいいだろっ」と声を荒げた。

「まあ、ただのミスだろうね。この犯人、国語は苦手なのかもね。守山さん、ちなみにこれが届いた時、何か感じた?」

「別に。イタズラと思ったから、相手にしなかったわ。今も相手にしてないけどね」

「そうかい。ならコピーだけはいただいていくよ」

 春川に五枚の用紙と、さっきの桐山さんのををすべて渡した。彼女はそれを比較するために、近くの席に腰を下ろした。すごい眼力でそれらを見つめ始めた。さて、彼女なら他にもなにか気づくかもね。

 私は、次の方へ移行しよう。

「おい小娘、いつまで待たす気だ」

「急かすね。血管がきれちゃうよ」

 すでに大蔵さんのもとへと足を進めていたのにそんなことを言われたので、憎まれ口で返しておいた。

「目上を敬え、どんな教育をうけてきたんだ」

「厳格な父と、破天荒な母による、見事な教育だよ。あなたの知る必要ないことだ。早く終わらしたいなら、無駄口を叩くべきじゃないと忠告してあげよう」

 大蔵さんがムッとしたのが威圧でよくわかるが、申し訳ないけどそんなのでひるんでやるほど私は弱くない。なにせ、もっと怖い男が父親で、それと二十年も一緒に住んでいるんだからね。大声だけで脅かそうなんて、百年早いよ。

「ははは、蓮見くん良いね。そのおっさんにはそれらいで丁度いいと思うよ」

「黙れっ、若造が」

 私は二人のことは無視することにして、大蔵さんがテーブルの上に出していたコピー用紙を手にとった。こちらも五枚。内容を確認する。また新聞の切り抜きだ。芸がないな。

『協会から離れろ』『やめろ』『あそこに近づくな』『つぐなえ』『地獄におちろ』

 内容はほぼ一緒か。ただ一人一人微妙な差異はあるみたいだね。さて、これになんの意味があるのか。それともそうしたかったから? 深い意図があるのかないのか、イマイチわからないな。

「届いたのは守山くんの証言と同じ時期だ。私の場合は普通にポストに入っていたな。なにか感じることもなかった」

「なるほど。一人暮らし?」

「ここにいるものは全員そうだ」

 家族がいるなら彼らにも何か聞き出せるかもと期待したが、どうもそう甘くいかないらしい。

「小娘、俺からも忠告してやろう。立浪がなにを思ってお前にこんなことを頼んでいるのかわからない。私は反対した。ただ教祖が許可を出したから今日だって付き合っている。しかし、お前に何かできるとは思ってない。いますぐこんなことやめろ。警察が動いているんだろ、お前が出る幕などないぞ」

「ありがたいお説教ありがとう。なら私からも一言」

 私は彼にぐっと顔を近づけてみた。ブルドッグみたいな彼が、少し身を退いた。

「余計なお世話さ」

 彼が顔を赤くして何か言い出す前に、私は最後の人のもとへ向かった。彼の言葉は正しい。私には何もできない、それは正解だ。ただ私は何かするためにこんなことしてるわけじゃない。これはあくまでこの協会と関係を保つための代償だ。私は一貫して春川の事件を優先している。

 最後の人、江崎さんは私が近づくと上目遣いでこちらを伺った。高そうな老眼鏡をしている。

「はじめまして、お話しは伺ってますよ、蓮見さんよね。あちらがご友人の春川さん」

「ええ、そうです。はじめまして」

 すごく落ち着いている雰囲気だ。さっきの大蔵さんとは態度というか雰囲気がまるで違うので、ちょっと戸惑ってしまう。物腰穏やかだけど、どこか逆らえない空気を醸し出している。嫌だな、こういう空気を出す人。

 なんか、落ち着かないんだよ。

「大蔵さんはああ言っていますが、あなたが協会のために動いてくれいることは変わりないわ。私、感謝してますよ」

「そう言っていただけると助かるよ」

「期待しているわけではないけどね」

「……そりゃ賢明だね」

 この人、大蔵さんよりよっぽどやりづらいな。彼は自分が上だということを頑なに顕示しようとするぶん隙があるけど、この人はそういうことはない。あくまで自分が上だと決めこんだうえで、それを疑わない。だから、何もしない。ゆえに隙が生まれづらい。

 嫌いだな。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


元日はお休みし、今日から再開です

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