速報
家に帰った蓮見だが、急に春川から連絡がはいる。
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教授のよくわからない話を頭の中で反芻しながら私は帰路についた。大学から自宅までの道のりの間に父と兄からメールが届いた。要件は同じ、メールを開くまでもなかった。つまり夕食はいらないということだ。この時間に届くメールといえばこれしかない。
現在、我が家の家事全般は私に任されている。母は旅行中。一年間、家にいることのほうが少ない母親、そして仕事で忙しい父と兄。そうなると私しかいないというわけだ。
私は二人に「お勤めご苦労様」というメールを送って、今晩は一人なら適当に冷蔵庫のものを食べて済ませることにした。
だからスーパーにもよらずまっすぐ家に帰り、ひとまずリビングのソファーに身を預けた。そしてカバンからまずデジカメを取り出す。春川が襲われた事件現場の写真を収めた大切なカメラ。撮った写真をじっくりとみてみるけど、やはり何か変わっているところは発見できない。
あんまり期待してなかったとはいえ、これじゃあ収穫ゼロか。ちょっと凹む。しかし、あとで何かしら発見できるかもしれないからちゃんととっておかないと。
次は手のひらサイズのメモ帳を取り出す。これは私のじゃない。春川が別れ際に渡してきたものだ。彼女が水島さんとの話し合いをメモしていたもの。マメなことをするなあと関心している。私は面倒だったからポケットに忍ばせていたスマートフォンの録音機能ですませていた。
「録音は私もしてたわ。けど、手描きのメモってあとで見返しやすいじゃない?」
なにやらとても女子大生らしくない会話のあと、彼女は「きっと何かに気づくならあなただから」とこのメモ帳を渡してバイトの応援に向かった。
何かに気づくなら私か……随分な期待をされてしまっているな。
けど残念ながらやはり春川と話したこと以上のことはわからない。もとより、まだ代表代行六人のうち二人しか会ってない。まだまだこれからだ。これもまた大切に保管だ。
そして最後はポケットから教授からもらったページを取り出す。
春川について色々と聞いて回っているという子のこと。どうやら性別は女。ただ顔はわからないという。トレードマークは大きなサングラスをかけているということ。服装は日によって違う、当たり前だけど。
した質問は「春川について」がほとんど。どこのサークルに属しているか、自治会にはいつから入っているか、どういう授業に出ているか、仲のいい人はだれか。
うーん、これはストーカーか? 春川は確かに魅力的だからストーカーができても別に驚きはしないけど、こんなあからさまなストーカーが大学にでるものかな。もっと隠密行動をとると思うんだけどね。これじゃああからさまに「こいつのことを徹底的に調べています」と公言しているようなものだ。
この彼女の目的は春川について調べることだろう。それをなんのためにしているかというのはおいておくとして、ひとまずそうなのは間違いない。それなのに複数の生徒にこんなことを聞いて回ったら、いずれその目的を達成できなくなる。
しかもサングラスだという。もう目立ちまくりじゃないか。春川について聞きたいなら、それはもう本人にアタックするのが一番だ。だけどそれをしてないということは、春川に知られてはまずいということだろう。それなのにどうしてこんな目立つことをするのか。
さっぱりわからない。
ひとまず、事件と関係あるにしてもそうでないにしても、この彼女のことは突き止めないといけないようだ。まったく、最近日に日に仕事が増えていっている。どうしてこう、私に平穏な日々がこないのか。嘆きたくなる。
むくっと起き上がり、冷蔵庫へ向かった。中から缶ビールを取り出して、再びリビングへ戻る。プルタブをあけると気持ちのいい音がした。この音を聞くだけでなんとなく生きる気力ってものが出てくるのだから不思議だ。
「うん?」
そう、ビール。何か思い出したぞ。そうだ、あの日――私と春川が初めて『クロスの会』にいった日、私は彼女に会うまでビールを部室を飲んでいた。そして彼女を見つけて部室から飛び出した。その時に誰かにぶつかりかけた……。
あの子はサングラスをしていなかったか?
していたはずだ。そうだ、じゃあ私はこのストーカーちゃんに会っていたことになるじゃないか。そうかそうか、なるほどねぇ……。
「存外、これは楽な捜査になりそうな気がしないでもないね」
しかし、偶然なんだろうか。私がストーカーちゃんを目撃した日と、春川と私が『クロスの会』に出向いた日と、春川が襲われた日、すべてが同じ日だ。偶然としてはできすぎてるし、運命にしては悪趣味じゃないか。
カバンからスマートフォンを取り出して、これはもういっそのこと春川に直接訊いてみるのが一番手っ取り早い気がするから電話でもしてみるかと考える。
『やあ春川、ところで君、君をつけ狙っているサングラスの子がいるって知ってるかい?』
さて、こんな感じで訊いて彼女は素直に答えるのか。知っていても答えない気がする。そして知らなければ、知ろうとするはずだ。なんかそれは危険な予感がするんだよなあ。彼女、多分このこと知らないだろうから。知っていたら私に教えるはずだし。
教えたほうがいいのか、黙っておくべきなのか、非常に迷いどころだ。
スマートフォンをカバンの中に戻す。少なくとも今は報告しないでおこう。ひとまず私が個人的に調べて、全貌が明らかになって彼女に教えても問題ないと思ったら教えよう。なに、ちょっと秘密にするだけだ。悪気はない。
缶ビールを煽り、ごろんと寝転がる。天井を見つめながら、私を渦巻く数ある問題について思考を巡らす。わからないことだらけで嫌になる。殺人、脅迫状、襲撃、ストーカー。はは、なんだこれ、悪行のオンパレードじゃないか。
まったく、笑えない。
スマホの震える音で目を覚ました。リビングの壁掛けどけに目をやると、驚いたことに十二時を回っていた。どうやらアルコールのおかげで、ぐっすりと気持ちよく眠ってしまったらしい。晩御飯も食べていないので、一気に空腹を感じた。
そんなことよりさっさと電話に出ないといけない。スマホを手にすると、着信相手は春川だった。
「やあ、モーニングコールにしては早すぎるよ」
『……その様子だとテレビは見てないわね』
「うん、テレビ? なに、一緒に深夜のポルノ番組でも見るのかい?」
『冗談言ってる場合じゃないわよ。すぐにニュースをつけて』
彼女の電話口の様子からただごとじゃないことが伝わってきたので、急いで指示通りテレビをつけた。
25日が本当のクリスマスです。
昨日はイヴです。
ですから、また「メリークリスマス!」




