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確保

ある人物が春川を監視していると……。

第3章【春にして君を離れ -Absent in the Spring―】



 胡桃沢さよをひとことで表すなら、それは「人見知り」だった。ただそれはオブラートに包んだ言い方。正確には「極度の」とつけなければならない。

 それはもう生まれ持ったものだとしか言い様がない。彼女自身、それが自分の短所であることはわかっていたから、それを治すために様々なことをしてきた。それはどれも本に書いてあることであったり、ネットで調べたことであったり、テレビで見たことであったりした。つまり成功の前例があった。

 しかし、彼女にそれは効果がなかった。彼女が「なるほど、私にはこれは治せない」と現実を受け入れることができたのは、つい二年ほど前のことだ。それまで、つまり高校二年の春までは、彼女はそれと必死に戦った。

 幸いにも彼女は人に恵まれていた。彼女のそういうところを受け入れてくれる人のほうが多かった。彼女は本当にこればかりは世界でもトップクラスでも幸運だったと感謝している。人に恵まれた人生とは、こういうことをいうんだろうなあなんて、十八歳にしてそんなことを思っていた。

 そんな彼女が、一世一代の決断をしたのは、一年前のことだった。高校3年生になった彼女は進路希望で、地元から離れた大学に進学すると決めた。これには彼女の周りは騒然となった。なにせそれは、一人暮らしするということで、周りからすれば彼女にそんなことができるはずがないと思っていたから。

 しかし、おそらくさよはここで生まれて初めて周囲の反対というものを押し切った。両親が年明けまで反対したが、そこを祖母が「さよちゃんを信じなさい」と諌めてくれたおかげで、彼女はこの春めでたく希望していた大学に入学した。

 周囲の友人たちは彼女のこの決断を驚いていたし、やめておいたほうがいいと忠告していたけれど、夏には「しょうがない、じゃあ協力してやろう」と、彼女を応援してくれた。

 それからは受験勉強を一緒にしながらも彼女の人見知りをマシにするために色々と協力してくれた。おかげで彼女は人見知りは治せなかったが、緩和できた。それだけでも彼女からすれば初めてのことだった。

 そしてこの春、彼女は地元から出た。

 ある人と再会を果たすため。



 緩和したとはいえ、彼女が極度の人見知りであることにかわりなかった。だから彼女はこの知らない人しかいないという、もはや彼女からすれば異次元に近い世界に未だに対応できていなかったりする。

 だけど、彼女はその緩和した人見知りを活かし、入学早々から一年前の自分では考えられないような行動をした。

 そして結果として、彼女は今大学のある校舎の三階にいた。ここは彼女の学部でもない。だから彼女からすれば余計に知らない人ばかりの世界なんだけども、さすがに連日こればかりだから少し耐性がついていた。

 彼女はその校舎の窓から外を見下ろしていた。そこにあるのはテニスコート。テニスサークルの人たちが、試合をしたり素振りしたり、談笑したりしている。まさにキャンパスライフというやつだった。

 しかし、彼女は別にテニスに興味があるわけでも、サークルに憧れていたわけでもない。彼女の目的は一人の人物だった。

「……あ、いた」

 自然と声が漏れた。彼女は窓に張り付くようにして、コートを見下げる。彼女の視線の先には、今まさにコートに来たばかりの生徒がいた。長身で、ストレートの黒髪が綺麗な女生徒。彼女がこの大学に入った目的。

 彼女がコートに入ってくると、そこにいた全員が彼女に声をかけてはじめた。あいかわらずすごく多くの人達から慕われているんだと、彼女は素直にすごいと思った。

「先輩……」

 さよはそれからしばらくずっと彼女のことを目で追い続けていた。彼女はいろいろな人に声をかけていき、時々練習を教えたりしていた。

 ちなみに、さよは何かに没頭すると周りが目に入らなくなるタイプの人間だ。これは天性のものではないが、それに近いものだった。彼女は人見知りなので人が多くいる場所などでは、それから逃れるために他の何かに集中するということを小さい頃からずっと繰り返してきた。

 そうしている間に、とんでもない集中力が培われていた。

 だからこの時、彼女は気づくことはできなかった。

 自分のすぐ後ろにある人物がいたことを。

 さよが我に返り、自分の背後に誰かの気配を感じ取ったときには、彼女には振り返る余裕もなかった。口をふさがれて、同時に胸のあたりももう片方の手で拘束されて、身動きどころか、当然声をだすこともできなかった。

 あまりに突然の出来事に、彼女は衝撃あまり最初は暴れることもできなかった。体が固まって、体中から冷や汗が一気に流れ出る。

「楽な捜査になるかなとは思っていたけど、こうも簡単に捕まえられるとはね」

 混乱するさよを差し置いて、後ろの人物はそんなわけの分からないことを言っていた。

 さよが「なにかよくわからないけど、逃げなきゃ」と考えにいきつき、身をよじらせてみるけれど相手の力が強いせいで逃げられない。

「ああ、暴れるのかい。別にいいよ。なんだったら叫ぶかい? それも構わない。ただ……」

 後ろの人物はクスっと妖艶に笑った後、続けた。

「聞こえちゃうかもね、下のテニスコートまで。そうなるときっとあそこにいるみんな、こっちを見上げるだろうね、春川含め」

 思わずまた体が硬直する。どうしてこの人は春川先輩のことを知っているのか、いやそもそも、どうして春川先輩がこちらを向くことが脅しになるとわかっているのか。

「君にしてはいいことじゃないだろ?」

 ここで初めてさよは自分を拘束している人物と目を合わせることができた。彼女がさよの顔を覗き込むように見下ろしてきた。

 女性だった。黒髪がロングでストレートというところは春川先輩に似ているけど、それ以外は、まとっている雰囲気も何もかもが違っていた。彼女は人を拘束しているとうのにどこか楽しそうで、唇を曲げて笑っていた。

