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邪魔

話し込んでいた二人だが、立浪から連絡がはいる。

 どことなく、彼女は諦めているようだった。彼女が私に事件を諦めろというのは初めてじゃない。彼女自身、きっとどこかで高校のことは頭にあったんだろう。だからこそ、傷を負わされたのに、恨み事ひとつ言わない。

 ただ、残念でした。

「嫌だね。断る。自業自得だって? ふざけるんじゃないよ。なにがどうあろうと、人を襲っていいわけあるものか」

 春川の過去なんて今日知ったばかりだけど、これは私の正義感のはなしだ。犯罪がいいわけない。そこに妥協点なんかない。

 春川は一度ため息をつく、ご自慢の長髪をふわりとかきあげた。

「そう言うと思ったけどね」

「わかってるじゃないか」

 その時にポケットに入れていたスマホが震えだした。確認すると『着信:立浪さん』と液晶に表示されていた。春川に断って、電話にでることにした。

『もしもし。夜分遅くに申し訳ありません、今大丈夫ですか』

「大丈夫だよ。しかし、随分待たせてくれたね」

 私と立浪さんが最後に会った日からすでに三日が経っていた。なにかあればこちらから連絡すると立浪さんに言われていたので、ひとまず私から何もしなかった。その時間を活用してさよちゃんを調べたというのが裏話だ。

『ええ、それについても申し訳ない。突然ですが、明日なにかご予定はありますか』

「あってもキャンセルするから、早く言ってくれ」

『お会いして欲しいんです、他の代表代行と』

「他というと、あなたと水島さんを除いた四人のうちの誰かってことかい?」

『いいえ、全員です』

 思わず「ええっ」と声を出しそうになるのをなんとかこらえる。いきなりで驚いたものの、展開としてよめないわけではなかった。しかし、いきなり明日と言われると、ちょっとは驚いてしまうし、なにより計画と違う。

 私の計画では時間がかかってもいいから、一人一人会いたかった。

『明日は代行全員が揃って会議をします。その後、少し時間をとって蓮見さんに会ってもらおうかと考えています』

「会議というと?」

『定例会議です。気になさないでください』

 この時期に協会のトップに近い人間が集まって会議……どう考えても事件について語るつもりだろうけど、それを聴かせるつもりはないだようだね。まあ、私はあくまで脅迫状のことを調べるという役割だからそれが当然か。

 私は一度電話を耳から離した。

「春川、明日は忙しいかい」

「あなたと同じ。あってもキャンセルするわ」

 なるほど。ならもう断る理由もない。腹を決めようか。

「わかった。時間は?」

 立浪さんから時間を聞き、それを春川に伝えた。彼女は素早くポケットからスマホを取り出すと、リビングから出て行った。おそらく入っていた予定をキャンセルするために連絡をとるんだろう。全く、もっと早く言ってくれれば良かったのに。

『いつもどおり協会におこしください。受付に矢倉さんがいますので、彼女に声をかけください、案内してくれるはずです』

 私と春川、そして水島さんを除いた代行五人の合計七名で話し合うとなると、さすがにあの相談室では狭い。どうやらもっと大きな部屋に案内してくれるらしい。

「わかった。じゃあ、明日」

『はい、お待ちしております』

 通話を終えて、はあっと息を吐く。なんでこうも急に……。まあいいや。とにかく止まっていた事態が動き出したと前向きにとらえないといけない。

 春川がリビングに戻ってきた。

「大丈夫、明日の予定はスッキリさせたわ。いざというときのために、そんなに予定いれてなかったし」

「準備の良さに感心するよ」

「あなたは大丈夫なの」

「私はその日暮らしなものでね」

 実際ああは言ったが予定なんか入っていない。だからと言って暇かと言われればそれは否定する。一応、やらなきゃいけないことは山積みだからね。それを片付けるつもりでいた。具体的になかっただけだ。

