表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

ガタガタと揺れる馬車の中は、隠しきれない焦りで満たされている。

舗装された道は既に越えて、平坦な道を進んで行く。この馬車の側面には、王家の紋章がついており、余程の愚か者でなければ遮ることはない。

王都を駆け抜けるように走ってから、この馬車は馬を変え、御者を変え、できうる限りの早さで進んでいた。嫁入り道具は王宮へと置き去りにしたままで、重篤な病状の男の元へと花嫁を運ぶ。

「間に合えば良いのだけれど……」

隣に座る侍女は苦痛を表情に浮かべ、その言葉に答える術がなかった。声の主は、返事を期待していないから尚更だ。

王都の教会で、花嫁は婚礼を上げた。その相手がいる筈である彼女の隣は、無人だ。それでも娘は、迷いなく永遠なる誓いを神の前でたてた。



王都に害獣が迫っている。そういう噂は、時折出回るが、その全てが正しい訳ではない。

しかし、その被害状況が王都まで届き、その害獣が徐々に近づいて来ていると知っては、なかなか落ち着いてはいられないものだ。

身の丈は二メートル以上あり、獅子のような体躯で、風のように駆け抜ける魔物が王都へと向かっている。そんな噂が市民レベルまで広まった頃、王宮内でもその存在を危ぶみ国軍の編成が始まった。しかし、国が軍を動かすとなると、様々なしがらみが付き纏うものである。身分や利権だけで軍は動かないが、それなりの体面を立てることも重要である。そんな風に遅れをとる内に、我先にと手柄をあげようとする者たちが、その魔物へと挑み、その生命を散らせていった。

いよいよ国軍が王都を立つことが決まり、盛大なパレードが行われる最中、その知らせは王宮へと届いた。なんでも、害獣は一人の青年によって倒されたらしいのだと。


事実確認に時間を要したが、害獣の死滅が確認された後、その偉業を成し遂げた男は国の英雄となった。

市民に英雄だと讃えられることと、国王に英雄であると認められることには、大きな隔たりがある。しかし、彼を後押しする声は、被害を受けた市民だけで留まることなく、響き続けた。彼が害獣との戦闘の途中受けた傷が癒えないことも、その声が止まない理由でもあった。

害獣を倒した男の名は、マークという。彼は、残念ながら害獣を倒した後、ずっと昏倒したままで目を覚まさない。彼の傍には、治癒魔法をかけ続けている従者のローレンがいた。ローレンに、事の子細を問うが、それでも充分とはいえない。そのため、国としてマークという男を調べることになった。しかし、奇妙なことに、マークという男は、活躍めざましい冒険者でも、今まで戦果をあげてきた軍人でもない。何の経歴も持たないただ人であった。

腑に落ちない事は幾つかあった。しかし、彼の生命がいつまで持つか分からないことも鑑みられ、国王は彼を国の英雄と認める知らせを交付した。

それに伴い、彼に王族の姫を下賜する運びとなったのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