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概略

父に呼ばれた蓮見は、春川と二人で協会に向かうと、そこには以前と違うことが多々あった。

 6



 驚いたことに『クロスの会』の建物も入り口には前はいなかったガードマンが二人立っていた。しかも若くて、大きな男だ。格闘技でも経験していたのか、顔が傷だらけ。しかも腕や胸の筋肉がもはや常人離れしている。

 私と春川が入り口に近づいていくと、すごい眼力でこちらを睨んできた。しかし私達を止めたりはせず、ただいたすら視線を送るだけだった。

「……前はいなかったわよね、あんな人達」

 春川が声でそう確認してくる。

「いなかったよ。まあ、事態を受けて呼びつけたというところだろうね。そういう会社と契約してるみたいなことは水島さん言っていたし」

 しかし見るからにそういう会社の中でも選りすぐりの人材だろう。そういうのをすぐに呼びつけることもできる財力もあるってことか。やっぱり、どこか常識離れしているな、ここ。

 しかし中はあまり変わっていなかった。だだっ広い玄関ホールに受付がひとつ、そしてそこにいつもの女性、矢倉さんが座っていた。この前と違うところといえば、目元にくまがあるところと、喪服のところ。

 彼女は私達に一礼すると、相変わらず感情のない案内だけをしてきた。

「相談室にて立浪様と警察の方がお待ちです」

 それ以上は何も言わない、むしろ早くいけと言われているように思える。だから私たちも礼だけ返して、すぐにエレベーターで相談室に向かった。しかし、かなりの信者を抱えているはずなのに、どうしてこう人がいないんだろうか。

 ノックして相談室に入ると、ソファーに腰をおろした父上と、自分のパソコンの前にいた立浪さんがこちらに視線を向けてくる。

「お待たせしたね。堂々の登場さ」

 そんな冗談も通じない。部屋の空気が重すぎる。誰も突っ込んでくれないし、もう嫌になった。

「蓮見さん、昨日は電話にでることができず申し訳ありませんでした。すこしこちらもばたついてまして」

「構わないよ。あんまり期待していなかったしね。それに、ちゃんとここで色々と教えてくれるんだろ?」

 最後の質問は父に向けて言ったものだ。父は「まあな」と曖昧な返事しかしなかったけど。

「とにかくおかけください。立ち話で済ませられるほど、短くはありません」

 立浪さんの勧めで私と春川はソファーに座った。そして立浪さんも父上の横に腰掛ける。

「まず言っておくけど私と春川はニュースで報じられていることしかしらない。だから私達からも昨日のことはちゃんと話すけど、それに見合った情報が欲しい。いくらなんでも昨日会った人が死んだ……いや、殺されたことが気にならないわけがないんだよ」

 隣の春川がうんうんと頷く。それに呼応して立浪さんが「わかってます」と返事をする。そういえばこうして彼と座って向かい合うのは二回目だ。彼と春川のあの話し合い以来。こういう形で再現されるとはね。

「で、父上、私たちは何を話したらいいんだい?」

 腕をくんだまま座っていた父がため息をついた後、話し始める。

「お前と春川くんが昨日水島さんと会っていたのは、立浪さんの証言があったし、押収された水島さんの携帯のスケジュール帳に書いてあったから確認はとれた。その前後の出来事を、できるかぎり細かく話すんだ」

「わかった。私からでいいかな」

 隣の春川に確認をとると彼女はしずかに頷いた。というわけで私は、昨日の出来事を事細かく説明していった。春川の事件の現場検証をして、そこから水島さんの家にいきちょっとした調査をしたこと、そしてその後の私の行動。

 水島さんとどういう話をしたかも詳しく話した。私の話の最中、父は熱心にメモをとっていて、立浪さんはただただ聞いていた。

「――それで春川に起こされて、ニュースを見て事件を知った。これが昨日のことだよ」

 一通りすべて話し終えてから、春川に視線を向けた。彼女は「じゃあ、次は私が」と切り出して、私とほぼ同じ内容のことを話し始めた。

 昼間はほぼ一緒に行動していたから話の中身は大きく異なることはなかった。ただ春川の場合、私と違って水島さんと話すことは少なく、彼女はその分彼をよく観察していたらしく、彼がどういった質問にどういう反応をしたかを細かく付け加えていた。

