【閑話】名もなき領民の話
俺はリスホルン侯爵領のただの平民だが、実は地球からの転生者だ。
前世ではブラック企業に洗脳された挙句、若くして過労死した。死の間際に洗脳が解けて「次に生まれてくるときはもうちょっとマトモな人の下で働きたい」と願ったのが叶ったのだろうか、領主はとてもいい人だ。
基本的な読み書き計算を全ての領民が出来るように、小学校みたいなもの―江戸時代にあった寺子屋の方がしっくりくるかも―を作ったり、決して無理な税金は取らなかったりもそうだが、今回疱瘡が流行した時は本当に凄かった。
病人を全部一か所に集めて、治療費は全部領主様持ちでお医者様を呼んでくれた。もしも家族が生活できなくなる場合その保障までしてくれた。回復した患者は感染する心配が無いため治療に協力するのが普通だが、なんと領主様のご子息が治療に協力してくれた。俺も最後の方に罹ったんだがご子息様が何人かを連れて直接治療魔法をかけて下さった。
大分回復した時にご子息様が見回りにいらしたので、五体投地に近い形で土下座しまくったら
「そこまでしていただく程の事をした訳ではありません。それよりも回復したら他の方への治療の協力をよろしくお願いします」
って言われた。
五歳児だぜ、五歳児。俺みたいな転生者ならともかく、普通の子供がこんなにしっかりしてるなんてどれだけ天才だよ。おまけになんという聖人っぷりだよ。
領兵募集の看板を見ながら、俺は侯爵家に命を懸けて仕えることを決めた。社畜根性見せてやろう。