「君ね、一つだけアドバイスさ。誰かを調べるなら、そんな派手なサングラスはすべきじゃない」

 彼女はそういうとさよがかけてたサングラスを外してきた。

「あっ、やめっ……」

 さよがサングラスをかけていた理由は陽がまぶしいとか、おしゃれとか、そんなものではなく単純にそうすると周りが見えにくくなるからという、いかにも彼女らしい理由だった。だから彼女にとってそれをとられるということは、裸にされるのと同等に近い。

「おや、可愛い顔をしているじゃないか。こんなものつけていると、もったいないよ」

 まっすぐ顔をみられて、しかもそんな褒め言葉をもらったものだから、さよの精神は限界に近づいた。いっきに顔の体温が上昇する。おもわず目を伏せてしまう。

「さて、ずっとこうしていても不審者に思われるね。君はちょっと付き合ってもらうよ」

 彼女はそういうとさよを拘束したまま移動し始めた。その間さよは何度も逃げようとしたのだけど、やはり逃げられない。そもそも廊下に出ても平然とさよを拘束したまま移動する彼女を、ほとんどの生徒が疑問に思ってないのか、自然としていた。

 この時彼女は初めて、この大学に入ったのは間違いだったんだと、深く後悔した。

 結局、彼女はそのままどこかも分からない部屋に連れ込まれた。そしてその部屋にはいると当時に解放された。

「はい、もういいよ」

 しかし相反して、さよは即座にその部屋から逃げようと扉の方に走ったが、どうしてか扉が全く開かない。

「ああ、無駄だよ。ここの部屋、外から鍵をかけられたら中からじゃ開けられないんだ。しかし最近の大学教授というのはどうかしているね。ちょっとある子とお話ししたいから、その子を軟禁するのを手伝ってくれないかなって言ったら、本当に協力してくれるんだから。それだけ私が信頼されているってことかな?」

 さよが扉の前で悪戦苦闘しているにも関わらず、彼女はそんなよくわからないことを言ってくる。よくわからないけれど、自分がとにかくここから出られないということだけは、理解した。

「別に食べたりしないよ。いや、君可愛いから本当は食べちゃいたいんだけど。けど今日はそんなことを言っている場合じゃないね。君は誰で、何の目的で春川を調べて、しかも付け回しているのか、色々と教えてもらいたいんだよね」

 全身に危機感がはしる。完全にさよがしていることがばれている。決して隠密な行動じゃなかった。けど、人見知りの彼女が精一杯の勇気を振り絞って聞き込みなどして、なんとか春川先輩が大学で何をしているのか調べた。

 けど、どうしてそれを、この誰かもわからない人に突き止められて、しかも問い詰められているのか、さっぱり分からない。

 さよが混乱して黙ったままいると、目の前の彼女は「ああ」と手をうった。

「そういえば自己紹介をしてなかったね。私はこの大学の三年、春川の友達で蓮見レイという。みんなからはレイと呼ばれることが多い。好きに呼んでくれていいよ」

 蓮見レイと名乗った彼女はそういうと、屈託のない、すごくいい笑顔を向けてきた。

 春川先輩の友達?

「心配しなくても君のことは春川には知らせてないよ。これは私が勝手にしてることだから安心してくれ、胡桃沢さよちゃん」

 また体に衝撃が駆け抜けた。今彼女はたしかにさよのフルネームを口にした。

「簡単だったよ。そのサングラスをもとに辿っていったのさ。色々な学部の友達に最近サングラスをかけた子を見なかったかいとメールをしたら、理工学部の友達がそんな一年生がいると教えてくれた。で、理工学部に出向いてみたら、君の目撃情報はいっぱいあった。ただ君、誰とも関わってないみたいで、名前まで知ってる子がいなかった。さてどうしようかなと思ったけど、大学の特性を利用した。君、昨日の授業を真面目に出てたね」

 さよは一年生だから授業はたくさんとっている。だから昨日と言われても、どれか分からないけど、確かに昨日は履修している授業は全部出た。

「大学ってさ、こういうところ不用心だよね。出席確認のために点呼するだろ。あれじゃ名前なんてすぐ手に入る。胡桃沢さよさんって呼ばれて、君が手をあげるのを、ちゃんとこの目で見たよ」

 そこまで言われてどの授業かわかった。年配の教授がやっている授業だ。

 けど、ということはこの蓮見さんというのは昨日、同じ教室にいたということだ……全然気が付かなかった。

「失礼ながら、君のマンションも知ってるよ。昨日は君のあとつけてたから」

 さっきから驚かされてばかりだけど、これには思わず腰が砕けそうになった。あ、あとをつけられていた……。

「いや、念には念をいれるタイプの人間なんだよ、私。さて、さよちゃん、昨日一日かけて私は君のことを調べつくした。そして今日春川を監視していることを現行犯逮捕というわけさ。つまり、言い逃れできないよ? さっさと白状してもらおうか」

 ニッコリと笑っているが、彼女から威圧を感じた。知らない間に包囲されている。ここから逃げた所で、すぐまた捕まるのが目に見えていた。

ここで新キャラ登場。

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