 そして夜の彼女の行動はさっき朝食をとりながら確認したとおり、隙がない。おそらくバイト先に確認をとればいとも簡単に証明されることだろう。

「私からは以上です」

 わざわざ話し終えてから小さく頭を下げるあたりを、私も見習わないといけないのかな。

 ただ私も春川も、あの重要な部分を話していない。話し終えた春川が私の膝を叩いて、それを話すように促してくるので、私はこほんっと咳払いをしてからここばかりはいつになく真剣に語り始める。

「以上が私と春川の話しだったわけだけど、実を言うと重大なことがあるんだよ」

 私は昨日水島さんの家を出る直前に彼が誰かと会う約束をしていると言っていたことをちゃんと伝えた。どうやら警察も協会も把握していない情報だったらしく、父上はいつになく目が鋭くなり、立浪さんは驚いた後、すぐに立ち上がって彼の机の上にあった内線の電話をとって誰かと話し始めた。

 さて、警察が把握していないというのは大変な事態だった。なにせ父上はさきほど私と春川が水島さんと会っていたのを立浪さんの証言と、押収した水島さんの携帯のスケジュールで確認したと言っていた。つまり、水島さんはスケジュールを細かく管理するタイプの人間で、そんな人がその後の予定は書いていなかったということになるんだから。

 可能性はいくつかある。まずその約束が急にできたことだったというパターン。例えば昨日の朝、いきなりきまったことだったということ。

 次に、そのスケジュール帳にはたまたま私たちの予定だけが書き込まれていたということ。日頃はそんなにスケジュール帳を使わないが、私たちの約束だけは忘れてはいけないと考えて厳重に管理した。

 更に、この逆パターン。その誰かと会う約束というのは別に大したことではなかったから、わざわざスケジュール帳に書かなかったというパターン。

 そして最後にもうひとつ。今までのは私達から見たらという考え方だ。第三者、つまりこの場合では警察からみたらもう一つだけ可能性がある。

 そう、私達が偽証しているとうパターン。

 もし警察がそういう色眼鏡で捜査を始めたら、すごく面倒だな。春川はともかくとして、私には夜の予定が空白で、『クロスの会』に対する恨みがあるとみられても仕方ない人間だ。さて、そんな人間がこの協会の代表格の人間と会った日に、その人物が殺された。アリバイはない。こんな偽証をするには十分な根拠だ。

 一緒に証言している春川も、なにせ私が協会を恨むきっかけになってる当事者だ。共犯とみられても、あんまり文句は言えない。

 なにせ、私が春川の事件で協会を疑っているのも、すごく似たような経緯があるからだ。これはとんでもないブーメランじゃないか。まったく、笑えないブラックジョークだよ。

 内線電話を終えた立浪さんが、ソファーに再度座った。

「ただいま矢倉さんに確認しました。そういったことは聞いてないとのことです」

「矢倉さんは水島さんのスケジュール管理なんてしているのかい?」

「彼女はこの協会の事務職みたいなものです。信者の誰が何時に来訪するか、どういった業者がいつくるか、あと教祖様が非常に気まぐれでありますからそのマネージャーみたいなものも。すべてそつなくこなしますからね。代表代行のメンバーは緊急の呼び出しなどもありますから、彼女にスケジュールを教えていたりします。そうすれば連絡が楽になりますからね。彼女は代行のスケジュールは基本的に私にも教えてくれるのですが、他の代行が立浪には教えるなといえば、そうしますから。しかし今回はそういったこともない様子です。彼女は完全に寝耳に水といった感じでした。言っておきますが、彼女は仕事上でミスをしたことはありません」

