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後輩

蓮見はさよから思わぬことを聞かされる。

「……えっと」

 初めて声を出そうとするけど、緊張で唇が動かない。ただでさえ人見知りで誰かと話すのは得意じゃないのに、ここまで追い詰められてしまっては、彼女には正常にしゃべるというのは至難の技になった。

「……あの、えっと……その」

 自分が何を言おうとしているのかさえわからなかった。ただ何か言わなくちゃいけないと思って口を動かそうとするけど、唇が震えるばかりで、言葉にならない。そもそも頭が真っ白なこの状態では、きっと言葉になったところで、相手には伝わらない。

 思わず下を向いてしまう。そんな彼女の行動に、蓮見は何か察したようだった。

「君、まさか恥ずかしがり屋さんかい?」

「……はぃ」

 ようやく出した言葉は、たったの二文字だった。しかも相手に自分の性格を正確に見ぬかれた。

「そうか。なるほどね。じゃあ次の質問。タバコは好きかい、それとも嫌い? 好きなら頷いて、嫌いなら首を振ってくれ」

 思わず首をかしげたくなるような、全く意図のわからない質問だったけど、さよはとりあえず首を振った。吸ったことはないけど、煙を吸うだけで正直嫌な気分になった。

「なるほど。じゃあ、これでいいや」

 彼女は何か一人で納得すると、急に胸ポケットからタバコの箱を取り出した。そしてその中から一本取り出すと、口にくわえて火をつけた。そしてそれをくわえたまま、さよに近づいてくる。

「さあどうぞ」

 彼女はさよの顎を持ち上げると、そのタバコを咥えさせて、まだ未成年の彼女に強制的に喫煙させた。

 あまりに突然のできごとに「えっ」と自然と声が漏れたあと、タバコのあの匂いや味が彼女に襲いかかってきた。思わず即座にそのタバコを吐き出す。おちたタバコは蓮見が踏んで火を消した。

「な、な、何するんですか!」

 気がつけばさよは目の前の彼女を先輩にも関わらず大声で怒っていた。

「ひ、非常識ですよ!」

「不思議とそれよく言われるんだよ。けどいいじゃない。少し、話しやすくなっただろう?」

 そこでウィンクをされた。そして気がついた。そういえばさよは、会ったばかりの人間にこんなに声を張ったのは初めてだ。いや、会ったばかりどころか、そもそも他人に対して声をあげて怒るという経験さえ彼女は初めてだ。

「人見知りとか、恥ずかしがりは、自分を見せるのが怖いというのがあるんだよ。だから、一度自分を見せてしまえば、実は後は楽なんだ。君、今までそういう経験したことなかっただろう?」

 まるで見透かしたようにそう指摘してくる。

「怒るというのは、見せたくない感情の一つ。だからごめんだけどそうさせてもらった。許して欲しい。君とは色々と打ち明けて欲しいからね」

 そんなことを言われてしまえば、許すしかなかった。それに確かにさよは体から緊張が消えているのを体感している。さっきまで唇が震えていたのに、今では自然と口が動いた。

「無茶苦茶です……」

「それもよく言われる。さて、私のことはどうでもいいよ。君のお話を聞かせてくれないかな、さよちゃん。君は何の目的で春川を調べてるのかな?」

「……春川先輩とは、中学のときから知ってます。私、先輩の後輩なんです」



 2



「春川の中学の後輩ってことかい?」

 ようやくまともに話せるようになったさよちゃんの言葉をそう理解したけど、彼女は首を左右に振った。

「りょ、両方なんです。中学と高校。どっちも先輩と同じなんです」

「ああ、そうなのかい。けど確か、春川の地元ってここから結構離れていたよね?」

 そうだ、彼女はわざわざ一人暮らしを経験するために地元進学ではなく、こっちに引っ越してきたと聞いている。となるとさよちゃんもここが地元ではないわけだ。

「はぃ……。ただあの、その……」

「春川と同じ所へ進みたかったのかい?」

 そう質問すると、顔を真赤にして「はぃ」と蚊のなくような声で答えてくれた。モテモテだね、春川。妬いちゃうよ。

「けどそれなら早速、春川に会いにいけばいいじゃないか。彼女だって後輩が自分と同じ大学に入ってきたら喜ぶよ。ましてや、長い付き合いなんだろ?」

 私と春川が三年で、彼女が一年。彼女が中学の先輩だというから、もう六年の付き合いじゃないか。それなら早く彼女と会って話せばいいのに。いくら恥ずかしがり屋でも、一緒の大学に入りたいと思ったほどの人と話せないということはないだろう。

 しかし、彼女は私の率直な疑問に顔を曇らせた。そしてうつむいて、また言葉を出せなくなった。

「なんだい、まさか喧嘩とか?」

 自分で言っておいてなんだけど、それはないだろう。春川が喧嘩するというのは想像できない。ましてや私とか同い年ならまだしも、年下の後輩相手にとなるとなおさらだ。

「……怖いんです、会うの」

「怖いって。君は彼女と会いたくてここに入ったんだろ? というか、春川はここに君が入ったことを知っているのかい?」

 よくわからないことだらけになってきた。最初は春川の事件とこのさよちゃんが関わっているかもと思って調べてみたが、どうもそんな感じじゃない。春川は私より背が高いやつが犯人だと言っていた、彼女は明らかにそれから外れる。

 そしてこの性格。とてもあんな事件を起こせるとは思えない。というか、この様子だと事件のことを知ってるかどうかも怪しい。

「知らないとおもいます。い、言ってないし、会っても……ないですから。もう、三年も」

「三年? 君、高校も一緒だったんだろ? 彼女が卒業してからは二年しか経ってないだろう」

 なにがなんだかさっぱりだ。整理してみよう。さよちゃんは中学の時に春川と会って、高校も一緒だった。彼女は春川に会いたくてここへ進学したが、そのことは春川に言ってないし、春川もそのことを知らなくて、そして三年会ってない。

 なるほど、わからない。

「……先輩と仲いいんですよね?」

「うん、誇張でもなんでもなく、かなりいいよ。だから君が彼女に会いたくて、ここへ進んだというのも納得してる。彼女、いい先輩だっただろうから」

 というか、彼女は現在進行形でいい先輩なわけだけど。サークルや自治会の後輩たちからの人望がすごいことになっていたはずだ。

 そういうことも含めて彼女に教えてあげると、彼女はようやく表情を崩して笑顔になった。

「そうですか……よかった」

 前半はともかく、後半はもう返答というより独り言に近かった。

「だから分からない。君は何を怖がって、春川に近づかないんだい?」

「……こ、これから話すことを、誰に言わないでくれますか?」

 上目遣いでそんなことを訊かれてしまったら、頷くしかないじゃないか。

「春川先輩と私は、中学の時に会いました。い、今もそうなんですけど……私、とにかく人見知りで、誰かと関わること……ずっと避けてました」

 そして静かに、時々言葉を詰まらせながら、彼女はゆっくりと語り出した。

 彼女と春川の邂逅を、そして別れを。

春川というキャラクターは以前別の作品で登場したキャラクターで流用した子です。

彼女の物語は『女王のつるぎ』というタイトルで、こちらでも投稿してますので、興味がある方は是非。

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