表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/55

関係

朝になり各々が動き出す。

 5



「なにがどうなっているのか、私にはさっぱりなんだけど、どこかの美人女教師がわかりやすく教えてくれたりはしないのかな?」

 私の率直な感想と、愚直な欲望を父は相手にしてくれなかった。冗談を言っている場合ではないと言わんばかりに思案顔。いやこれはどちらかというとしかめっ面だね。とにかく機嫌が良くないことは、娘でなくともわかっただろう。

「水島修さんが殺された……簡単にいえば、そうなる」

「簡単すぎてわからないっていうのが私の意見なんだけどね」

 私たちは今、自宅のリビングでお互い座ることもなく一般的な親子らしくもない会話を繰り広げていた。どこの娘と父親が、朝一番から殺人の話をするのか。

 時間は朝の七時。父がさきほど帰宅したばかり。帰宅といっても別にくつろぐために帰ってきたわけではなくて、これから仕事で泊まりこみが多くなるので着替えを取りに帰ってきたというわけだ。事前に家に連絡が入っていたので、私はそれの準備も兼ねて早起きしていた。

 水島さんが殺されたという知らせが入ったのは、日付が変わったころ。春川のあの電話だった。ニュースをみてみると男性が一人殺されているのが見つかった、被害者は水島修さんだと報じられていた。あまりにも唐突なことに、しばらく何も考えることさえできなかった。

 もちろんその後色々と情報を得たかったので立浪さんに電話をかけたりはしたんだけど、彼が応答することはなかった。予想できたことだけに落胆もしなければ、別に腹も立たなかった。

 とにかく今日からのことに備え、できるだけ早く眠り付き、今にいたる。

「正直夜中でも父上に電話をしようとしたよ。ただどうせまだ事態全部を警察が把握してるとは思えなかったから控えた。どうだい、一晩たってなにかわかったい?」

「捜査はそれこそこれからだ。レイ、確かに水島修は『クロスの会』の代表代行の一人だった。しかしお前がこだわっている春川君の事件とあの教会は無関係というのが警察の見解だと何度も言っているだろう。関わるんじゃない」

「なんとありがたいお言葉だろうね、娘を心配する父親の愛がひしひしと伝わってくるよ。ここはあれかな、泣くところかな。しかし残念だねえー、私はそういうキャラじゃないんだよ。そして何より、春川のことを無視しても今回私はその事件に介入することになるんじゃないかな。私の意志じゃなく、父上たちがそうするはずだよ」

 私のそんな言葉に父が顔を険しくさせる。

「どういうことだ?」

「どうもこうもないさ。水島さんと最後に会ったのは、もちろん犯人を除いてだけど、私と春川が最後の可能性がある。私たちは貴重な証人で、下手すると容疑者かもしれない」

 父の顔色が一気に悪くなる。決して若くない父の心臓に負担をかけたくないのは山々なんだけど、こればかりはもうどうしようもない事実だし、調べればすぐにわかることだから。

「お前と水島さんは昨日、会っているのか?」

「会って、お話をしたよ。私と春川と水島さん、彼の自宅で色々と聞かせてもらった。これ多分、立浪さんに確認とってもらえればすぐわかる。春川の連絡先は……そういえば父上は彼女の連絡先知ってるんだったね、ならあとで直接聴取すればいいよ。嘘はついてないよ。さて父上、私は無関係でいられるのかな?」

 挑発にも近い私の質問に、父はあからさまに苛立った。「ああっ」と頭をかくと、私が用意した服をつめた紙袋を手にすると、リビングから出て行った。

「今日一日はすぐに電話に出られるようにしておけっ、春川君にもそう伝えておくんだぞっ」

 そんな捨て台詞だけ残して、音をたてて玄関のドアを閉めて出かけていった。

 死体が発見されたのが昨日の夜だから、父が言うように捜査はまさにこれからということだろう。どうなるのかはわからないが、今私が証言したことはすぐに裏がとれるはずだから、きっと早めに連絡がくるだろう。