 あの機械的な女性。ただの受付じゃなく、どうやら立浪さんの右腕のような役割をしていたらしい。どうりで彼女もいつもいるわけだ。つまり彼女が窓口になってすべての情報を管理して、それを立浪さんに報告している。

 これだけ見ると、普通の企業みたいだね。

「厄介ね」

 そう端的に言ったのは春川。彼女もどうやら状況を理解しているらしい。私達以外、この証言の裏付けがとれないのは、彼女が言ったとおり、いや彼女が言った以上に、厄介だ。

「だね。まあ、これはもうお任せするしかないね。……さて父上、私たちのお話は今ので終わりだ。次はそちらの番だと思うね」

 父上は当たり前だが、あまり乗り気ではない。娘とその友だちに殺人の話しをするのだから乗り気でも困るのだけど。

「そうだな……どこから話せばいいだろう」

「ここはもう最初から話してほしいね」

 最初からと言ったものの、最初がどこかも私はわからない。

「そうだな。じゃあ、警察が掴んでいる時系列ごとに説明していこう」

 それはきっと今わかっている「最初」からの説明。それ以前に最初があって、それが最初でない可能性もあるのだけど。

「まず事件があったのは昨日の夜十時。場所は隣の市だ」

 隣の市はここから二駅ほど離れている。

「水島さんが見つかったのは、ニュースでも見たと思うが、町外れの空き地だ。土木業者の土地で、いつもは機材やらをおいているんだが昨日は出払っていた。そこで見つかった……燃えている姿が」

 そう、それはニュースで聞いたとおり。

 昨晩、その空き地の付近の住人は男の叫び声を聞いた。あまりにも苦しそうな、雄叫び。それが続いた。驚いた住民たちは家から飛び出して、その声の元へ向かった。そこには男がいた。そう、燃えている男が叫びをあげながら、全身に炎をまといながら、苦しみあがき、もだえていた。

 まさに地獄絵図な状況に住民は一瞬言葉を失ったが、そこからは素早かった。一人は急いで水を近くから調達するために奔走し、一人は警察に通報した。何人かの住人が水をかかえたバケツをもって、その男へ近づいて水をかける。近くの家から園芸用の長いホースを借りて、それを用いたりもした。

 男の身をまとう炎はそのおかげで消し止められたが、その頃にはもう男は叫ばなくなっていた。

 警察が到着し、現場を封鎖。男は病院に搬送されたが、救急車の中でもうすでに心肺停止状態。病院について、正式に死亡が確認された。

 男は両手と両足に手錠をはめられていて、自由に動ける状態ではなかった。

 警察が現場検証をしたところ、その男が燃えていたすぐそばから男の持ち物とみられるものが見つかった。一つのカバン。中には財布や携帯が入っていた。そして財布の中には免許書が入っていて、その男が「水島修」である可能性が急浮上した。

 もちろん、正式に調べなければならない。警察は免許証の写真と、死体を見比べた。近隣の住人のおかげではやめに消された炎は、顔を焼ききってはいなかった。警察が見ても、その男は水島修で間違いないように思われた。

 しかし、それだけでは当然足りない。警察は彼の身寄りを頼ったが、彼が天涯孤独であることがわかると、すぐに彼に近い人物を頼ることにした。

 そして彼がつい最近事件のあった、それに関係しているんじゃないかと疑われた宗教団体の代表格の一人であることがわかると、その事件で一番警察とセッションした人物に連絡した。つまりそれが立浪さん。

 そして立浪さんが身元確認をした。どうりで昨晩連絡がとれなかったわけだ。もちろん彼のことだから協会関係者などに事務的連絡もしないといけなかったんだろうけど、なにより焼死体を見た直後に誰かと冷静にやり取りするなんて、そうそうできるものじゃない。私も一度だけ、焼死体は見た。はっきり言って、死んでももうあんなのは見たくない。

 結果として警察的には焼死体にしては最速といっていいほどのスピードで被害者の身元が判明することになり、私達が見た報道につながる。

蓮見の父って基本一人が多いですが、実際は刑事はペア行動が多いです。

多いだけで全部ってわけじゃないです。

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