学園天国と終わりの始まり
学園銃士隊入りは結局お断りさせていただきました。ただ、研究者として学園銃士隊に協力する事は約束しておきました。ヤーゲル銃の銃身とブローチ(ライフリングを刻む道具)をいくつか手に入れたんで、狙撃銃と騎兵銃を開発しますから試し撃ち要員は確保しておいた方がいいでしょう。うふふ。
おっと黒い本音が。ところで、銃身に溝を刻んだライフルって新しい技術だと思ってる方が多いと思いますが、実は違います。前世の世界でもヤーゲル銃というライフルがかなり昔からありました。では、なぜ昔はあまり使われなかったのでしょうか。
それは、装填に滅茶苦茶時間がかかるんで歩兵用としては役に立たなかったからです。こっちが一発撃つ間に相手に二発も三発も撃たれたら戦争になりませんね。したがって主に狙撃や狩猟用の銃として使われてました。
そこで俺は考えた、騎兵銃としてなら役に立つかもと。日本でいう所の騎馬鉄砲、西洋でいう所の竜騎兵に持たせる訳です。銃身の長さをどう決めるかは、沢山の人に色々撃ってもらうのが一番ですし、装填は従者にやってもらえばいいんです。ヤーゲル銃でも何の問題もありません。
やっぱり銃士隊といえば竜騎兵じゃないとね。
どうも放っておくと研究と作成だけで引きこもると思われているのか(事実ですが)、マチアス様とミレーユ様がしばしば遊びに誘ってきます。
マチアス様や銃士隊の面々とはよく狩りに出かけます、狙撃銃の試し撃ちにちょうどいいので喜んで出かけているのですが、彼らにとっても新型銃の試し撃ちは男のロマンなんでしょう、俺の銃を撃ちたがって困ります。
ミレーユ様には晩餐会やら夜会やらお茶やら色々社交の場に誘われます。正式にお付き合いする事が恐らく不可能なんで、男除けにはちょうどいいのかもしれません。いやまあ好きか嫌いかで言われたら間違いなく好きなんですけど、妹の幸せには変えられません。婚約破棄なんてしたら次の相手はランクがとんでもなく落ちるでしょうから。
もちろん学業も忘れてはいけません。ただ、基礎的な学問は前世で終わっちゃってるから楽勝すぎです。魔法工学や化学はもう専門家レベルですし座学は学年トップを維持できてます…すると、試験前に学問を聞きに来る人が増える訳でして…いつの間にやら「お助けアルベルト」の異名が学校中に広がっていく訳です。
生活態度も、研究で泊まり込んで風呂を抜いたりすると屋敷の使用人さんたちが悲しそうな顔をするんで、清潔には気を使いました。そういえば、中世ヨーロッパみたいな世界なのに風呂やトイレはきちんとしてる…嬉しいけど何か都合のいい世界な感じがするのは気のせいでしょうか?