 細かいことはその時に聞き出せばいい。こちらはこちらでできることをするだけだ。

 リビングから自室に戻り、テレビを付けてニュースをかける。事件の報道はしていない、どうでもいい芸能ニュースが流されているが、いつか報道するかもしれないのでチャンネルは変えず、次はパソコンの電源をつけた。

 そしてパソコンが立ち上がる数分を利用して、電話をかける。相手は一コール以内に出た。

『おはよう。よく眠れた?』

「うーん、眠気は残っていたけど今の君の声で吹き飛んだ。ねえ一日百円払うから毎日モーニングコールしてくれないかな、君の声ならすぐに目覚められる気がするよ、春川」

 短く簡潔な彼女の挨拶に対して、長々と返すと彼女はいつものようなリアクションをとってくれなかった。

『冗談言ってる場合?』

「冗談言ってる場合じゃないけど冗談でも言わないとやってられない状況ではあるんじゃないかな?」

 実際問題、私こう見えても結構混乱してるんだけど。昨日会って話した人が死んだなんて聞かされて、平常心でいられるわけがない。例えそれが私にとって初めての経験じゃなくても。

『まあ、その通りかもしれないわね』

「君こそどうだい、ちゃんと寝たのかな? 睡眠不足はお肌の大敵だよ。気をつけなきゃいけない、君の肌は君だけのものじゃないんだ。将来的に私のものにもなるんだよ」

『なんで?』

「私の体だって君のものにしていいから。というか、今でも君の好きなようにしていいんだよ」

「遠慮しておくわ」

 私の下世話な冗談のラッシュを簡単に片付けたあと、彼女はため息をついた。

『昨日はあなたに連絡したあと、早く寝たから大丈夫。睡眠時間が短いのはしょっちゅうだし』

 確かに彼女の場合、日々のスケジュールが常にハードモードなのでそういうことも平気なんだろう。しかし、睡眠不足は冗談を抜きにして決してよくはないのだけど、今はそんなことを話しても仕方ない。

『あなたはどう?』

「私も君と似たようなものさ。昨日の晩は一応立浪さんに連絡をとろうとしたけど、返事はない。今もないところを見ると、きっと忙しいんだろうね。さっき父が帰ってきたよ、事件のことは聞き出せなかった。というか警察も事態をまだ全部は把握してないんだろう。とにかく私と君が昨日水島さんに会ったことは報告しといたよ。問題ないよね?」

『むしろ報告しなかったら問題よ』

 その通りだね。かなり重大なことだ。下手をすると生きている彼の顔をみたのは私達が最後なのかもしれないんだから。警察としては決して無視はできないだろう。変に隠したりしたらそれこそ問題だ。

「今、君はなにをしてるのかな?」

『あなたと同じだと思うわよ。パソコンの前にいるわ』

 なるほど、こちらが取るであろう行動はよまれていたか。というか、これくらいしかないんだよね、できること。

「まあ、テレビとパソコンくらいしかないからね、私たちの情報獲得手段」

『大手新聞社の記事の見出しを一通り見たけど、有益なものはないわよ。昨日の晩から続報はないようね』

「まあ、そんなことだろうと思ったよ」

 期待してなかったけど、ちょっとヘコむね。どうせ父から連絡が入れば詳しい情報は手に入るんだけど。

「我が父上がね、今日は一日はすぐに電話に出られるようにしてろってさ。君にもそう言っておけって」

『お父様からそう言われてしまっては、今日の予定はやっぱり全部キャンセルして正解だったわね』

 どうやら今日がどんな日になるかはわかっていたようで、予定はすでにキャンセル済みらしい。本当に行動が早くて的確。

「さて、今は……七時半か。春川、君、朝食はとったかい?」

『まだね。情報を優先したから』

「私もそうだよ。どうせ父に呼び出されるのは二人セットだろうから、どうだい、朝食でも」

『いいわね。……何を食べても味は同じでしょうけど』

 そうだね、今日ばかりはどんなものを食べても美味しくは感じないだろう。

『マンションに来て。軽食なら用意してあげるから』

 あれ、私はなんとか食事を楽しめそうな気もしてきた。不思議だね、愛の力かな?

一度上司からモーニングコールされたことがあります。

嫌な思い出です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