「さて、じゃあ明日のこともあるし。私はこれで失礼するよ」

 私が立ち上がって春川に別れを告げようとしたのに、急に両肩を掴まれた。そしてそのまま再びソファーに座らされる。きょとんとする私に、彼女は壁にかけてあった時計を指さした。時刻は十一時半。

「あなた、人が十時前に少しコンビニに買い物へ行っただけで危ないと注意しておいて、こんな時間にそんな格好で帰る気?」

 そういえば、そんなことも言ったね。

「いや、私は護身術とか使えるから」

「油断大敵ね。どうなるかわからない。そもそも私が襲われたときもさんざんそれを怒ったくせに、自分はいいと、そう主張するの?」

 なんだか彼女怒ってない? 気のせいかな。いや怒るか。だって「君は駄目で私は良い」なんて言われたら、そりゃ怒るね。うん、どうしよう、すごく怖いんだけど。

「いやでも、ほらそうなると私は君の家に世話になるわけだ。私、あまり理性を抑えられる気がしないんだよ。君と夜を二人きりで過ごすなんて」

「冗談で誤魔化そうとしているでしょ。帰ってもいいわよ。その代わり、私いますぐにお父様に、レイがこんな時間に無防備な格好で出歩いてますって連絡するけど」

 父上のお説教に慣れているとはいえ、慣れているだけで好きじゃないし、むしろ嫌いだ。なにせ長いのがたまったものじゃない。春川の件だけじゃなく、協会の件にまで関わっているときにそんなことをしてると父が知ったら……長くなるな。

「いいの?」

「……わかった。君の勝ちだよ」

 両手を挙げて降参のポーズをとると、彼女が満足そうに微笑んだ。全く、とんだ言質をとられたものだ。今度から迂闊に彼女に注意できない。

 結局、春川は寝室で、私はソファーで眠ることになった。私は「二人でベッドというのもアリだろう」と万が一の可能性にかけて提案したのだけど、彼女がすごく冷たい声で「ベランダがいいの?」なんて返してくるものだから、押し黙るしかなかった。

 深夜、真っ暗なリビングのソファーで横になりながら、考え事をする。

 春川の事件。協会の人間でも、高校の知り合いでもないとない。そして殺意があったかどうかわからない。あったとしたら、再犯を計画するはずだが、そんな気配もない。そしてなかったとしたら、イマイチ目的がわからない。

 しかし、どちらにしても……。もし、春川が恨みをかっていなくても、彼女が狙われる理由というのは存在するんじゃないだろうか。彼女の行動が目障りとか、性格が気に食わないとかじゃない。彼女の行為に腹を立ててもいない。

 存在が邪魔だと考えたら?

 立ち上がってベランダに向かう。窓をあけると、涼しい風が全身にあたった。ベランダの手すりに体をあずけるようにして、タバコを取り出して、一本咥えて火をつける。ニコチンが肺に入り、気持ちいい。

 もしも、春川の存在そのものが犯人にとって障害になったらどうだろうか。彼女には何の意志もない。ただ犯人とってはそこに彼女がいるだけでデメリットだったら、どうだろう。犯行をする動機になるんじゃないだろうか。

 目の前には夜の街が広がっている。こんな時間だけど結構な数の車がライトをつけて走行しているし、よくよく見ると歩いている人もいる。街頭やビルの明かりに照らされた、この街を見渡しながら頭を巡らせる。

 悪意じゃない、恨みじゃない。犯人としても防衛に近い犯行動機があったとしたら……そして、この中に、そんな人間がいたら――。

 煙を吐き出すと同時に、どこかで車のクラクションが鳴った。

これで3章おしまいです。


さて、大晦日ですね。

皆様、本年は大変お世話になりました。

10月くらいから毎日更新して、付き合ってくださってる皆様には感謝しかありません。

どうか来年もよろしくお願いします。


さて、年が明ければきりよく4章からスタートします。


皆様の2015年がいい年であったこと、2016年には更にいい年であること勝手に願っております。


今年一年、ありがとうございました。

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