そんなこんなで二年間が過ぎて、三年生になりました。まさかこの一年間があんな事になるとはこの時の俺はかけらも思ってなかった訳です。
入学式後のダンスパーティーで自覚した、私はアルベルトが好きなんだと。
もちろん、お兄様がイザベルさんと婚約している以上私とアルベルトが結婚したりすると政治的に問題があるのは判っている。
彼はまず頭がいい、城の魔法学者達が卒業したらウチで働いてほしいと学園に働きかけているのを知っている。科学者たちも彼を欲しがっていて、転生者の自分より頭がいいのはちょっと悔しいけど、それ以上に誇らしい。
そして彼は優しい。試験対策に彼を頼る人がかなり居るけど、自分の研究時間を削ってでもきちんと対応してあげている。そして、他の人の頼み事より私を最優先してくれるのがとても嬉しい。
彼は強い。力もそうだけど銃の腕は学園一だし、魔法もそれなりに使える。剣の腕は普通程度だけど彼に勝てる人はそうは居ないはず。
顔だって、本人はどうも不細工だと思ってる節があるが本当は悪くない。お兄様や学園銃士隊のレベルが高すぎるだけでかなりカッコいい方だと思うんだけど。そして何より笑顔が優しくて好きだ、いつでも私に笑いかけていてほしいと本当に思う。
けど、諦めなければいけない。それも判ってる…何で他の家に生まれてきてくれなかったんだろう。
実は自分が悪いのも判っている。昔王家と侯爵家の縁談があった時、私とアルベルトが婚約するか兄様とイザベルさんが婚約するか両方の話が上がっていた。私は下手にゲームの記憶があったせいでアルベルトとの婚約を嫌がってしまったんだ。こんな素敵な男の人になってくれるなんて本当に思わなかった。
でも、それは他の人の物になる。ならなくてはいけない。
せめて、学生の間だけは好きでいさせてほしい。この一年だけは好きでいたい、そしたら諦めるから。
今年の入学式、イザベラさんが入学しました。ふと見るとやはりヒロインも入学してました…何かこう、良くない気配というか魔力というかを感じます。私の魔力が高いから判るのでしょうか、アルベルトを見ると彼も気づいたみたいです。後、アルベルトの同級生で学校で2番目に魔力の高い、確かモブさんとかいう方も気づいてるみたい。
この3人が何かを感じるという事は何かあるのでしょう。
ところで、名前がヒロイン・ド・アイエスって…デフォルトの名前そのまんまじゃないの。
入学式後のダンスパーティーでは、いつもの通りミレーユ様が俺の所にやってくる。いつもの事すぎてもはや誰も気にしていない。
「ミレーユ様のおかげで、婚約者が全く見つかりません。このまま独身のままでいる事になったらどうしてくれるんですか」
「アルベルト位の能力があれば仕事を始めればより取り見取りなのは間違いないんで、学生の間くらい幼馴染の男除けをしてくれたっていいじゃないですか」
いつもの軽口だが、ミレーユ様が俺の事を好きなのはちゃんと気付いている。俺もミレーユ様が好きなんだが、マチアス様とイザベルが先に婚約しちゃったからなぁ。父上からは公爵家の長女を2人紹介してもらってるんだが、学生の間は研究に専念したいと断っている。自己欺瞞なのは判ってる、ただ単にミレーユ様と離れたくないんだ。でも卒業したらそうも言ってられないことを二人とも判っている。だからさっきのような会話になってしまう。
「それはそうとアルベルト、貴方入学式の時の変な気配に気づいてますよね」
突然ミレーユ様が話題を変える。
「ああ、何か良くない魔法を使った感じです。公的の場に魔法陣の持ち込みは禁じられているし、身体検査を誤魔化せるとも思えないですが…俺はミレーユ様の左手のソレと同じだと踏んでいるんですけど」
「左手?ああ、変身の魔法陣ね。何か生まれつきの魔法陣が彼女にもあるのね…それなら、先生方が気付いてないのはおかしくない?」
「それは俺も気になりました。モブ君も気づいてるみたいだし、明日にでも彼と話してみます。とりあえず、よく観察して情報を集めておきましょう」
「了解。入学前どうだったかは私の方で調べてみる」
その彼女、アイエス男爵家のヒロイン嬢―モブ君並に前世日本人からしたら酷い名前だな―はあっという間にこのパーティーの主役になっている。あ、マチアス様もイザベルほったらかしで彼女に話しかけている…魔法のせいか?現在解明されている魔法陣に精神的な効果があるものは無いが、生得的な魔法陣だとしたらミレーユ様の変身魔法と一緒で何でもありだからな。とりあえずミレーユ様の調査待ちと、モブ君は観察眼が鋭いから彼の話も聞きたい。
周りの目がヒロイン嬢に集まってるせいでミレーユ様と密着しても気にされないのはちょっとだけ嬉しいが、イザベルを不幸にする訳にはいかないからな。
ヒロインの名前はデフォルトの設定です。話が重苦しくなってきたのでつい小ネタを挟みたくなってw
アイエスはメーカー名ですが、架空の企業です。
これから短編とはかなり変わってきます。オチはネタを増量する予定です。




